すりかえられた制服 #note墓場
鬱蒼とした森の中に、今は使われていない古い校舎がある。かつては大勢の生徒たちがやって来て、毎日賑わっていた校舎。
その高校の正面玄関をくぐると、目の前にはホールが広がっていた。昼間は明るい陽射しが差し込み、常に人通りがあり、中庭に通じる扉もある広いホール。受験の際など、父兄の待合室として使用されることもあった。
そこで起きた不可解な出来事があった。
あれは忘れもしない高校3年生の秋の放課後。
突然の全校集会があった。
体育館に緊急招集された全校生徒の前で、校長先生の話が始まった。
ちょうどその時期は、受験生たちが親子連れで学校見学に来ていた時期と重なっていた。
そのホールに、学校見学者たちに向けて、学校紹介のパネルと一緒に、新品の制服が展示されていた。見学期間も過ぎ、片づけを始めたところ、展示用に業者から特別にお借りしていた新品の制服が、シミだらけの汚い制服にすりかわっていたというのである。
不測の事態を受けて、校長先生自ら業者に謝罪。事態を重くみて、急きょ全校集会が開かれる運びとなった。
犯人は不明。恐らく内部、つまり生徒の仕業と思われる。普通に考えると、新品の制服を着ている生徒が怪しい。本気で探そうと思えば、犯人を探せそうな気がした。
集会の後、教室に戻る中、一様に驚きの声を上げる生徒たち。
「えー! よくそんな事が出来たね。」
「信じられない!」
「やっぱり生徒がやったのかな?」
「古い制服と取り換えてあったんだから生徒じゃないかな。」
「1人でやったのかな?」
「1人では無理かも。集団でしょ!」
「こんな田舎の学校でねぇ…」
「だけど、どうやって?」
「目撃者が誰もいないなんて事、ある?」
学校中が蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。
犯人は、展示された新品の制服を見て、出来心ですりかえてしまったのだろうか?
黙ってすりかえてしまう事に、罪の意識はなかったのだろうか?
分かりはしないと思ったのだろうか?
元来、盗癖があったのだろうか?
何より、あの広くて遮るもののない、常に人目のあるホールで、白昼堂々と、そんな大胆なことが可能なものだろうか?
まだ高校生が携帯を持っていない時代だったから出来たのか?
数々の疑問が浮かんでは消える。
事件の記憶だけを残して…
犯人は、今頃どうしているだろう?
バレなくて良かったと思っているだろうか?
それとも、良心の呵責を抱えているだろうか?
そんな出来事自体、忘れてしまっただろうか?
闇の中の真実は、遂に謎のまま。
それから数年後…
時代は変わり、すべてが新校舎に移った。
日当たりの良いホールがあった旧校舎は使われなくなり、放置されて久しいと聞く。
少子化で、生徒数も減った。
以前は、道路の上に架かる橋が、分散して建てられていた校舎を繋ぐ役目を果たしていた。
しかし、今はあの橋を渡ることはない。
旧校舎は閉鎖され、橋の向こうに打ち捨てられた。
かつての学び舎に入ることはもう出来ない。
そこで起きたすべての歴史を秘めたまま、鬱蒼とした森の中に、無人と化したその校舎は、今もひっそりと佇んでいる。
あの未解決事件の真実を知るホールには、晴れた日には今も明るい日射しが届く。すべてを白日の下にさらけ出すように。
雨の日には、数多の滴が大きな窓ガラスを伝う。悲しい罪を洗い流すように。
コチラの企画に参加させて頂きました。
人の心の闇に迫ってみたつもりです。ホラーというよりミステリーになってしまいました。