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浅酌低唱:「被災日本酒蔵 共同醸造支援プロジェクト」に際して

1月1日に震災の報道を知ったとき、昨年9月に大手町で開催した日本酒イベント「若手の夜明け」にも参加してくれた鶴野酒造店 (能登町鵜川)の鶴野晋太郎さんと薫子さんの顔が思い浮かびました。同じ石川県の吉田酒造店 (白山市)の吉田さんに連れられて昨夏に訪れたその町はのどかで海が近く、「地震」「津波」の文字がNHKの画面を覆うのを見たときには動悸が激しくなったのを覚えています。古い蔵は倒壊し、津波にさらわれてしまうのではないか。そんな最悪のシナリオばかりが頭の中を回りました。

2023年5月5日にも大きな地震があった能登半島で「谷泉」を醸す鶴野酒造店はこれからの蔵として、同世代のリーダー的存在である吉田さんの推薦があり、イベント参加の御縁となりました。そんな鶴野さんたちにとって、9月のイベントは打ちのめされたイベントだったと言います。全国の同世代の醸造家たちの酒のクオリティ、そして蔵元同士でお互いにフィードバックしあった利き酒会のレポートを読みながら、自分たちの実力の無さを痛感したと言います。当時の蔵は5月の地震もあり古い建屋が傾くなど必ずしも良好とは言えない環境ではありましたが、兄妹の強い結束と気持ちによってこれから谷泉を新たに全国、世界で闘っていくことを胸に秘めていた矢先の震災でした。

「若手の夜明け」は2007年から全国の蔵元たちによって紡がれてきたイベントで、それを2022年に引き継いだ私に与えられた課題は、縮小し続ける日本酒市場をどのようにすればV字回復できるのかということでした。新たな飲み手が増え市場が拡大するには、新たな飲み手を増やす造り手が増えなければいけないという想いで弊社は「若手の夜明け」を始め様々な事業を推進しています。そうした目標に対して、今回の大規模な震災によって鶴野さんを始めとした能登の醸造家たちの火が消えようとするのを看過することはできませんでした。

しかしこれほどの大きな震災になると、一民間企業ができることも、一消費者としてできることも限られるというのが実際です。酒蔵が全壊し地盤が液状化し、地区全体が壊滅的な被害に見舞われたとすると酒蔵の再建には3〜4年、ともすると7〜8年かかってしまうのではないか。そうした場合に、自ずと減ってくる興味関心と義援金だけでは酒蔵の再建は見込めないのではないか、本当に意味のある酒蔵支援とはなんだろうかと考え、東日本大震災で被災した酒蔵の蔵元たちに連絡をしてその当時の状況などを聞くことができました。

そうした内容が反映されているのが今回のプロジェクトです。私も実際に被災地に足を運んで改めて感じたのは、「酒造り以外にやらなければいけないことがあまりに多すぎる」ということでした。自身が被災したにも関わらず、インフラなどの事情により災害ボランティアの受け入れが開始できない状態では若き造り手たちは避難所の働き手であり、また同時に被災した土地に訪れる不届き者を監視する自警団でもあります。そんな中で、自社の口座に振り込まれた義援金をもとに、酒造り再開に向けた酒蔵再建の計画をゼロから立ち上げて国や自治体の補助金や銀行からの融資を検討するというのはほぼ不可能に近いのではないか。それならば、廃業してしまった方が気が楽なのではないか、そうした気持ちになるのも無理はないと思いました。

今回の共同醸造プロジェクトのポイントは、(1) 仕組みであること (2) あくまで選択肢であること (3) 酒造りのことだけ考えていれば良いこと、の3点です。地元にいれば他に考えなければいけないことがあまりに多い状況において、このプロジェクトに乗っかっているときは酒づくりのことだけを考えていれば良い、そうした時間であり存在でありたいと思っています。そしてこうした全国の酒蔵による共同醸造の仕組みが回ってくれば、自然災害の多い日本において義援金とは異なる新たな支援の形が目指せるのではないかと思っています。Makuakeというクラウドファンディングのプラットフォームを利用して、より多くの方々が中長期にわたって支援ができる仕組みをつくり、その間の銘柄の流通とキャッシュフローを止めないことで再建計画の信用とし、産業としての日本酒市場の復興計画の一助となればと思っています。

Makuakeプロジェクトは3ヶ月単位で、およそ1年半ほど継続していく予定です。その間、被災した蔵は全国の蔵で共同醸造を続け、経営再建に向けて委託醸造・販売を続けながら国や自治体、金融機関と連携して復興後の未来を描きます。私たちはそのすべてにずっと寄り添うことはできないかもしれませんが、こうしたプロジェクトが少しでも酒蔵の再建に意味のある形となればと思っています。ダウンサイドを見ればキリがない中で、このプロジェクトではアップサイドを見ていくことで自分たちで未来を創っていく希望のあるプロジェクトとなればと願っています。

「被災日本酒蔵 共同醸造支援プロジェクト」運営事務局
camo株式会社 カワナ アキ 

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Makuake 「能登の酒を止めるな! 2024春」販売ページ
期間 2024年 1月31日 (水) 15:00 〜 4月28日 (日) 18:00
URL  https://www.makuake.com/project/noto_sake1/ 
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