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福田酒造を訪ねて(長崎県平戸市)

長崎県平戸市志々伎町、人口が400人にも満たないこの小さな町に『福田』『福鶴』を醸す福田酒造はあります。かつてオランダとの貿易が栄えた城下町の平戸からさらに西へ車で40分。日本武尊の御子・十城別王(ときわけのみこと)が神社に祀られている志々伎山を登ると眼下には五島列島を望み、漁港には高級食材であるクエやヒラメ、ウチワエビなどが水揚げされる、海の幸に恵まれた美しい町です。

15代目蔵元の福田竜也さんは弟の信治さんと「平戸の海を表現するようなお酒造りをしていきたい」と言います。長崎県は交易の窓口としてポルトガルやオランダから砂糖を日本に広めた、いわゆるシュガーロードの発端ということから、当初は甘口のお酒を作ろうと思っていたそうですが、より地元らしさを表現するお酒を考える中で、東京湾の濁った海を見たときに平戸の海の美しさを思い出したと言います。そこから「透き通るようなきれいなお酒を作りたい、海の波しぶきや泡が立つ様子をお酒でも表現したい」と思うようになり、現在は火入れのお酒でもガス感のある酒質を目指しています。

海の要素を取り入れたお酒を考えるにあたり、竜也さんは奈良県御所市で『風の森』を醸す山本さんとの対話を思い出すそうです。清酒発祥の地と言われる奈良県の正暦寺では、奈良県内の蔵が集まり伝統的な製法である菩提酛(ぼだいもと)でのお酒を毎年仕込んでいます。菩提酛は生米を水に浸け乳酸発酵させた酸性の液体「そやし水」で酒母を仕込むのが主な特徴ですが、そこに正暦寺由来の乳酸菌を使うことでさらに色濃く土地性を表現しています。

現在、福田さんは長崎県工業技術センターと連携し、平戸の海の乳酸菌を取り入れる方法について研究しています。透き通ったきれいなお酒という酒質の方向性だけでなく、微生物の発酵という観点でも平戸を表現してみたいと研究に意欲的です。

また原料へのこだわりという点では、10年ほど前より自社田での米作りを行っています。地元の友人が半農半漁で米作りをやっているのを見て楽しそうだと思ったのがきっかけですが、実際にやってみると「楽しいどころかとにかく大変だった」と言います。それでも米作りを続けるのは、米やお酒の出来栄えによってその年の四季や気候を思い出すことができるから。自然に囲まれた平戸だからこそ、自然は恵みでもあり脅威でもあります。

そしてより自然な米作りのために無農薬栽培も始めました。土の中に入ってその感触を確かめたり、田んぼに虫が戻ってきたりするのを見ると、この自然環境をどう守って次世代に継承していくべきなのかを考えると言います。

また福田さんは、クリアできれいなお酒を実現するための技術的な投資も行っています。昨年は酒造機器メーカーであるKPD(キクプランドゥー)の製品を取り入れ、お酒を搾ってから出荷するまでの工程を見直しました。お酒のフレッシュな風味を守るためになるべく酸化させない垂壺や、最適な火入れを実現する半自動瓶燗器「ヒートリード」は、目指す酒質に近づくための大事な投資となりました。

(左:弟の信治さん、右:兄の竜也さん)

無農薬での米作り、生酛造り、そして平戸の乳酸菌を活かしたお酒造りなど、福田さんの飽くなきチャレンジは続きます。クシャッとした笑いジワが印象的な福田さんですが、その内に秘めた想いは人一倍強いものがありました。今年、福田酒造はブランディングをリニューアルするとのことで、新しい福田酒造の取り組みから目が離せません。

福田酒造株式会社
長崎県平戸市志々伎町1475番地
Web: https://www.fukuda-shuzo.com/
Instagram: https://www.instagram.com/fukuda.brewery/ 

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