開発者と呼ばれる皆さんへ
今日は元カメラ開発者として、今だから語れる開発の仕事の進め方のお話しをしようかなと思います。
「偉そうに、どの程度の奴やねん!」
と思うでしょうから、簡単に自己紹介します。
カメラ開発一筋に33年間従事してきました。精密機械設計、光学メカ設計を中心に、カメラ機構はほぼ全て経験して製品化し、最終的には開発責任者として製品開発、要素開発、製品・技術ロードマップ作成まで主導してきました。
出願特許約300件、登録特許約100件あります。
読んでくれている方の中には業界は違えど、製品開発者もおられるでしょう。特に嗜好品の開発者に少しでも参考になればと思います。
製品開発者の醍醐味と言えば自分の作りたい製品を形にすることだと思います。
しかし、事業責任者と言われる上層部の望む物と、自分のやりたい事が一致するとは限りません。
専業メーカーの上層部であれば、育ちが一緒ですから、まだ理解されやすい場合もあります。
それでも経営責任の観点から新しい挑戦には難色を示すものです。
一方、総合電気メーカーだと、そりゃまあ悲惨です。
自分のやりたい事を提言し、上層部の理解を得ることに仕事の9割をしめます。
これは、私が専業メーカーも、総合電気メーカーも、両方経験した経歴からの感想です。
カメラ業界は、少しばかり他の業界と事情が違っていて、非常に特殊な側面があります。詳しくは、歴史から語らないと、理解され難いのですが、長くなってしまうので、別の機会に詳しくするとします。
その特殊な側面ですが、カメラのお客様は滅茶苦茶保守的であり、愚直な進化を最も望んでいます。
かと言って、イノベーションが無いと自社ファンからも叩かれ、雑誌にも叩かれ、全く売れないという小難しい業界ということです。
ですから、総合電気メーカーでは、歴史から始まり、なぜ保守的なのかの説明資料まで莫大に作成し、理解してもらう事に努めました。
でも、総合電気メーカーは新しいイノベーションが大好きで、それが何よりも大切になり、愚直な進化なんてどこ吹く風です。常にフルスイングしようとします。
一つの要素開発を完成させて、それを小出しにして、長く戦うという、フィルムカメラメーカー同士の戦い方をぶち壊してくれました。
お陰様で老舗カメラメーカーの苦労は大変なものでした。
このような業界、業態において、開発者たちが、どのように自分の作りたい商品を企画に乗せて、発売まで漕ぎ着けるのか、その手法のひとつを伝授したいと思います。
※カメラや写真は( )に入れて書いています。ご自身の開発製品名に置き換えて読んでください。
専業メーカーでの開発の場合
まず、専業メーカーでの取り組みをお話しします。
専業メーカーですから、お偉方も(カメラ)業界は理解しています。ですから、自分のやりたいことが、どういうお客様の琴線に触れて、どういう(写真)文化に貢献できるのかを明確にする事が最も大切です。
その結果、これくらいの事業貢献ができるという資料を作成して説明します。
ただ、頭の硬い、保身上司ではなかなか首を縦に振りません。
こういう時は、味方を作ることです。
あなたがとんでも無く変な人間でない限り、理解してくれる人が必ずいます。
特に大きな提言や企画を通したければ、頭の硬い上司の上の人間を味方につけてください。
そして、時間をかけて頭の硬い上司に説明しつつ、その上の方に状況説明を行い、助言をもらって下さい。
そのうち、必ずその上の方からの協力が得られます。
私の経験談として、ある機種の企画が
通らず頭の硬い上司に、
「いつまでやってんねん。さっさとやめろ!」と言われました。
その時、取締役に相談し、逐一状況を説明していました。最後の最後に、
「あいつら勝手にやらせておくように」
と、全社にメールを流してくれました。
総合電気メーカーでの開発の場合
さて、総合電気メーカーではどうするか。これはほんとうに大変です。
ほとんどの上層部も、開発者も(カメラ)を開発したくて入社しているわけではありません。配属先がたまたま(カメラ)の開発をしていただけです。
私の場合は、訳あって総合電気メーカーにヘッドハントされて転職しました。いくらヘッドハントされようと、現場の開発者には実力を見せつけなくては信頼されません。
5年間はガムシャラに開発し、設計し、標準化活動し、工場での教育も行い、莫大な開発設計資料を作成しました。
そうすることで、開発者たちはほぼ全員信頼してくれましたし、一部の上層部を省けば、話をちゃんと聞いてくれるようになりました。
ただ、総合電気メーカーで出世するのは
会社の色にどっぷり染まった人が多いですし、事業の長が、全くの畑違いから突然やってくる事も5年に一度の恒例行事ですから、苦労は絶えません。
さて、そんな中でどうやって自分の作りたい製品を通すかです。
まずは、開発者仲間から洗脳します。笑
すでに信頼は得ていますから、やはり(カメラ)業界の歴史から、自分のやりたい事がいかに必要であるかを訴えます。
そして、大切なポイントが2つあります。
1つ目は、開発者の協力を得ることです。要素開発ネタに落とし込んで、一緒に開発することに興味を持ってもらい、アングラ開発で、ある程度目処をつけていきます。
そして、やりたい製品のフィジビリティを上げる事です。
2つ目は、企画の信頼を得ることです。企画者は自身で開発していないので、新しいネタを持ってきてくれる人は非常に貴重な存在です。
ですから、ネタを持って行き、単にネタ提供だけに留まらず、有効な製品ラインナップに紐付けて説明する事です。
これも数年は続けて下さい。
そして、腹を括って提案します。
もちろん全責任は自分が持つ覚悟です。
ただね、
責任なんて結局誰も取れないんですよ。
そんなことより。責任持って仕事をするかどうか、それが全てと私は思います。
さて、いよいよ上層部の説得ですが、上層部と日々のコミュニケーションを取っておくことが非常に重要になります。
上層部は業界を熟知しているとは言えない事がほとんどですから、多少辛口でも提言をしていく事で信頼を得る事が出来る場合があります。ダメなものはダメとはっきりいう事も時には必要です。
まあ、嫌われない程度にですが、こればっかりは人によります。保身の強い人にはあまり言わない方が良いかもしれません。私はちょっとミスりました。笑
専業メーカーの時と同じように、その上の人間を捕まえて、理解してもらうことは、余程の親交が無い限り、諦めてください。その上がもっと酷いことの方が多いと思います。
そして、時間をかけて、強い気持ちで提案を続けて下さい。開発者が皆味方である事を信頼して、助言してもらえるように動きましょう。
決して「言ってくれ」なんて言わずに、言いたくなるように持っていってください。そのうち、頭の硬い上層部も、周りの意見も聞きつつ、理解してくれる可能性があります。
ただ、悲しいかな(写真)文化なんてどうども良く、儲かるかどうかが彼らには何よりも大切です。
事業試算は徹底的にやって証明しましょう。単機種でダメでも、将来的な話も含めてやって下さい。儲からないと、まず箸棒ですからね。
具体例は話せたら追々話したいと思います。笑
どうでしょうか。
開発の仕事の進め方の参考になりましたか?
これで失敗しても責任は取れませんので
良く考えて行動して下さいね。笑
企業で開発するという事
大きな会社で開発する事って、1機種に10億ほどのお金を使って開発できる醍醐味でしょう。
起業家さんたちからすれば、「でも、見入りは少ないやん」と思われるでしょうね。確かに世間一般並みの生活しかできません。
しかし、自分の開発した嗜好品である商品がお店に並び、気に入って買っていってくれる。そして、使い込んでそれぞれ自身の表現をしてくれたり、大切な思い出を残していってくれる。
私はそれを誇りにやってこれました。
ん?お金は欲しいけどね。笑