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日本酒の市場規模を10倍にしようとしたら、150日酒蔵を撮影して過ごすことになった

日本酒の市場規模はワインの0.7%

ブームなんかじゃない

「日本酒ブーム」という文字は毎年のようにメディアで散見されます。が、実はそんなことはまったくありません。日本酒の生産量は1973年をピークに当時の3割以下にまで減少していますし、現在稼働している酒蔵の数も1970年頃に比べて3分の1以下の1,000程度です。
これは一体どれくらいの規模なのかということを、ワインとの比較で考えてみましょう。ワインの情報検索&マーケットアプリで世界に6,000万人ユーザーを抱える「Vivino」のデータを参考にしてみます。すると、ワイナリーの数は全世界に24万箇所あり、ワインの登録数も年代別などに分かれてはいますが1,500万種類あるようです。日本酒1,000蔵が30商品ずつ造っても30,000商品ですから、その生産量の規模の違いにも圧倒されます。

日本酒の市場規模は縮小の一途

次に、市場規模を比較してみましょう。帝国データバンクが2017年に発表した調査によれば、日本酒メーカーの売上高を足し算するとおおよそ4,416億円で、日本酒の専門店である流通の大手が年商50億程度。足し算して5,000億円くらいだと言えそうです。
一方ワインは、数年に一度市場の成長予測が出ていて、コロナ後の推定で2028年には$456B (67兆円)に成長すると言われています
日本酒に関する数字で唯一数字が右肩上がりである輸出額も400億円程度で、フランス1カ国が輸出するワインの1.5兆円と比べて雲泥の差があります。

もちろん、市場規模がただ大きければ良いと言うつもりはありません。ですが、こうした統計データから日本酒業界が縮小しているだけでなく、規模そのものも小さいことは明らかです。もっと市場が大きくならないと、日本酒に関わる人たちが幸せになれないと、僕は結論づけています。

守りの姿勢が衰退を生む

市場規模が縮小していく中で、酒造りに関わる人を短期雇用にしてコストを下げる、利益率を圧迫する原価構造や流通構造のビジネススキームから抜け出せない。そうした結果、廃業の危機に陥る。そして市場全体が落ち込む。こうした負のサイクルから抜け出せないと、どうしても隣の芝生が青く見えてしまいます。その結果水面下で起きているのは、みんなが成長しようという盛り上がりではなく、注目されているところを羨むような、時に足を引っ張るような、そうした悲しい現実が見えないところで起きています (これには原因があると思っており、それはまた別の記事で論じます)。これでは、業界全体の発展は見込めません。

日本酒市場は、新しい市場を開拓し、消費需要を喚起し、生産量を国内外で増やしていくべきです。そうすることで、日本酒の流通量が増え、日常的に日本酒を目にするようになる。食卓に、レストランに、酒場に、日本酒があることが当たり前の風景になる。そうでなければ、日本酒市場はこれから衰退していくのみです。

僕ら現役世代はこれからの30年、これまでとは全く別のやり方で、この市場を10倍にしていかないといけないと思っています。

ください、から、あげます、のベクトルの変換

日本酒の市場を10倍にする。そんな大風呂敷を広げたところで、2019年の僕は一体何から手を付ければ10倍になるのか、およそ検討がつきませんでした。

とにかくデータがない

そこでまずは 日本酒版「Vivino」のような飲んだ日本酒の情報を管理できるアプリを作ってみようとしたのですが、いきなり壁にぶつかりました。アプリ内で表示するデータがないのです。蔵の情報、酒の情報、そうしたものが本当にない。あっても、僕のような得体のしれない新参者には提供してもらえない。

これまで得体の知れない業界外の者に協力して嫌な思いをしてきた過去のある蔵が多いのも事実なので、今となっては気持ちはわからなくはないのですが、とにかくデータが手に入らないことで途方にくれてしまいました。

倉渕カメラマンと出逢う

そんなときに出会ったのが、『情熱大陸』や『アナザースカイ』などの様々なドキュメンタリーやドラマでカメラマンを務めた倉渕宏幸さんでした。彼に出会い、突破口が開けました。2020年、倉渕さんの「とりあえず行ってみましょうよ」の一言で新潟と福島に撮影に向かいました。そこで越銘醸花泉酒造会津酒造の3蔵を撮影。その映像を持って、いろいろな方から紹介を受けながら、様々な蔵を訪れて撮影の相談をしました。


『情熱大陸』のディレクターを務める和田萌さんに「倉渕さんはただの実景を作品にする」と言わしめるほど、倉渕さんの映像はとにかく美しいのです。日本の様々な場所で自然や人の営みと共存している酒蔵、そしてそこに息づく人々の風景を映像資産として残していくことは、その蔵にとっても、業界にとっても、そして世界でそうした映像を心待ちにしている人たちにとっても意味のある活動だと感じています。


とにかく撮影して回る

それから、酒造りの時期には倉渕さんと二人で全国の酒蔵を撮影で回るようになりました。これまでに訪れたのは、57の酒蔵と4軒の酒販店。それぞれ2泊3日程度の滞在になるので、3年間のうち150日ほどを撮影で一緒に過ごしていることになります。

訪れた蔵に対しては、「撮影の協力をしてくれたら、映像・写真は差し上げます、経費はいただきません (制作費はすべて弊社の持ち出しで撮影します)」と伝えています。この形式は永続的なものではありませんが、弊社の投資と考えてやることにしました (誤解のないように書いておきますが、撮影・編集費、渡航費は倉渕さんのShot Shot株式会社にはもちろんお支払いしています)。

COVID-19は少し追い風に

2020年当時はCOVID-19の流行もあり、オンラインでの販促ツールとしての映像の価値が高まっていたことも興味を引くきっかけになったと思います。撮影をきっかけとしてに多くの蔵の皆さんと繋がることができました。
無償で撮影することは、Clandと酒蔵との関係性を変えました。最初に苦労していた「アプリを作りたいから、データを下さい 」というアプローチが、「撮影させてください、素材は差し上げます」に変わったことで、提供する・されるのベクトルが180度転換したのです。協力は格段に得やすくなりました。

もちろん純粋に理念に共感してくださった蔵もたくさんあるので、無償だけが協力の理由ではありません。しかし、我々が酒蔵を訪れる理由、明確に提供できるメリットができたことは大きかったです。

本当はここでまとまる予定でしたが長くなったので、次回は、映像制作がなぜイベント「若手の夜明け」へとつながっていったのか、について書きます。

その他の動画はこちらから


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