新参競馬ファンによる舞台ウマ娘感想
まえがき
そもそもウマ娘というコンテンツ自体が競走馬の擬人化???みたいなところから始まりましたが、なんだかんだ私も慣れ、実際の競馬場にも足を運ぶようになり、立派な(?)トレーナーとなった2023年1月、ウマ娘の舞台化???ともうちょっとどんなものか全然わからない(でも事前情報見た感じ面白そう)と観に行った舞台でしたが、めちゃくちゃ面白かったよという文章です。なお最後の方はケイエスミラクル(史実馬寄り)に対する新参競馬ファンの感想文です。
ウマ娘の舞台化???
これは見る前は本当に見当もつきませんでした。レースとかどうするんだろう?舞台上で全力疾走はさすがに無理だろうし……などと思っていました。
が、しかし舞台上ではしっかりとレースが展開されていました。素晴らしいタップダンスとカメラワークまで意識された演出で、レースの盛り上がりがしっかりと再現されていました。これは言葉ではなかなか上手く言えないというか、見てみないとわからない舞台独特の演出だったと思います。タップを軸としたパドックの演出も素敵だったなー。さらに言えば枠入り(通常競馬は奇数枠→偶数枠の順に入る)やそれぞれの脚質を踏まえたレース展開、コースの特徴(右回りや左回り、勾配)の細部まで再現されていたので、あれはもう競馬でした。これをやり遂げる演者の皆さん、相当大変だっただろうな。めちゃくちゃ凄かったです。
あとはウイニングライブについて。最初に実況解説の方から丁寧なディレクションがありましたし、毎回映像でガイドしてくれたので、どこでペンライトを使えばいいのか非常に分かりやすくてよかったです。ウイニングライブに参加するの楽しいね。
メインキャラクターについて
ウマ娘は史実ベースなのである程度決まった話ではあるんですけど、その軸に対するドラマの作り込みが激アツで、そのドラマを盛り上げてくれるのは魅力的なキャラクターなんですよね。私は大抵箱推しになりがちなのですが、今回もメインキャラ4人皆好きになっちゃったな。
・ダイタクヘリオス(山根さん)
本当に舞台初挑戦だったんです?どこまでもまっすぐで明るいダイタクヘリオスとして舞台を引っ張ってくれていたと思います。時に地面に這いつくばったりするコミカルな演技も楽しかったです。全く別の感想ですがちょうどヘリオスを育成してたので、俺の愛馬がみたいな気持ちでちょっと見てた。
・ヤマニンゼファー(今泉さん)
ヤマニンゼファーは史実でも最後のスプリンターズステークスしか出走してなくて、なかなか難しい役どころだったと思いますが、要所要所で舞台を締めていてくれる存在でした。ミラクルのことを心配しているのが率直に伝わってきて、観ている側としては共感しかなかったです。
・ダイイチルビー(礒部さん)
歌が上手すぎる。歌いだしの一声目からバチッと決まるのは本当にすごかったです。ダンスもキレッキレで、特に本能スピードがめちゃくちゃカッコよくて惚れてしまいました。普段の所作のひとつひとつはとにかく優雅で、もう完全にダイイチルビーでした。
・ケイエスミラクル(佐藤さん)
とにかく安定感がすごい。落ち着いた声がとても良かったです。演技の端々からケイエスミラクルの優しさ、健気さが伝わってきて泣いていた。ミラクルについては長くなるのでこの後に書きます。あと見に行った時も配信の時も、佐藤さんのカーテンコールのコメントが完璧すぎて本当にすごいなと思いました。(ジャンプが高いところも好きです。)
ストーリー~ウマ娘が描くIF~
人間は多分どうしようもなく「もし」に惹かれてしまうものなんじゃないか。もうどうにもならない、あり得た可能性を空想しては一喜一憂したりする。それは競馬ファンだって例外ではなくて。例えば100回走れば99回、その馬が勝つかもしれない、でもこのレースで何が起きるかはわからない。だから競馬は面白くて、今の歴史というのはそのたった1回きりの試行の積み重ねで作られている。
だからこそ考えてしまうことがある。もし…天候が違ったら、違う枠を引いていたら、道中の仕掛けがちょっと早かったら…実はほんの些細なことであのレース結果は変わってしまって、あの馬が勝ったのではないか。もちろん確定した過去は変えようがなくて、変えようがないからこそむしろ我々はその「もし」を追い求めてしまう。
ウマ娘というコンテンツは度々、そのIFを見せてくれる。
あの馬があのライバルと直接対決をする。あのレースを勝つ。この世界では起きなかった出来事を起こすことができる。史実をモチーフとしながら、時にこのIFを提供してくれる、これはウマ娘コンテンツの魅力の1つだろう。
そして多分競馬ファンの「もし」の究極は、あの馬が生きていたら……だろう。競馬というのは過酷な側面があるのも事実で、非常に残念なことにレース中に命を落とす競走馬も存在する。今回の舞台ウマ娘でメインキャラクターとなっていたケイエスミラクルもその1頭で。
事前に史実馬の情報を頭に入れていたので、舞台のストーリーを追いかけながらもケイエスミラクルについては内心すごくハラハラしながら見守っていました。彼女の痛いほどの優しさ、周囲の期待に応えて結果を出したいという想い、裏腹に顧みられない自分自身。まるで決まった運命に突き進むような彼女を、観客であるところの自分は無事に帰って来てくれと願いながら見守ることしかできなくて。
だけどウマ娘同士にはレースというコミュニケーション手段があって、そこでしか伝えられない、伝わらない想いがある。
走ることそれ自体が好きで楽しくて、だから君と走れるだけで嬉しいというダイタクヘリオスのシンプルな想いは実はウマ娘たちの根本なんだよな。だからダイイチルビーやケイエスミラクルにしたって、使命とか皆のために走る以前に大元にはきっと嬉しさや楽しさがあって、ヘリオスの底抜けの明るさがその根本を否が応でも照らしていく展開が素晴らしかったです。舞台の終盤、マイルCSからスプリンターズステークスへの繋がり、史実を踏まえたダイタクヘリオス→ダイイチルビー→ケイエスミラクルへの想いのバトンのつなぎ方が上手くて唸ってしまいました。
そして最後に見せてくれたIF、ヘリオスやルビー、ゼファーの想いが届いて起こした3度目の奇跡に観客である自分の思いも届いたような気がして泣いてしまいました。観客はたしかに期待をかける存在であるけれども、でもやっぱりなによりも無事であってほしいんだよな…
ちなみに史実はこの東スポさんのnoteを読んでください。ドラマチックなダイイチルビーの物語がよくわかります。
ゼファーの記事もあります。
新参競馬ファンとケイエスミラクルの話
以上で書いてきた通りこの舞台はとても素晴らしかったですし、そしてなにより舞台のおかげでケイエスミラクルという存在を「知る」ことが出来て本当に良かったと思うのです。
ダイタクヘリオスやダイイチルビー、ヤマニンゼファーくらいは耳にしたことがあるものの新参競馬ファンの私は、この舞台化が発表されるまでこの馬のことを全く知りませんでした。私はウマ娘から古い競馬を辿り始めましたが、まだインターネットも黎明の30年前、重賞勝ちは1つ、走っていた期間はたったの8ヶ月となるとなかなかこの馬までは行きつけなかったのです。
しかしこれはある種競馬の宿命かもしれなくて、競走馬は年間約7000頭生まれ、中央競馬のG1レースも今は24レース(平地のみ)あって、最高峰の舞台ですら出走する馬は何百頭にもなる。そんな中で血統表や人々の記憶に残る馬なんて本当にごく一部で、レコードを何度も出して輝かしいライバル達と競ったケイエスミラクルのような馬でさえ、知る人ぞ知る存在になってしまう。
だからこそこの舞台で、ウマ娘というコンテンツのおかげで、私が約30年前の熱いドラマを、短距離界を懸命に駆け抜けた存在を知ることができたのは、とてもかけがえのないことなんじゃないか。舞台化発表の後、史実馬のミラクルの情報を求めてたどり着いたネット掲示板には往年のファンと思われる人から「(今回の舞台化で)忘れられないでよかった」とコメントが付いていて、本当に素直にそうだよなと思いました。
歴史的名馬ダイイチルビーが最も輝いた1991年のシーズンはケイエスミラクルがあっという間に駆け抜けた8ヶ月でもあって、この時代を描こうとしたときにケイエスミラクルの存在を拾ってくれて、もう一度2023年の舞台上に蘇らせてくれて、そして3度目の奇跡を描いてくれて本当によかったなあと思います。
この感情は、もしかしたらどこまでも勝手な人間のエゴ(私は競馬というスポーツがどうしようもなく人間のエゴだとも思っているので)かもしれないけれど、レース前、全馬無事に帰ってきてほしいと願うように、これはきっと「祈り」に近いんじゃないか、とも思います。
舞台ウマ娘素晴らしかったです。関わった全ての方々ありがとうございました。
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