《写真の保存修復を考えてみた vol.11》~写真の劣化3~ by タケウチリョウコ
今日3月16日の誕生花は「クチナシ」です。花言葉は「とても幸せです」「優雅」だそうです。
庭にクチナシの木があるのですが、窓を開けると微かな香りが部屋に広がり、朝の心地よい目覚めを運んでくれます。
こんにちは。タケウチリョウコです。
今回は前回記事の続き「写真の劣化3」の「化学的劣化」である黄変と退色に注目します。
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黄変(おうへん)は英語でYellowing、退色(たいしょく)は Fadingと呼ばれています。
fig.1のように写真画像、また白地の部分が黄色や茶褐色に変化する現象が黄変です。写真下段の2枚の写真に比べ、赤で囲った写真が黄色に変化している事が分かるかと思います。
fig.1 private collection (Yellowing)
そして画像の濃度が低下し、fig.2のような状態を退色と言います。
fig.2 private collection (Fading)
【黄変と退色の劣化プロセス】
硫化または酸化によって引き起されると考えられている。現像処理工程で使用する定着液の主要成分であるチオ硫酸塩は、仕上がった写真の中に多量に残っていることは許されない硫化化合物である。そのチオ硫酸塩は硫化物に分解し、これは銀画像と反応し、黄変と退色の発生を引き起こす。
この分解は環境条件に関係し、高温高湿条件下で急速に進行する。定着液が疲労していると残留したチオ硫酸銀塩が写真の白地に若干のステイン発生を伴いながら、画像の退色や褐色への変色が引き起こされる。硫化による黄変や退色は、残留薬品だけでなく、大気や包材に含まれている硫化物など、外的要因によるものも多い。
銀画像は酸化によって変化を起すことも知られている。実際には銀の酸化プロセスには湿気の存在が必要で、これに大気(大気汚染)や包材からの外気汚染、写真に近接した接着剤が関わっている。金属銀は酸化されて銀イオンとなり、そしてそれは銀そのものとは全く異なった特性になる。イオン状態は無色であり、移動しやすく、大変反応性に富んでいる。銀イオンはもとの銀粒子から放射状に移動してしまい、もとの銀粒子がより小さい粒子群に壊れていくにつれ、光を吸収する能力が減少してゆく。画像の光学特性は実際の粒子の粒径、形状、そしてお互いの間隔の程度によって大きく変わるので、画像は黄変と変褪色の両方を起す*1。
*1:「写真の劣化メカニズムと環境因子の重要性の概説」James M. Reilly (訳河野純一)日本写真学会誌第 54巻 第4号 1991年 pp425 引用
上記では変色にも触れていますが、劣化は様々な要因が複合的に働いている場合が多いです。
そのため、薄い黄色から褐色に変化したものも黄変と判断されることもありますし、変色と判断されることもあるでしょう。
劣化を断定する事はとても難しく経験が必要になります。
同様に、劣化の要因を究明することも難しいです。黄変や退色の場合、現像処理過程での定着や水洗の不適切な処理や、後天的な保存環境による影響など、どの要因がきっかけで劣化が生じるのか判断が困難です。
しかしながら、この劣化は銀塩写真に非常に多く見られます。適切な取り扱いや保存をせずに放置すると画像の損失にも繋がる場合が多いので、このような写真がお手元にある場合は対策を取る必要があります。
実のところ、私の祖父が残してくれた写真たちのほとんどに黄変と退色が確認されました。
fig.1と2は写真が非常に小さく約3×5cm程度のものですが、祖父自身が現像処理を行ったようで保存状態があまり良くありませんでした。小さい写真のため、比較的簡単に制作出来たこと、そして当時はあまり保存の意識もなかったことから、適切な処置をしなかったのではないかと推察します。
この黄変や退色に関する研究の参考文献をご紹介します。
*参考資料:
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カラー写真の変色や退色も非常に興味深く、祖父が残してくれた写真の中にも、色調がマゼンタに変色しているものがありました。
正確に言えば、シアン色素が退色してマゼンタが強調された状態になっていると言えます。
カラー写真については、またの機会にじっくり探って行きたいと思います!
次回は「写真の劣化」の続き、生物的劣化であるカビに注目します。
それでは4週間後にまたnoteを見に来て頂けたら嬉しいです。
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