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記憶冷凍2 | 毎週ショートショートnote

極寒の夜にアキトに振られた。

刹那、息が止まり、
ようやく吸った冬の匂いが鼻を抜けて脳内を急激に冷やした。
その日から私は人を好きになることをやめた。


冷凍された記憶。


こうすれば辛さが芽吹くことは二度とない。

アキトの友人のカズマには悩みをよく相談していて、今日も居酒屋にいる。
「もう誰とも付き合わないの?」とカズマ。

「わたしにはもう恋愛は必要ないかな」

「確かにアキトはいい奴だ。
でも、ミキが辛そうな顔をしているのは俺も辛い。
ミキは本来明るい人間で、いるだけで周りを幸せに出来るんだ!
元気出せよ!」

「暑苦しいのはカンベン」

私はそう言ってビールをあおった。
口の周りに残った苦い泡を乱暴に袖で拭った。

「もう一軒行こー!」

店を出て、少し酔った私は後ろからカズマの背中を平手で叩く。

「ミキ」

カズマが振り返った。顔がほんのり赤く、それでいて真剣な顔で私を見た。

「俺はミキが好きだ」

「…は?」

体が熱くなり、記憶が急速解凍モードに切り替わった。

(410文字)


温もりはすぐそばに。

#小説 #ショートショート #毎週ショートショートnote #記憶冷凍

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