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マッチングアプリで好きになった人がアムウェイの人でした



「明日のよる空いてる?おまえのことみんなに紹介したい」

30歳、独身、彼氏なし。
マッチングアプリで知り合った人に恋をした。

はじめて会った日、わたしはその人を好きになった。ひとつ年上で聞き上手で、なんでも話せた。この人ならと心がときめいた。

その人の「彼女」になりたかったから、モテる男友達に相談した。すぐにヤルな、LINEは送りすぎるな、自分の情報を出しすぎず相手の話を聞け、という忠告を守った。

LINEが来るたびに嬉しかったけどなるべくシンプルに返事するようにした。相手からの誘いを断わるときもあった。近すぎず、離れすぎずの距離感。

この恋愛ゲームを攻略したくて、わたしは真剣だった。

作戦が実ったのか、クリスマスイブの日に夜ごはんに誘ってもらえた。お酒を美味しそうに飲み、お店の人とすぐ仲良くなってしまうその人がとても愛しく思えた。手も出されず、わたしを駅まで送ってくれた。

「最高な時間ありがとう」

LINEのその一言に舞い上がった。
恋が進んでいる気がしていた。

でも、何か違和感があった。

会社を経営しているというその人は仕事がとても忙しかった。全国に出張に行っていた。当日に誘ってきたり、予定をドタキャンされたり、時間を変更してほしいと言われることが何度もあった。オフィスのエリアとその人の名前で会社を検索したけど出てこなかった。

2人で飲んでるときに「友達呼んでいい?」と言われたり、デートがサイゼリヤのときもあった。アプリの別の男の人と会うのも、「僕に止める権利はないから」といわれた。好きだと伝えてもはぐらかされた。

男友達にそれは怪しいと言われた。
本命な女をそんな風に扱わないって。
妹にもそんな男やめときなと何度も言われた。

そしてもう一つの気がかりは、
その人がアムウェイというネットワークビジネスをやっていることだった。その人のSNSにそれらしき様子があったのだが、あるとき、アムウェイの栄養剤を食事の前に飲んでいるのをみて確信となった。でも彼には何も聞かずにいた。
(わたしは過去に勧誘されたことがあって無駄にアムウェイの知識がありました。笑)

ネットワークビジネスをしている人に抵抗はあった。


でもそんなこと関係なく、
わたしはその人が好きだった。


そしてとうとうその時がきた。


「明日のよる空いてる?おまえのことみんなに紹介したい。」


仲間たちの集まる飲み会で、彼女でもないわたしを紹介したいらしい。過去の経験からこれは確実にネットワークビジネスのイベントだとわかった。

でも、私は行くことを決めた。ただ理由はその人を「諦めるため」だった。

その人がネットワークビジネスをやっているのも関係なかった。でも、やっぱりこの恋はダメだと思った。会えない時間、私はいつも不安だった。安心感がなかった。好きだけど、付き合ってもきっとわたしは幸せになれない。だから次の恋に進まなきゃと思っていた。


そして当日、その会は薄暗いマンションの一室で行われていた。狭い部屋に20人くらいの人たちがいた。もともと1時間で帰ると伝えていたのだけれど、その気味悪い空間に入った瞬間、わたしは乾杯したらすぐに帰ることを決めた。

その人はそのコミニュティのトップで会を仕切っていた。わたしの様子がおかしいことに気づき、そして獲物が逃げると思ったのか、豹変した。

ありとあらゆる負の感情が入り混じった表情をしていて、見たことのない怖い目をしていた。

「どうした?お前変やぞ。」

「ごめん、わたし、帰る。」

わたしの顔はすごく怯えていたと思う。

その部屋の空気は凍りついて悍ましかった。

帰してくれない気さえした。

「なんか感じたんやな。残念やわ。」

諦めたようにその人が放った言葉が本当に怖かった。

人が豹変するときの怖さを人生で初めて知った。


「やっぱりアムウェイのためだったんだ。」

帰り際、迎えにきてくれた妹を見た瞬間泣いてしまった。男を見る目がない自分が情けなくて悔しくて涙が止めれなかった。

携帯にはメッセージがきてた。

「アムウェイに偏見があるんよな?最後本音の話もできなくて寂しかったです。また会ってくれるならちゃんと話せたらなと思います。」


恥ずかしいが、わたしはそれでもまだその人に会いたかった。この人のいう本音が何かを聞きたかった。

一方的にメッセージを送ってブロックしようとも考えたけど、豹変したその人に文章を悪用されたらこわいと思い電話することにした。

電話の声は何事もなかったかのように陽気なトーンで、それが逆に怖く思えた。

「久々に差別感じたわ。アムウェイに偏見あるかもだけど、言っとくけど、おまえの思ってるアムウェイと俺のやってるアムウェイは全然違うからな!」といつも聞き役だったのに珍しくずっと喋っていた。よほど余裕がなかったんだろう。

ちなみに、わたしはアムウェイが理由で帰ったなんて一言もいってない。

多分、偏見をもってるのはその人自身なんだと思う。アムウェイと知って去っていく人が多すぎて、自覚してるけど、やめるにやめれなくなっている人なんだ。

ちなみにあの人たちはアムウェイの勧誘するにあたって、心理学も駆使して何千人と交渉してきてるので、アムウェイに関する話では完全に論破されてしまう。わたしもだいぶ、あー言えばこー言われました。笑 (断るときは理由なくやりませんと伝えましょう。)

埒があかないから、わたしは恋話に話をすり替えた。

「わたしあなたのことが大好きだったんだよ?」


そう伝えてもその人は「好き」とは言ってくれなかった。というか響いてさえいない気がした。わたしの思いを真剣に伝えても全てはぐらかされた。

それでもわたしは電話を切るのが寂しくて、その人の声を聞いていたかった。

「ねえ、キスしてくれる?」

「なんて???君は本当おもしろいこというな〜。」

嘘はつきたくない性格なのか、あとで話の筋が通らないことが嫌なのか、その人は最後までわたしを安心させる言葉をくれなかった。


「わたしの魅力的なところおしえて?」

「うーん、じゃあ今度会ったらね?」


わたしのこと恋愛対象としてみてない人が、わたしとまだ会いたいらしい。せっかく見つけた獲物と連絡が途絶えるのは嫌みたいで、電話は3時間も続いた。

「あのさ、彼氏できたら連絡してよ!俺ら深い話沢山したじゃん、本当楽しかったし、親友でいれると思うんだ!」

「やだよ。わたしまたあなたのこと好きになっちゃう。」

「は?彼氏いるのに?おまえめちゃチャラいじゃん!好きにならなくてよかったわ!」

頭の悪いわたしでもようやくこの人は私と恋愛する気はなくて、はなからアムウェイのカモとしかみてなかったんだと気づけた。


ーあれは、詐欺だったんだ。

それでもそう気づけたのは2日もたってからだった。詐欺とは言い過ぎなのかな?わたしはなにも取られてないし。むこうは「いいもの」を「いい仲間」に紹介したかっただけなわけだし。

でも、わたしは最後までその人もわたしのことちょっとは好きでいてくれてたんじゃないかと思ってた。

その人が人間力なくて助かった。多分、あの夜豹変しなかったら、電話でわたしを引き止めようとしなかったら、わたしはきっとその人のことがまだ好きだった。その人がわたしに全然気持ちがないことに気づけなかった。

電話を切って、その指で彼をブロックした。


脈ありサインを沢山だしてくれてるはずなのに、違和感があったのは、私は恋愛ゲームを、その人はネットワークビジネスのゲームをプレイしていたからだったんだ。ルール違反ではない。そもそもの設定が違ったんだ。

彼に言われたことがあった、
「経歴とかじゃなくて、俺自身を見てくれる人と一緒になりたい」と。
あのときあなたがもし本音で喋ってくれてたとしたら、わたしはちゃんとあなたのこと好きになってたよ。いくら稼いでるとか、アムウェイやってるとかそんなこと関係なく好きだったよ。


あなたがトップのコミニュティのみんなが心から可哀想に思えた。人を騙してまで、取り込もうとしなくてもいいのに。だからあの部屋の空気は気味が悪かったんだと納得できた。


わたしね、あなたが幸せになる方法を2つ考えてみたんだ。

でも、もう話す機会はないんだろうな。

それぞれの世界で幸せになろうね。
ばいばい。

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