見出し画像

甘夏の肉離れ | 毎週ショートショートnote

「逃げろォ!」

必死の形相の先生に背中を押され、
死に物狂いで逃げ続ける。

私たちは追われている。

オレンジ色の断面に覗く切れ長の口元。
ぬらぬら光る鋭い牙で不気味に笑う甘夏の大群が、
人間を捕食しようと迫ってきている。

「ぐぁっ!」

最後尾で私たちを守っていた先生が倒れこんだ。

『先生!大丈夫!?』

「こんな時に肉離れかよ…畜生!
お前ら!俺に構わず早く逃げろ!」

甘夏が迫ってくる。

「…!」

駄目だ、先生は食べられてしまう。
そしてそのうち私たちも…


甘夏は地球を征服したが、主食の人間が消えてしまい、
今度は甘夏が滅亡の危機を迎えた。

〈首長、このままでは我々は滅びます〉

酸っぱい顔の甘夏の長は悩んだ末に答えた。

〈仕方ない。肉は諦め、今後は野菜を食べましょう〉

その映像を見て、地下シェルターから歓声があがった。

『さすが先生!甘夏が肉離れを起こすまで
地下に避難することを考えるなんて!』

「あの時、肉離れを起こさなかったらこの作戦は浮かばなかったよ」

(410文字)


たらはかにさんの企画に参加させて頂いております。

お題はこちら。

#小説 #ショートショート #毎週ショートショートnote #甘夏の肉離れ






いいなと思ったら応援しよう!