ニコライ堂の鐘
先日、大学のサウンドスケープフィールドワーク授業でニコライ堂の鐘を聴き、その後、ニコライ堂の聖堂を拝観した。
お茶の水を象徴するひとつであるこの鐘の音は、古くは映画「暖流」(1939)や「愛情の都」(1958)でも登場するが、これはあくまで演出用の鐘の音である。
-1939年公開 吉村公三郎監督『暖流』より-
高峰三枝子扮する大病院の院長令嬢の志摩啓子と、病院の経営危機を救うべく奮闘する若き実業家日疋祐三は、口には出さぬがお互い恋心を抱いていた。しかし啓子の幼馴染の看護婦・石渡ぎんが日疋に恋していることを知り、静かに身を引く。ニコライ堂近くの喫茶店で、日疋をめぐる啓子とぎんのやり取りの場面で、ぎんの告白を聞いた啓子の表情とセリフに、ぎんは啓子もまた日疋に恋をしていることに気づいたのだった。そのことに気づいたぎんの顔のアップ、そしてそれを受けて日疋への思いを断ち切る決心をした啓子の悲しげな表情を映したあと、ニコライ堂が大映しとなり鐘の音が鳴るのである。(1:41:19~)それはまるで「利他の心」を象徴するかのように印象に残る。やがて、鐘に重なってショパンの「別れの歌」が選曲されている。
今年、NHKの朝ドラ「寅に翼」において、主人公の通う学校近辺でニコライ堂が盛んに登場し、こちらは本物の鐘の音(予鈴)を使用していた。音効担当の立場にたてば、『暖流』のあの場面では、ニコライ堂本来の鐘の音色は重々しく、特徴がありすぎて使いづらいかもしれない。本当の鐘の音を使うことがいつも正しいとは限らない事例だろう。