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おしばな

こんにちは。
薄墨というものです

お出かけでたまたま訪れた場所で、押し花展をやっていました。
地域の押し花を趣味とされている方が作った、押し花の絵を展示しているようで。
面白そうだったので、覗きに行きました

完全に趣味の方たちの発表会であるようで、警備などもない、無人の展覧会。
入り口に、来館した人が記名できる冊子が、ペンと一緒にぽつんと置かれています。

展示されている作品は、どれもかなりの完成度。
押し花を取り入れた様々な押し絵が並んでいます。
風景画だったり、人物画だったり、押し花メインの植物画だったり…、絵の種類も多様です。

それにしても、押し絵って不思議です。
『押絵と旅する男』なんて有名な小説がありますが、実際に押し絵をじいっと見入ってみると、小説に描写されている、独特の押し絵の不気味さが、なんとなく分かる気がします。

どの絵も、額縁に収められていて、平面的なもののはずなのに、よくみると、紙と額縁の間に少しの立体的な膨らみが見つかるんです。

作る時に台紙に押し付けられた、和紙や花は、薄っぺらくなりながらも、僅かな厚みを持っています。
それが、押し絵の中の人物の頬をふっくらさせたり、模様や風景の奥行きをやたらにリアルに感じさせたりしているみたいです。

まるで、各々の世界が額縁の中から、一斉にこちらを見下ろしている気がして、私は飽かずに、ゆっくりひとつひとつ、絵を見てまわりました。

私が一番気に入ったのは、「光る君」の影響でしょうか、平安貴族の女御たちを描いた、ある押し絵でした。
いつもの記憶では筆の、のっぺりした姿をしている彼女らの頬も、やはりふっくらと厚みを持っていました。

十二単の一番上着の着物には、透きのある紙が使われていて、その透きのある部分に、同じ色をした花びらが、柔らかく織り込まれていました。

じっと見つめていると、ふと、その花弁が動きました。
花びらが、ひらりと透きのある紙の中を泳いだのです。

それは10センチにも満たない、小さな隙間でした。
その中を、花びらは窮屈そうに身を捩りました。
ひらり、と花びらが水の中の鰭のように、緩やかに波立ちました。

ああ、綺麗だな、としみじみ思いました。
押し花は、花の命を閉じ込めて保管しているのだな、とも思いました。

花は体を捩っていました。
それは優美で気持ち良さそうにも、窮屈で哀しそうにも、見えました。

しばらくしてから、静かに絵から離れました。
冊子を開いて、名前を書き入れて、それから、押し花たちを邪魔しないように、そうっと出て行くことにしました…

…以上、ふらっと寄り道をした時の話でした。

この記事について

ここまで読んでくださった方にネタバラシ。
この記事は、半分創作の創作されたブログです。

ここでも創作をしたいけど、短編小説だと他アプリで書いているものと変わらない。
せっかくなので、noteならではの形で、なんか創作が出せたらなあ…と考えて、こんなものを作ってみました!
「創作」「小説」のタグもつけて公表しておりますが、もし問題点などあれば消去、編集しますので、ご指摘いただけると幸いです!

蛇足

自分の手書き文字って気になりませんか?
私は字が上手ではないので、とっても気になります。
特に名前を書くときなんかは、もう何回も嫌というほど書いているはずなのに、なぜか思うように書けなくて、自分の下手さが気になってしまいます。

しかも。
今回の話に出てきた記名冊子の横に置かれていたのは筆ペンでした。

横には達筆な文字での連名が…

こんな気軽に記名してもらうための冊子。
字の美醜なんて気にしていないのは承知しているはずが…

現実には、上記のようにスマートに書くことはできず、開いてから何度も迷いました。
結局、なるべく丁寧な字で書いたんですけどね。
それでもなんか、子供っぽい字だなあ、と、ちょっと自分の文字にがっかりしました。

こういう時、ボールペン教室とか硬筆とか書道とか、やっておけば堂々と記名できるんだろうなあ…
ちょっとほろ苦く、そんなことを思いました。


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