運命の渦~長編小説『フォルトゥナの瞳』より~
先日、歩きスマホをしていた女性(30代)が、電車にはねられ亡くなるという出来事があった。報道によると、踏み切りの外にいると勘違いして立ち止まったのではないかという。
『フォルトゥナの瞳』とは、人の死の運命が見えてしまう瞳。死が迫っている人が透けて見えるという不思議な目を持つ、小説『フォルトゥナの瞳』の主人公。映画化もされた作品なので、ご存じの方もいると思う。
この小説の中に出てくる会話の中に、印象に残ったセリフがある。
北京で一匹の蝶が羽ばたくと、ニューヨークで嵐が起こる。
これは『バタフライ効果』といって、小さな出来事が大きな変化に繋がることがあるという考えのこと。
例えば、詳細は不明だが、冒頭の踏み切りで亡くなった女性が仮に独身だったとしたら、いずれ結婚し子どもを持ったかも知れない。
けれど亡くなってしまったことで、彼女と結婚するはずだった男性の運命も同時に変わり、その男性は別の女性と結婚し、違った血筋の子どもを持つことになる。
また、彼女が担うはずだった仕事も、他の人が担うことになっていく。
本来彼女のものだったポジションが、どんどん他の人で埋められていき、それと同時に他の人の運命も変わり、予定していたものと別の形になっていく。
一個人の死という小さな出来事が多くの人たちの運命を変え、周りに変化を起こし、果ては社会構造にまで計り知れない影響を与えていくという例えだ。
生きている限り誰でも、知らないうちに大きな運命の渦に巻き込まれ、翻弄されていながら、それに気づかずに日々を過ごしているのかも知れない。
ほんの少しの掛け違い・選択で、毎日刻々と変わり続けているのかも知れない運命の渦、螺旋。
フォルトゥナの瞳を持って生まれた者の使命とは?
目に見えない変化していく運命との闘い。
正解のない思考のスパイラルに放り込まれてしまったように感じた不思議な作品だ。