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選挙制度改正後初の区議会選挙 街に広がる異様な選挙ムード 

[香港 2023年12月8日]
2023年12月10日は、香港の地方選挙にあたる区議会選挙の投票日です。街では各候補者がラストスパートを掛ける中、スピーカーで演説する候補者よりも政府の投票を呼び掛ける「選挙広告」の方が多く見かける異常な光景が広がっています。

選挙自体を宣伝する「選挙広告」が街中に

これまでも政府による投票を呼び掛ける広告がありましたが、今年の広告はまさに「史上最多の数」と言っても過言ではありません。
街中のいたるところでも画像のような政府広告が張り出されていて、政府管理の施設のみではなく、ショッピングセンターの壁、道路脇の柵、高速道路の広告スペースなど一般の商業スペースを使って広告を打ち出しています。

候補者広告より多く張り出されている「選挙広告」(筆者撮影)

今回が選挙制度改正後初の区議会選挙のため、投票率の低下には制度改正自体を否定する見方が広がっています。そのため、政府側は選挙予定を大々的知らせることによって、投票率の低下を回避する狙いがあるとみられています。

尖東(ツィムサーツイ・イースト)にある歩道橋、「選挙広告」が橋の両脇を埋め尽くしている(筆者撮影)

全く盛り上がらない選挙ムード 公務員を強制動員

政府により「選挙広告」で投票日の認知度は結構上昇したと思われますが、他のメディアの指摘通り、そもそもこの選挙自体民主派が参加してない(できない)ことが盛り上がらない一因になっています。

2023年区議会選挙の主な変更点
・「愛国者による統治」の原則に基づき立候補資格の審査を行う
・452人あった直接選挙枠を88人まで減少
・「地域委員会枠」を新設し、176人が特定有権者によって選出される
・残り約四割の枠は行政長官が委任する

この立候補審査では《基本法》を擁護するか、政府へ従順であるかなどの審査が行われ、実質的に民主派候補者を排除し、青(建制派・親政府派)一色の選挙となりました。
この盛り上がりのなさに政府は懸念していて、各省庁のトップ官僚が連日候補者より露出し、投票を呼び掛けています。

その中一部メディアでは公務員は全員投票に強制参加させられると報じられ、公務員管理局はそれを否定をしています。
だが筆者の取材では公務員の実質強制投票はあったと回答を受け、事前に有権者がどうか確認され、業務期間中は特別休暇扱いで投票に行かされると聞きました。さらに公務員には「優先入場券」が与えられ、列に並ばなくてもよいように便利を図られている。
しかし、一部公務員の間ではこの「優先入場券」の使用有無で投票したか判断されるのではないかと恐れていて、投票するかは個人自由と言われているが、昇級に影響が出かねないので投票するしかないと話していました。

若者に興味がない候補者 投票率の低下は不可避

前回行われた区議会選挙(2019年)では、香港史上最多の投票率71.23%を記録し、民主派の圧勝と言う結果となりました。
そこにはこれまでに少なかった若者へのアプローチや、もしくは若者自身の政治参加があり、まさに「百花斉放」そのものでありました。

しかし、今回の選挙制度の改正では建制派(親政府派)が圧倒的有利となり、民主派が完全に排除され、競い合う活気もなくただの出来レース選挙となってしまいました。
また、制度の変更により民主的要素が減ってしまった今回の選挙は、まさに「民主化の後退」となり、候補者の戦略も中高年の有権者に集中する昔ながらのスタイルに戻りました。

筆者が所在している選挙区では、四名の候補者がいるが、四名ともに建制派の政党に属しているか、関連組織と関係がある候補者となっていた。
2019年の選挙では候補者が若者に力強く呼び掛けるシーンが多くみられたが、ここ数週間ほぼ自分の所在する選挙区の候補者本人をみることなく、チラシを配るボランティアも若者に声をかけることなく、ターゲット層である中高年のみアプローチしていました。

筆者の親族に配られた候補者名入りのカレンダー(筆者撮影、選挙期間中のため一部加工して掲載)

2021年選挙制度改正後の立法会(国会相当)選挙では、投票率が30.20%まで落ち込み、イギリス時代の1991年立法局選挙以来の最低投票率を記録しました。
最近起こっている移民ブームによる有権者減少や新移民の増加を考慮すると、今回の選挙はこの数値を下回ることはないかもしれません。
だが、それは決して選挙改正が成功したとは言えず、香港から人が離れて行っている時点政策が失敗していると断言します。


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