山岳カルマ | 毎週ショートショートnote
「山にも隠れ家があるんだなぁ」
上級者ルートの中腹に、ひらがなで書かれた看板があった。
山小屋の名は【皆の裏店 よく来たね】。
「こんな場所じゃお客さん来ないでしょ?」と広志は汗を拭う。
「そんなことないですよ。
お客様のような上級者に来て頂けるのでやっていけます」
背中で笑う老人。
「マスターも山がお好きなんですね」
「えぇそうです」と垂れた眉で柔和に笑う老人は、冷蔵庫から瓶ビールを取り出し広志の席へ置くと、古びたエプロンから特徴のある栓抜きを取り出した。
その栓抜きを見て、広志は青ざめた。
「おや…この栓抜きに見覚えがありますか」
温厚な老人に眼光がさした。
「お、俺が…」
「山で死んだ娘が握りしめていました。あなたが美奈を殺した」
老人はビール瓶で広志を殴り殺し、
裏口の崖から突き落とした。
カルマの清算が終わった。
小屋に戻った老人は【みんなのうらみせ よくきたね】と書かれた看板の下に美奈の「せんぬき」を置き、自分も崖から飛び降りた。
(410文字)
「文学トリマー」と「山岳カルマ」。
語感が似ていたので、2つのお題を作品で繋げてみました。
広志が文学トリマーを持っていれば運命は変わったのだろうか。
たらはかにさんの企画に参加させて頂いております。
#小説 #ショートショート #毎週ショートショートnote #山岳カルマ
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