街への愛着はどう生まれる?川崎100周年「自分で見つける」街フェス編集後記
11/9(土)〜11/10(日)川崎市市制100周年を契機として武蔵小杉・新丸子を舞台に行われたイベント「ここすき、こすぎ! あつまれ、こすぎるまちフェス 」。街中に広がるアートやマルシェ、アーティストによるパフォーマンス、みんなでつくった未来マップや散歩の達人とのまち歩きなど、およそ3000人超の“ここすき”が集まり、当日は大賑わいとなりました。
この街フェスについて、チームを牽引した川崎市の町井和幸さんとCampの新田晋也・澤木美奈に、開催にいたるまでのいきさつやプロジェクトの裏話をインタビュー。まちづくりやイベント企画についてのヒント満載。大ボリュームの取材の撮れ高もったいなさすぎてのスピンオフ。街の感じ方を編集・デザインした3人の鼎談です。
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新田 いやあ、ここすばらしいですね。
澤木 「小杉駅北口座り場」ですね。普段は駐車場なのに、2週間だけ憩いの場に変身するという。
新田 UR都市機構さんですよ、こういうことを考えるのは。彼らの考え方、本当に好き。
町井 私も大好きです。URさんは今回のイベントに合わせて、この取り組みを実施してくれたんですよ。
新田 それはそれは。僕たちもこちらでひと息つかせてもらいながらお話をしていきますか。
――はい。よろしくお願いします。今回のイベント、なんだか建てつけからおもしろいなと思って見ていました。川崎市の土木系の部署である町井さんと、これまで渋谷を中心に商業施設などでイベントを仕掛けてきたCampがつくる街フェス。……でもイベントの本題のお話の前に、町井さんに興味があります!(笑)
町井 え? 私の経歴ですか? ……川崎市の役場に入ってから、ずっと土木関係の部署で働いてきました。道路や橋、鉄道、河川、上下水道といったハード面のインフラを整える仕事です。キャリアのスタート当初はサーフィンばかりしていて……実はあんまりやる気のない公務員でした(笑)。
町井 仕事柄、3年ごとに課が変わるじゃないですか。いろんな仕事を経験しながら、出会う人たちも増えてきた。ネットワークが広がってきたんですよね。役所の外の人たちとつながって、やりたいことの道すじがだんだんと見えてくるようになった。そこから仕事がどんどんおもしろくなってきました。肩書が責任あるものになったこともあるかもしれないけど(笑)。
新田・澤木 ぜんぜん知らなかった。でもサーフィンはうすうす(笑)。
――今回のイベントを開催した経緯についても教えてください。
町井 もともとうちの部署は、こういったイベントを開催したことがなかったんです。でも今回、川崎市が市政100周年という節目の年で。市役所を上げて、盛り上げていこうという話になって。僕らも街でイベントを開くことになりました。
――パートナーにCampを選んだのは?
町井 土木課なので、鉄道会社さんともお付き合いがありまして。Campさんがよくいっしょにお仕事をされている東急さんに、紹介してもらったのがきっかけです。もちろん、公共事業なのでコンペになりました。結果は、新田さんの熱い企画書のおかげで満場一致で通過となりました。
――新田さんの熱い企画書……気になります。
新田 僕は川崎市の高校に通っていたんです。いわゆる地元。卒業してしばらくあとも、武蔵小杉の友人の家に入り浸っていた思い出があります。そのころから、このあたりは下町でいい飲み屋の街という印象でした。
企画書については、20年前に通っていたころと今の武蔵小杉が全然違ったことも大きなポイントになりました。現在の街を調べたときに、「タワーマンションが建って便利な街」とか「住みやすい」っていう利便性のことばは並んでいるけど、「ここが好き」とか「いいところ」っていう「愛着」が抜けてないか?って思ったんです。それでまち歩きを中心に添えた、街に対する愛着を醸成するようなイベントにしましょうよって、提案したと記憶しています。
町井 そうそう。それで「住む人すべてに、街への愛着をもってもらいたい」というコンセプトが固まった。ただ、いざ始めてみたはいいんだけど、どう進めばいいかわからなくて。最初、コンテンツをブレさせちゃいましたよね。Campさんに対して、公共事業なので音を抑えてとか、あまり派手なことしないでねって。
澤木 ありましたね。
町井 これまでのCampさんの働きを見ても、大人しめなイベントに向かっていることに気がついて、「もうちょっと“らしさ”を出してもOKです」って軌道修正したんでした。あのときはごめんね。
新田 ああ、それで公園でのスケボー・スプレーアート教室を盛り込んだんでした(笑)。でもその前から決めていたのは「普段とちょっと違う風景をつくること」。普段、遊具と砂場だけがある公園に、キッチンカーやペイントコーナーがある。いつもは禁止されてるスケボーもスプレーアートも。
新田 そこに来る人は、どんな人たちなんだろう? どんな顔をしているのかな? というところからイメージを膨らませていきました。もちろん川崎市さんの抱える不安もわかるので、安心安全に開催するために何度も協議を重ねて。
――こすぎ公園もそうですが、日本医科大学武蔵小杉病院前の緑道にもキッチンカーや憩いのスペースがあって、いつもと違った風景に見えました。
町井 あそこは「公開空地」という、病院の敷地内に設けられた一般の方が自由に出入りできる空間なんです。実は道路には見えない管理者の線があって、道路側は一部川崎市が管理する部分があるんです。
――だから、ああいう風景が可能になっていたんですね。
町井 公園も緑道も「こんなふうに使えるんだ」っていうことを見てもらいたかったんです。いつも通る公園や道にキッチンカーがあって、そこがゆっくりできるスペースになることを住民の方たちが知る。この動きがじっくりと街の文化醸成につながっていくといいなって。イベントを企画するにあたってCampさんにお願いしたのも、街の文化ができるきっかけづくりですから。
澤木 イベントの準備段階から、町井さんをはじめとする川崎市役所の方々はいっしょに動いてくださいましたね。
新田 そうですね。商店会や地域住民の方への挨拶や、中原区にいたってはお住まいのみなさんへ、イベントチラシをポスティングまでしてもらいましたから。
澤木 全戸配布ってやつだ。あれ本当に人が配ってるんですね、当たり前かもですけど。アルバイトさんとかじゃなく、市役所の方が自ら配ってくださっていて静かに感動してました。
町井 そういう地元への説明やご意見をうかがうということは、ずっとやってきたことなので、役割としてね。
編集部注)川崎市役所の人たちは、イベント当日もこの街の今後についてのアンケート配り、住民の意見に耳を傾けようとしていた。
新田 普段関わらない職種の人といっしょになって動けるのは楽しいし、けっこう好きなんです。 川崎市役所の方々と地元の方への挨拶回りをするなかで、町会長さんに芯を食ったご意見をいただけました。「ばらまきは結果出ないからやめたほうがいいよ」と。当初、チラシといっしょにクーポン配ろうとしてたときでした。
澤木 ほかのコンテンツについても、ご挨拶に行った地域の方々は細かいところまで見て、意見をくださって。役所が勝手にやってることでしょ? なんて人は一人もいなくて、参加意識が最初からあるというのが印象的でした。
新田 ただそういう商店会や町会の方々の熱量ある思いが、若いファミリー層に届いていないのかな、っていう課題も見えてきましたね。
――実際に街を歩いたり、人に会っていく中でどんどん街の解像度が上がっていくんですね。
澤木 「まちある㋙ツアー」や「ARようかいスタンプラリー」をつくる際にも、この近辺をたくさん歩きましたね。AR企画は当時Campに入社したばかりの森友紀さんとこのコンテンツを考えたんですけど。いろんな方がいろんなかたちで街を歩いてもらうことで、武蔵小杉という街の懐の深さを体感してもらえるといいよね、って歩きながら話してましたね。
――ほかにも準備の中で苦労した点はありますか?
澤木 これまでCampが手掛けてきたイベントって、「施設の中だけ」とか「この広場で」って場所が決まってたんですよね。それが今回は、普段催し物として使ってない場所も含めて同時にあちこちでやる。決まった場所で開催すると、その施設のマニュアルやルールに則って開催できるんですけど、今回はそもそも前例がない。こすぎ公園のスケボー教室ひとつとっても、どうすれば安全にできるだろう?って考えるところからスタートしました。
新田 今回これまででいちばん、テストケースを出したかもしれないっすね。一つの事例に対して、いろんなパターンを出して、うまくいかなかった場合の想定を3階層用意して。
澤木 「小杉名物のビル風」って住民の方が冗談でおっしゃってたんですけど、じゃあ本当に風が強いときってどのくらいなのか風速計を自前で準備して、「これ以上になったら開催しない」ってルールを自分たちで決めたりしましたね。こういうときに、これまでずっとイベントやってきた経験が活きているなって感じました。
――もともとコインパーキングであるこの場所を期間限定の休憩スペースにするというのは、どういった経緯で?
UR 組織として公共空間づくりの研究に取り組んでいます。町井さんとずっと「いっしょに場づくりをしたいね」っていう話をしてきたこともあり、今回この場所でトライすることとなりました。
――昨今の公共空間って禁止事項ばっかりが並んでいるのに、ここには「できること」が書いてあってうれしくなりました。
UR たとえば、ゴミ箱って今ほとんど撤去されちゃっているじゃないですか。だけど、ゴミ箱ひとつあれば、食べ物を買ってのんびりできたり、場所が使われるきっかけになると思うんですよね。「空間がゴミだらけになっちゃったらどうするの?」を考える前に、この駅前の人通りの多い立地でやってみることが大事。ここで悪い使われ方をしなければ、どこでもできるんじゃないか、それを試してみようっていうのが、この場所です。
――直球でお伺いするんですが、コインパーキングという現金を生む場所をこういった憩いのスペースにすることの意味や価値について、どう思われていますか?
UR おっしゃる通り、駐車場活用で得られる賃料ももちろんたいせつです。ただ、ここで得た意見やデータは、ほかの公共空間にも展開するためのたいせつな「学び」となっていますね。未来のためにあえてお金をかけてやっている、というところです。
UR 2週間継続してやってみるっていうのもチャレンジでして、風が強くてパラソルが開けなかったり、雨が強くて芝を一からはり直したり。続けてやってみたからこそ、見えてくることもたくさんありました。
あとは、この場所を日常利用の場として使ってもらうことを考え、イベント感を抑える意図で、あえて大きく広報や呼び込みをしなかった。なるべくライトに気軽に、まずは利用してもらうための雰囲気づくりも、考えたことのひとつではありますね。
――URさん、ますますファンになりました。ありがとうございます!
――イベント全体からも感じたんですけど、3人の様子を見ていても関係性がフラットですよね。主催と運営がまったくギスギスしてないというか。
町井 そもそも、自分たちのことをクライアントだなんて思わないようにしているんです。はじめての試みですし、最初から教えてもらっている感じ。Slackでのやりとりもはじめてだったので、最初「メンション」の意味がわからなくって、市役所のみんなで調べましたもん(笑)。イベントもはじめてのことだし、我々に「こうあるべき」というのがないんでしょうね。わからないことは全部聞こうっていうスタンスです。
澤木 それを言ったら私たちも、行政の方々とお仕事するうえで不慣れなことが多かったですし。資料とか……。
新田 お互い、はじめてづくしでしたもんね。そのなかで今回は町井さんや市のみなさんの人間性に僕たちはだいぶ助けられたと思っています。
――町井さんって、魅力的ですよね。属人化、よくないのにね。
新田 ほんとうに。でも……いや、僕はむしろ属人化を求めた方がいいと思ってます。再現性が大事なんて言われますけど、「属人的なよさの再現性」が必要。Campにいる人も、みんな何かしら魅力がある人たちだし、これからもそういう人に入ってもらいたいです。
――なるほどね。「この人が好き!」みたいなことがエネルギーの源になりますからね。
新田 ぶっちゃけ、週イチで川崎市に行くのなんてめんどくさいでしょう、遠いし。だけど、町井さんやみなさんが好きだからしょうがない。行くたんびに「打ち上げどうしましょう?」って、飲み会の話ばっかりするけど(笑)。
町井 今回は初の試みでしたけど、成功すれば予算がつく。第2弾についても、Campさんといっしょに考えたいなと思っています。もちろん公募にはなりますが、飲みの話だけじゃなく(笑)。僕はCampさんといっしょにやるプロジェクトの可能性は無限だと思ってるんです。たとえばですけど、ドラァグクイーンとか呼んでもらって、市民と一緒にまち歩きをするとか。
新田 それいいですね! 作家やデザイナー、まち歩きの達人とかおもしろい人たちをゲストに呼んで、街をいっしょに歩いて最後大宴会でしめる、みたいな。
澤木 次はもう少し、ふらっと遊びに来てもらえるコンテンツを用意してもいいかもですね。今回は予約制のものが多かったから。
町井 うん。で、ゆくゆくは継続的にイベントを開催できるようにしたいですよね。予算に怯えずに、協賛や参加費でできるようなことも考えていきたいな。
――「こすぎるまちフェス」の未来に向けた企画会議が始まっちゃいそうなので、インタビューはここまでにしたいと思います! ありがとうございました。
クレジット
取材・執筆:山本梓
撮影:Hide Watanabe、持田薫
編集:横田大(Camp)
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▼もはやレポートというより、ものの見方について示唆に富むエッセイ!