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量産型?地雷系?


 イコラブという人たちの曲がいいと知人に勧められたので、YouTubeで探して聴き始めた。曲はどれもアイドル音楽であったが、私は10年くらい前、SKE48というアイドルグループのファンをしていたので、アイドルの音楽を聴くことに全く抵抗がなかった。

 それで聴きながらイコラブという人たちの情報を確認していると、かつてAKB48にいた指原莉乃さんがプロデュースをしているという。確かに48に通じるようなところもあるけれども、もっと軽妙なところもあったりして、なるほどカッコいい。

 彼女たちの曲のなかに「しゅきぴ」という曲があって、彼氏のことを歌っているのだが、馴染みのない言葉が随分たくさん出てくる。たとえばAメロの冒頭から「「量産型」言わないで」という歌詞ではじまっていて、「量産型」というのは一体どういう意味かと知人に尋ねたところ、それはよく分からないと言われてしまった。

 量産型というのは、通常は電化製品やロボットなどに対して使用される言葉である。そう考えると、量産型と言わないで、というセリフは、私を工場で大規模生産されるかのように言わないで、という意味と考えられ、余計にどういうことかが分からない。

 困った時は検索エンジンという機能を使って調べると良いので、量産型という単語で検索をかけてみると、驚くべきことに、量産型というのは、ある特徴をもったファッションやメイクや髪型などをしている、ひとまとまりのクラスタについて指した言葉であると知れた。

 量産型は、桃色、白、黒を基調としたリボンやレースがたくさんついたような服を着て、厚底の革靴を履き、巻き髪をしているような女性の格好らしく、確かにしばしば歌舞伎町などでそのような格好の20歳前後の女性が、お父さんと思しき人と歩いているのを見たり(親孝行が流行っているのだろうか)、SixTONESという人たちが大写しになった街頭写真の前で、量産型の女性同士がお互いをスマホで写し合っている様子をみかけることがある。

 これに対して地雷系という人たちもいて、量産型と似てリボンやレースがついた服と厚底の革靴を履いているのだが、白と黒が基調であったり、目の周りを赤く塗ったり、髪の毛を左右で縛ったりしている。先日トー横でみた少女たちも、どちらかといえばこの地雷系の格好をしているように思われた。

 ところでなぜ地雷系というネーミングなのか。紛争地帯などで地雷処理を請け負っている専門職にありがちな格好だと私のように思ってしまう人がいるかもしれないではないか、と文句を言いたくなるが、そうではなくて、人間存在そのものが「地雷」のような人がしがちな格好、という意味らしい。つまり、ふだんは静かだが「踏む」と「起爆」するという性格的特徴を持っているのが地雷系という言葉の起源なのだと思われる。

 さて、量産型と地雷系に随分詳しくなった私は「しゅきぴ」の続きを聴き始めた。Aメロの冒頭からこの調子だと、4分30秒しかないMVを見終わるのに6時間くらいかかってしまうのではないかと思われたが、分からない言葉はそのままにして、ひとまず最後まで聴くことができた。

 この曲の主人公は地雷系女子で、実際にイコラブの皆さんは地雷系の格好をしているのだが、彼氏(=すきぴ)が外出したり、モデルをSNSでフォローしたり、付き合いで飲んでいて帰ってこなかったりするたびに情緒が不安定になって「すきぴ」を連呼する。その連呼がサビの歌詞になっている。

 つまりこれは俗に言うメンヘラ的な葛藤を歌っており、そう考えると、「量産型」と「地雷系」は似て非なるものだが、「メンヘラ」と「地雷系」はかなり近似したクラスタなのではないかと思われた。

 ここで私には「ボーダーライン」という医学的な概念が連想されたが、それは安易な感性の開き方かもしれないという感覚を持ったので、連想にとどめ、別のことについて考える。

 それは指原莉乃さんの歌詞の素晴らしさである。1番、2番のサビではイコラブの皆さんが「すきぴ」と連呼するのだが、大サビではセンターの佐々木舞香さんが「あああああっ」と絶叫したあとに「すきぴ」が「しゅきぴ」という歌詞に替わって歌われる。

 なぜ「すきぴ」が「しゅきぴ」に替わるのか。それは、退行しているからである。

 なにかストレスを感じた時に、退行≒幼児返りをするという形で自分の心を守るというタイプの人々がいる。例えば、いつもはキリッとした大人の雰囲気を漂わせているのに、ちょっとわがままになったり人懐っこくなったりするような、さりげなく、傍目には分からないような微妙な幼児返りをする人から、明らかに幼稚園児のような言葉遣いになってしまう人までいる。

 退行に関していま思い出したのはドラマ「半沢直樹」である。ものすごい形相で銀行の不正を暴いたり人に土下座をさせたりして一日中叫んでいる半沢が、家に帰ると「はなちゃ〜ん」と急に弛緩した表情になって妻にデレデレになる、というシーンが、私の妄想でなければしばしば挿入されていた気がするのだが、あれは退行して心を楽にしているわけである。

 そういう意味で、異性との関係でどんどん退行して、LINEが全部赤ちゃん言葉になってしまう、という地雷系の方をしばしば日常生活で目にするが、あの現象を、感覚レベルで指原さんはキャッチしていて、しかも曲の中で退行していく様を描いたというのがものすごいと思ったのだ。

 とても格好いい曲なので、みなさんもぜひ見てみるとよいのではないでしょうか。



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