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ゲイライフ③〜初恋
小学校高学年から近所の個人経営の塾に通っていた。20人ほどのクラスで、小中学校の同級生も何人かいた。高校受験までお世話になる。
中学2年のある日、夢を見た。僕はクラスメイト数人から何か責められている。1人だけ僕をかばってくれた、そんな感じの夢。
かばってくれたT君は、同じ塾のクラスメイト。
それから僕は、T君のことが気になり始めた。夢の中のことだったのに、彼は僕の唯一の味方なんだと思い意識した。特別には親しい訳ではなく、3年女子のテニス部の先輩と付き合っているというのも噂で聞いたのみ。
当時、実際に誰かに虐められてもおらず、友達もいて良好な中学生活を送っていた。恋愛面を除いて。
思春期特有の男子臭さみたいなのを醸していたと思う。女子とは距離を置き(意識するあまり、ちゃんと喋れないし)、男友達と仲良く過ごしていた。
T君を意識してから、いつも彼を目で追っていた。彼のことを考えながら、ホワホワした気持ちで本を抱え、図書室へと廊下を歩いた昼下がりを覚えている。熱に浮かされていたかのよう。
その後、それ以上仲良くもなれず、もちろん告白することもなく、ずっと片思いのまま中学時代を過ごした。そこには同性への思いに対する戸惑いや罪悪感はあまりなかったと記憶している。秘密ではあったけど。
校庭か塾の裏の空き地かどこかで、小石を転がし投げ合いながら話したのが最後だった。高校が違うからもう会えないよね、と。笑って別れた。
T君は誰に対してもいつも優しかった、それはあの夢の中の彼そのもの。
僕の初恋は微熱のようなものだった。
そして僕はその頃、大人の扉をひとりで開けた。
ゲイとして。
そこには葛藤がなくて、何となく自分はそういうものだと受け入れていたんだと思う。
高校生活が始まり、1年目は少ししんどかった。
進学校に滑り込みで入り、親しかった友人とも離れ離れに。そして新しいクラスメイト達はとても賢く、その知識についていけないことが多々あった。クラブ活動もせず、授業に付いていくのに精一杯。
そんな僕は、同じく大人しいH君と友達になった。というか、クラスから浮いた、いや沈んでいた僕らは2人でつるむしかなかったのかな。
H君はとても無口で、2人でいても喋っているのは僕ばかり。
しかし!彼は背が高く今で言うイケメンだった!
なのに、見た目は良かったけど恋心は芽生えなかったなぁ。H君と過ごした時間は寂しさの象徴みたいなもので。
高2になると、新しいクラスでは数人のグループに収まることが出来た。嘘のように明るい高校生活が始まった。どうやら僕はいじられキャラが性に合ってるみたい。
残酷なことに、H君とはお互いスッパリ縁が切れてそれっきりに。我ながらひどいなぁ…。
そして、グループの1人、A君のことが好きになった。
仲良し5人グループで楽しく高校生活を送っていたが、進学校なので放課後に遊び歩くということはほとんどなくて。
ある日の午後、A君が風邪で早退した。昼休みには一緒にゲームして遊んでたのに。僕はなんだか胸にぽっかり穴が開いた気分になった。それをグループ外の友人に指摘されたのだ。
「お前、Aがおらんから寂しいんやろ?」
えっ、そうなん?そうかも、そうやな…。
それから意識し始め、四六時中A君のことばかり考えるように。
そんな気持ちで臨んだ修学旅行は楽しかった。
喧嘩もしたけど、薔薇色の高校生活。
一度、休日に2人で大阪梅田へショッピングに出かけた。実質、デート。意識し過ぎて盛り上がらなかったけど、それでも別れ際に駅の近くで長々と喋って別れを惜しんだ思い出。甘酸っぱい。
3年になると皆、クラスが別になってしまった。A君とは美術の授業で週に1回、会えるのみ。
告白するどころか、この頃から既に僕は今で言うツンデレだった。人前でデレることはない。まあ当たり前なんだけど。でも視線でバレバレ。
遂にA君本人から言われた一言
「そんなに俺のこと好きか?」
きゃー!人前でー!どういうリアクションしたか覚えてないけど、気持ちが伝わってることが恥ずかしくてとても嬉しかった。殺し文句やん!
クラスが違うのでそれ以上の進展はなく。それでもずっと思い続けていた。授業が終わると、2年の時のグループの1人、友人M君と駅まで一緒に帰るように。実は、M君の教室がA君と同じ棟の同じ階だったから。A君に会えるかもしれないから、M君の教室まで迎えに行く。健気やなぁ。
結局、A君は僕より偏差値の高い大学に合格し、僕は別の大学に落ちて浪人生活へ。A君の入った大学を目指すのは無理だったので、それきりになってしまった。
今のようにメールやLINEで繋がれてたら、まだ友人関係が続いていたのかなぁ?
背が高くてスポーツマンで成績優秀なお坊ちゃん、ロックが好きで少し悪ぶってたA君。
思い起こすと今でもときめく。彼はやはりいい思い出、最高潮だったな。ビバ、プラトニック!
中学のT君が初恋かもしれないけど、高校のA君の方を初恋認定したい。よろしくお願いします。
さて次回は大学、そして就職してからの話をば。