入浴委譲 | 毎週ショートショートnote
夜、一人の男が帰り道を歩いていた。
閉店間際の銭湯の横を通り過ぎようとすると、
銭湯の入口から飛び出してきたマスク姿の男が絶叫した。
「おい、お前!これ以上進むな!死ぬぞ!」
「な、なんだ?」
「俺は公安の爆弾処理班だ。銭湯に入ろうとした瞬間に連絡が入った。
この先に爆弾が仕掛けられているそうだ!」
「本当かい!?」
「俺が行って爆弾を解体してくる。ここは危ない。
入浴委譲するから銭湯に入って中で待ってろ!ほら入浴券だ!急げ!」
マスク男にまくしたてられ入浴券を受け取った男は、
状況が呑み込めないまま半ば狂乱状態で銭湯に飛び込んだ。
全身を洗い、綺麗になった姿でマスク男が帰ってくるのを待っていたが、
彼は戻ってこなかった。
その頃マスク男はある家のチャイムを押していた。
家の中から出てきた中年女性に彼は言った。
「任務完了です、いやぁ…臭かった」
彼はマスクを外した。
「半年も風呂に入っていなかった出不精の息子を銭湯に入れてくれて助かったわ!」
(410文字)
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