世界最大の古書の街 ー神保町
ーもうこんなに涼しくなっていたのか
あなたはあの肌にまとわりつくような湿り気を懐かしみながら電車を待っていた。
10月初旬、残暑も薄くなり、知らない間に空気にきりっとした緊張感が増していた。
ーさて、神保町はどうやって行くんだろうか
すでに最寄りの駅に着いているにも関わらず、あなたはスマホを取り出してグーグルマップで行き方を調べる。
バスが一番早かったのか・・・と一瞬後悔するが、結果電車が一番安いことに気づいて、まあいいか。とルートをなんとなく頭の中に入れてスマホをポケットに戻す。
ー今日はスマホを見ずに行ってみよう
あなたは、インスタグラムで『#神保町古書店』と検索したいと思う気持ちをぐっと押し殺した。
最近のマイブームである「非効率を楽しむ」を思い出す。
スマホが見れない、という意識をしただけで一瞬、不安に襲われた。
本当に神保町にたどり着けるのか?
今日を楽しめるのか?
見どころに行けずに損をするのではないか?
という小さな不安。
ーああ、ここまでスマホに依存しているんだなあ
あなたは駅のホームで電車を待つ人々を眺めながらしみじみと思う。
みなスマホを片手に、首を前に倒して画面を見ている。
暇を持て余して周りを見渡したあなたと目が合う人は誰もいない。
ただ小さな不安とともに、ふつふつと思い出される子供のような冒険心に少し心が躍るのを感じていた。
・・・
さてこんな不安も、私が今日一日で体験した出会いを思い返すと「スマホを見なくてよかった」と言うことができて、とても安心している。
今日はノープランで神保町ぶらぶらしてきました。
なぜ今回「あなた」を主語にスタートしたのか。血迷ったわけではありません。(いや、血迷っているかもしれません。)
下を読むとわかります。
・・・
神保町古書店マップを手に入れようと神保町出張所に寄った時に出会った警備員姿のおじいちゃん。
歩くのもトボトボなのに一緒にマップを探してくれてありがとう。
お目当てのマップは見つからなかったけど、大きな地図版で一生懸命説明してくれたおかげで楽しく回れました。
出張所に行ったおかげで見つけたベンガル料理店。
ベンガル料理はインド~バングラディシュにかけての野菜ふんだんの料理らしい。ひとつ賢くなった。
「PASSAGE by ALL REVIEWS」の一日店長さん。
こちらが少し迷惑そうな顔をしていたのに、絶えず話しかけて熱心に本の話をしてくれてありがとう。笑
「あなた」「きみ」という2人称を主語にした新作。又吉直樹さんら5人の短編ストーリーを終結した作品を熱く語ってくれました。
「あなた」が主語に置かれることで、直接語りかけられているような、自分自身がその作品の中に入り込んでいるような不思議な感覚にさせてくれる作品だ、とのこと。
買わなかったので自分が書いたらどうなるのかなと、少しの好奇心から今日の書き出しを決めました。
※『palmstoriesあなた』著・津村記久子、岡田利規、町田康、又吉直樹、大崎清夏
村上春樹のデビュー作『風の歌を聴け』にてラジオで手紙を読むシーンにも2人称で語りかけられる魅力があるそうで、店長さんは嬉々としてそれを語ってくれていた。
ありがとうございます。今度読んでみます。
※『風の歌を聴け』著・村上春樹
東京堂はとにかく広かった。楽しい本屋だった。ここら辺から疲れて体が曲がり始めていた笑
さて、最後に
初めて古書店に入った感想は・・・
ーうん、わからん。
残念ながら、私は古書を楽しむだけの教養がまだ足りなかったらしい。
ただ、それぞれの店舗の店中に広がる本のにおいを嗅いでは「ああ、古い図書館の狭い通路みたい」という感想をこぼしていた。
自分としては十分に楽しかったのだが、第三者から見れば拍子抜けであろう。
古書店の方々に正直申し訳ない気持ちも1mmくらいある。
ただ、無造作に地面から積み上げられた古書の山や、大正なのか昭和なのかわからないほど昔のポルノ作品集や、道路に直接陳列された本棚を見てまじまじと感激した。
日が暮れてきたころに「PASSAGE by ALL REVIEWS」へ戻り、気になっていた本を1冊購入した時にあの1日店長にこう尋ねられた。
ー初めての神保町はどうでした?
私は答えた
ー1日では回り切れないということが分かりました。
店長は何といえば言いか、少し困った反応をしていたが、私は誉め言葉のつもりだった。
全然まだ神保町の魅力を感じ切れていない。
歴史と知識の海の底をじっとあなたは見つめながら、その底知れない暗闇に目が慣れるのを待つが、今はまだ何も見えてこない。
あと30年くらい生きていたら見えてくる日が来るのかなあ。
もう一度行きたい場所になった。