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上州武尊トレランレースでの救助
大好きな作家。坂口恭平さんの本を読んでいて、気に入った文章を枕元のノートに書きなぐる。
「困っていたら、助けたらいいじゃんと軽い気持ちでやっているだけ。そうすると本当に愛情がめぐりめぐって戻ってくる。『無償で助け合うこと』これが生き物がいきのびてきた最大の技術。お金も愛情もどんどん回した方が生活が豊かになる。やればやるほど豊かになる」坂口恭平、その日暮しより。
さて本題。先日のトレランレースでのこと。138km、10000mアップという内容。群馬県川場村で行われた第10回上州武尊トレイルランニングレースにエントリー。このレースは自分は初めての参加で何かびびっていた。このレースを知ったのはともにTJARを目指している長野県松本?安曇野?のトレイルランナーのぐんそうさんからのオススメ。トレイルで100km以上なんてはじめてだったし、獲得標高10000mというのも未知だった。だからとにかくびびっていた。
前回のディープジャパン80kmでも夜中の山の上の方は風がびゅーびゅー吹いていてとても寒かった。汗冷えした身体にあの強風はしんどい。だから今回はラッシュ30というデカいザックにナノパフ(ライトダウン)と長ズボンを持っていくことにした。
大会前日竹村さんと3年ぶりに再会。自分がはじめてトレランの大会に出た3年前の野沢温泉4100Dで佃直樹君を介して松山優太さんとか竹村さんとか知り合いになれた。それ以来の再会。翌日のスタート地点では「優勝やね!?」とか声かけたらほんとに優勝しちゃった。あらためてすごい人だと思った。
土偶連の仲間ハラケイにも会った。レース前日会場をウロウロしてて、「必携品のチェック、ココヘリだけっすよ!」「まじか!?俺なんかポイズンリムーバー、ネットで買ったぞ」とか「参加賞がキムチ鍋のもとって??」とか2人でわちゃわちゃ盛り上がる。ハラケイはお金セツヤクで車中泊するらしく、自分は前泊の宿の民宿福寿荘へ。
ここでは相部屋予定だったんだけど、夕食後も相部屋相手の榎本さんは現れず。いつくるのかなーいつくるのかなーと六畳一間でソワソワ。
夜7時すぎて流石に電気消して寝たかったから(翌日は朝4時スタートだから朝3時起き)福寿荘のおばあちゃん女将に「すいません、相部屋の人来ないんすけど、電気消して寝ていーすか?」とハナシする。
女将「いーわよ。もうこないから夕食もさげちゃったし、もし来たら違う部屋ブチこむから」とのこと。
なんでぃ。最初からそーしてもらえればヤキモキしなかったのに、などと思いつつも7時半には就寝。福寿荘、いい宿でした。夕食は豪華で盛りだくさんだし、瓶ビール無料だし、女将はなんか雰囲気あるし。一泊2食付き7000円です。オススメです。
レース当日朝、キリサメのような雨がふる。女将が作ってくれた朝ごはん弁当(おにぎり2個、漬物、タコさんウィンナー、きゅうりの一本漬、OSワン500ml、ポカリ500ml)をRUSH30にぶち込み、いざスタート会場へ。
スタート前、しんごちゃん(都立戸山高校アメフト部後輩)と野辺さん(去年の小海を一緒に試走して、去年の小海完走した人)とも再会し、ごにょごにょ喋ってスタート1番前へ。
レースの安全を祈念する神主さんがいてホラガイ、ボエーというのと「アンソロソロホワカー」とか呪文を唱えてもらう。神頼みは大事です。
時間になるとスターターのおじいちゃん?がいきなり「はい!!スタートぉー。」といきなりスタートの掛け声。「え!?今!?」みたいな感じで戸惑いながらスタートする。
何人くらいいただろうか。300人?400人?自分はもうゆっくり行きたいので、みなさんに抜いてもらって、自分のペースで行くことにした。けど走れるところは走る。まだ序盤で元気だしね。
それでも第一エイドまでは遠く感じた。スタートから13kmすぎたとこあたりかな。ここで民宿福寿荘のおにぎり弁当を広げて地面に座って朝ごはん。女将ありがとうございます。でもさすがにきゅうりの一本漬まではたべきれない。
天気は小雨が続いているが、動いていれば寒くはない。むしろ走っていれば暑く感じるくらい。衣服も汗で濡れていたと思う。
スタートから2時間が経っていて、朝6時だったのを覚えている。こっから剣ヶ峰という最初の山に向かう。登りはシングルトラックというか、登山道。追い抜くとかは前のランナーが譲ってくれないとムリという感じ。
標高が上がっていくにつれて、風がビュービュー吹いてきて、汗をかいた短パンTシャツじゃ寒くなってくる。自分は寒いのが我慢できなくて、ナノパフを取り出して着ることに。ナノパフ着るのも道狭いし、風ビュービューだし、苦労したのを覚えてる。
剣ヶ峰の頂上からちょっと降ったあたりで10人くらい?スタッフが見えた。「ここから足場悪いでーす」「気をつけてくださーい」と声かけをしている。
確かに道は険しかった。雨でスリッピーだったし、とても走れるようなところではない。
自分は安全に備えて、ザックから軍手を取り出して、いつでも手をつけるように支度を整えた。レキのポールはナゾに硬くって3つにたためなくなってしまっているので、片手で持って、もう片方の手はフリーにしながら進むことにした。
ところどころで選手の渋滞ができていて、みんなで声掛けながら、下っていたと思う。「危ないですねー」なんて言いながら。
そんな中、前方のランナーから伝言が回ってきた。「頭部から出血のランナーがいます!後ろのスタッフに回して!!」と。
自分も後ろの人にその内容を伝え、伝言がどんどん後方に回っていく。
この下りで転んでしまったのだろう。頭から出血ってやばくねーか。。と思いながら先に進む。
伝言が、あった箇所よりだいぶ先の方でケガしたランナーと、声をかけて励ましてるランナー(ナイスガイタイシュウこと、林泰州さん)ともう1人止まって見守ってるランナー(三田さんサンダさんとよむ)がいる。
ケガされた人をみた時、自分はもうこれ何か、ただ事じゃないなって一目で感じて。スルーできなかったんすよね。何か自分にできることはないか?って思って。レースどころではないって直感で感じたんす。(別にこれはスルーした人をヒハンとかそういうわけじゃなくて、あくまで自分がそう感じたってコトなんす)
あと正直自分あまり練習できていないのもあったからレースしなくてもって気持ちもあったかもしれない。レースに対するモチベも低くかったかもしれない。あとレース前ぜんそく気味だったから自分の母ちゃんがやたら心配してて、「辛かったらやめなさい!」とかレース中も母ちゃんと電話くれたりして、心配されてたから自分の中でブレーキがかかりやすい状態だったのかもしれない。
とりあえず僕はケガ人のAさん(仮名)と林さん(選手)、三田さん(選手)と一緒に立ち止まってできることをしようと思ったんす。
その中で林さんがAさんにかけていたコトバが印象的で「オレはもうここでレースやめて、一緒にいてあげるから安心しろ!」「絶対一緒に下山するからな」「トレラン辞めるとかゆーなよ!」とかしきりにAさんを励ましてて。あとAさんが「すいません、すいません」って謝ってて、林さんは「謝るな!オレが好きでやってるんだから謝んなくていい!だからもう2度とすいませんはゆーな!!」とか強い口調で言ってるんすよ。
オレ、その林さんの姿みて泣きそうになって。ケドこんな知らない人の前で泣くのは恥ずかしいって思ってナゾに涙こらえてて。人間と人間ってこんなふうに助けあって生きてんだなって。当たり前のことなんだけど、なかなかできないことの方が多いよなとか考えたり。
ケガ人Aさんの状態はというと、斜面から転倒、滑落して、斜めになっていた倒木に顔前面を強打。前歯はほとんど折れていて、鼻血、口から出血。呼びかけには応じるので意識はある状態だが、立ち上がることはできない様子。しかも斜面で止まっているから足場がめちゃくちゃ悪かった。雨も強くなってきた。林さん、三田さんは大会本部にTELしているがなかなか繋がらないらしい。
自分のiPhoneを見ると電波がバリ4だったのでスピーカーにして電話する。電波があって繋がってよかった。
「どの地点ですか?」
「119kmあたりです」
後になって思えばジオグラフィカでちゃんと座標を伝えたらよかったんだけど、やっぱりみんな気が動転してたんだと思う。正確には117km地点だったらしい。
林さんは、すれ違うランナーに声をかけて「もし無理じゃなければ、水をわけてください」とか協力をお願いしてた。そんな中貴重な水をくれるランナーがいたり、エマージェンシーシートをわけてくれるランナーがいたりした。
ケガしたAさんは、うつむいて、寒そうにしてたから、エマージェンシーシートで2重にくるんであげたりした。頭を打っているから動かしていいものか自分もわからなくて、自分は持っていたポケットティッシュで鼻血を拭いてあげたりしていた。そのあと、馬場さんという4人目のランナーの方がきて、この4人のランナーが最後まで救護にあたった。
林さん、三田さん、馬場さん、あとでわかったんだけど、この3人は全員50歳(林さんはギリ49歳でごねてたケド笑)こんなカッコいい50歳になりたいと野間はひそかに思っておりました。林さんがさらに凄いと思ったのは、Aさんのランニングの様子を後ろから見ていて、もしかしたちょっと不安があるかもしれない、と思って後ろからついていたらしい。レース中にそんな事できる方がいるなんて、やっぱりナイスガイです。
最初に現場に来たスタッフの人は秋山さんという山岳会の方で60代くらいかな?男性で。無線機でしきりに連絡して応援要請をするんだけれども、なかなか応援が来ない。
次に来てくれたのが40代50代?位の男性の桜田さん?この人が本当に頼もしい感じで最初、医者が来たのかと思ったくらい。後で聞いたら、普通に山岳会の人だったんだけれども。桜田さんがAさんの鼻を止血してくれたり、座位から側臥位にしてくれたり、ジェットボイルでお湯を沸かして、空ペットボトルに入れて即席の湯たんぽを作ってくれたりした。
Aさんは寒がっていたし、ランナーの自分やランナーの馬場さんも震えたりしていた。汗冷えもしていたし、止まると寒いし、雨も降っていたし。
その後ようやく男性看護師2名が到着。上田るい君似のイケメン看護師の齋藤リーダーとその部下のイブキ君。彼らが意識レベルをチェックしてくれたり、今後の搬送計画を中心になってたててくれた。
この時転倒から1時間以上は経っていたとおもう。時計は一度もみてないから主観でしかないんだけどなかなか看護師さんや救護スタッフがこないなぁって。たしか剣ヶ峰の頂上付近にはいたのになぁなんて個人的には感じていた。きっと山道だし、別のところから来たり、タンカを運んだりとか、スタッフの方も苦労して現場に来てくれたんだと思う。
そのあとスイーパーの人たちとも合流して、そこで正式に選手はDNFしますって伝えて。山の救助のストレッチャー(そりみたくなってるやつ)にAさんを乗せて運ぶことになったんだけど、そこからが大変だった。ほんと二次災害起きてもおかしくなかったと思う。なんせ雨は強くなってくるし、道はシングルトラック、登山道、石コツで足場は悪いし、ヘリはこの天候では飛ばせないとのこと。
おそらく11時ごろだったか。今スントをみてみるが。時間まではわからないす。21kmから22kmあたりでキロ2時間43分かかっているから、おそらくこのあたりで救護していたんだと思う。
最終的にはスイーパーの方や救護スタッフ、山岳会の方ふくめ15人くらいで交代しながら、Aさんを車の入るウォーターエイド1?まで降ろした。たった2kmの道だが、6時間以上かかった。おろし終わった時はすでに夕方18時くらいで日もほとんどくれかけていた。明るいうちに搬送できたのは不幸中の幸いだったと思う。
【救護、搬送して気づいたこと。】
▪️救助するひとは多くて困ることはない。
むしろ人がいてよかったと思う。例えばストレッチャー持つのに疲れたらすぐ交代できるし、誰かの荷物を持ってあげることもできる。何よりヒトがいるとそれだけで心強い。
ただし人数が多いとそれに伴って二次災害のリスクも上がると思う。
みんな名前もほとんどしらない、チームだったけど、Aさんを、助けたいという思いでひとつにまとまっていたとおもう。
▪️ビレイロープの重要性
主に下り基調の搬送となったが、Aさんがストレッチャーから滑り落ちたり、ストレッチャーごと崖から落ちてしまっては元も子もない。必ずビレイロープを安定した木に確保しながら少しずつAさんを下ろして行った。
実は自分は元作業療法士で医療の知識もあり、現在住む川上村では遭難対策協議会の隊員でもあるのだが、まったくもって経験や知識が活用できたとは思えない。恥ずかしいハナシだが。ロープの確保のやり方も知らなかったし。
知っている知識と実際に行う救助ではまったく違うことも痛感した。それでも自分はできることをやろうと思い、Aさんに都度都度「Aさん!大丈夫ですか!?頑張ってください!!」と声掛けを心掛けて、自分ができることをできる範囲でやろうとおもった。
▪️リーダーの重要性と救助スタッフの体調
もどかしかったこととして、早く、車のところまでAさんを運んであげたかった。そんな中、看護師リーダーの斎藤さんは頭をしっかり持って搬送。一方山岳会の桜田さん(山岳救助の経験があった方)はAさんの足だけ持ってあとはロープでささえながらスピーディーに搬送と二つの意見があったと思う。自分自身はどっちが正解なんだろうかと戸惑った。山の斜面の場所場所で降ろし方の状況は変わるし、頭も打っているし、衝撃を加えたくないというのもわかるし、少しでも早く救急車のところまで搬送したいというのもわかる。どちらも正解なんだと思う。野間自身は「おんぶして行った方が早いんじゃないかなー」とか思ってた。
きっとみんな色々考えていたんだと思う。ケド最終的には看護師斎藤さんの指示に従って、みんなでベストをつくしていたと思う。頭は常に少し上げながら運ぶのは意識していた。
看護師斎藤さんともう1人の看護師イブキさんも常にストレッチャー持ちながら、指示もだしながら、やっていたから相当疲れていたんじゃないかとおもう。
搬送中2回ほど、救護スタッフの安全確保のため、水分補給、栄養補給、休息があった。救助する人の体調管理、安全管理も大切だと感じた。
▪️トレイルランナーだからこそできる救助
単純にトレイルランナーこそがトレイル(山道)に強いんじゃないかと思った。林さんをみてるとみるからに屈強そうだし、トレラン経験者なら、ヌカッた山道を走ってる経験もあるだろうからこの道はこう歩くとかこうするとすべりにくいなど、役立てることができたのではなかろうか。
▪️川の渡渉はバケツリレー方式
山岳会桜田さんのアドバイス。川を要救とともに渡らなければならない場面が2回ほどあったのだが、川は足場が悪くすべりやすい。救護スタッフが、多くいる場合はあらかじめ先に人員を川に配置して要救助者をバケツリレーの用に手渡ししていく。
▪️剣ヶ峰の下りは気をつける
来年以降またレースが行われて、同じコースでレースがあるとすれば今回事故があった剣ヶ峰からウォーターエイド1までの区間は細心の注意が必要です。無理な追い越しはせず、自身の安全を確保しながら進んでください。自分も来年気をつけます。
▪️まとめ
先程大会運営の理事長から電話があり、今回の救助の件のお礼としてレース代(37000円)の返金、来年のレースの招待。川場村から感謝状と謝礼の贈呈をしたいとのこと。嬉しいです。ちゃんと運営側もみてくれてたんだなと感じます。
今回の事故で1番つらく、今も苦しんでいるのはケガをされたAさんだと思う。痛いだろうし、ケガした直後は俺らに「すいません、すいません」って謝っていた。またAさんにとって野間がこうやってSNSに発信するのもツライことを思い出させてしまうかもしれない。
ケド、こうやってみんなが山の事故やその後のことを知ってくれたら、次どこかの山やトレランレースで同じようなことが起きたら、「あ、あの時野間のインスタでみたから俺も助けてみよう」とか「そっかストレッチャーはビレイロープで固定するのか」とか何かプラスになることが起こるのではないかと思うのです。
もちろん山の事故やケガが起きないこと、起こさせないことがベストではあるんだけど、自分はふだん林業やっていて思うんですが、(東京からIターンで移住して林業6年目)自然ってそんなに甘くないと思うんです。林業で自分もたくさんケガをしてきたから。でも不思議なんだけど、ケガしてもまた翌日には林業やりたくなってる。なんなんでしょう。
自然ってやっぱり偉大だから、自然に対して征服しようとか、自然に対して腹を立てても仕方ないと思います。自然の中で遊ばせてもらってるし、相手は自然だから注意しなきゃって冷静に考えることが自分は大切だと思います。人間ひとりなんて、自然に比べればほんとにちっぽけな存在だと思います。
なんかまとまらないですが、ケガしたくてする人なんて誰もいないと思います。そして1番ツライのはケガをした本人です。
Aさんがいち早く回復して、元気になってくれることを願ってます。(ひとづてにききましたが、Aさんは命に別状はなかったようです。本当に良かったです)
どうか皆さん、安全に山やトレランを楽しんでくださいね。困ってる人がいたら声をかけてあげてください。
最後までよんで頂きありがとうございました。