見出し画像

高速鉄道を葬った”黒い影”の正体

英国版の新幹線、HS2整備を阻んだのはコロナ禍や財政難だけではありませんでした。計画縮小の大きな要因となった”黒い影”とは?

🔹🔸英国の日刊紙から思わず誰かに話したくなった記事を紹介します
✔️なんとほぼ英語力不問!気軽にのぞいてくださいね
✔️それでも”誰かに話したくなる”英単語ベスト3を解説
✔️記事の理解に必要な固有名詞、引用句、トリビアもだいたいカバー!🔹🔸


◎”Completely Bats”(コウモリなんて、全くばかげている!)

HS2整備計画に致命的な打撃を与えたのはテロリストでもなければ、度重なる政権交代でもありませんでした。なんとその”黒い影”の正体とはこうもりです。

HS2完成イメージ 日立製作所製です!

コウモリは女性の髪の毛に絡みつくとなどという俗説もありますが、基本不気味(①eerie)な夕闇どきのみ飛び回り普段はトンネル、洞窟、鐘塔に潜んでいるので人目につくことはそうそうありません。

ところが、このコウモリがHS2の最大の敵なのです。英国ではコウモリは絶滅危惧種として扱われており、法律によってがっちりと保護されています。古い地下鉄のトンネルを再利用しようとしても、コウモリの巣が発見された瞬間棚上げとなります。ヤモリやアナグマ同様、ナチュラルイングランドがこうもり達の餌が十分確保され妨げるものがなく(without let or hindrance)飛び回れるよう十分に対策されていると認めなければ開発計画は台無しなのです。

HS2は現在ロンドンからバーミンガムの第一区間だけでも660億ポンドかかる見積(②rckon at)ですが、この一部はBechsteinのコウモリ対策の為のものです。ユーストン駅に時速350kmで乗り入れしてくる車両にこうもりが激突するのを防ぐには網の防護壁が必要ですが、これが990mあたりで1億ポンドかかると言われています。このような大金は現金の乏しい英国にはとても工面できるものではありません。


□本日のポイント■■■

①eerie/気味悪い

気味がわるい、不気味なという意味の言葉です。出自は昔のドイツ語らしいのですが具体的な事は謎に包まれており、太古の昔から不気味なものを表現する言葉として伝わってきました。
silenceとの相性はばっちりで、eerie silenceは何か恐ろしい獣が飛び出す前のような不気味な静けさという言い方です。同じ意味の言葉としてspine-chillingというのがありました。こちらは脊髄が凍るようなという体感的な言葉です。
”entangle themselves in women's hair”のところは何の事か正直わかりませんでしたが、調べるとイギリスには女性に対して夜中であるくとコウモリが髪に絡みついてくるという話があるのだそうです。実際のコウモリは実に空間認識能力が強い生き物ですので、そんな事はしないのですが物騒な時代に女性を守るために作られた戒めなのでしょう。

🔳 They live in caves, tunnels and, yes, belfries, emerging only at dusk to flit around in **eerie **silence, supposedly entangling themselves in women’s hair.

(試訳)コウモリたちは洞窟、トンネルや鐘塔に住んでおり姿を表すのは夕闇の不気味な静けさの中だけであり、女性の髪に絡みつくなどとされている。

②reckon at/概算見積で〜になる

概算でいくら位になるという言い方です。商人たちが暗算をしてぱっと金額を見積もる事です。I reckon the total cost at about 500 dollars(総費用は概算500ドル位だと思う)と人を主語にもできますが、ちょっとオールドスクールな言いっぷりに暗算もこなすスマートさも加わって、何かすごいできる人っぽいです。ちなみに概算値にはball park figureという言い方もありますね。
Sheephouse Woodはバッキンガムシャー州に広がる古代の森林で、ベヒシュタインコウモリをはじめ珍しい生き物が多く棲息する場所です。

🔳 The staggering escalation in the cost of the HS2 high speed rail line, now reckoned at around £66 billion even for the London-Birmingham stretch, can be partly blamed on the Bechstein’s bats that inhabit Sheephouse Wood along the way.

(試訳)HS2高速鉄道のロンドン-バーミンガム間の建設費用が約660億ポンドに達する見込みです、その一部は沿線に広がるシープハウスウッドに生息するベヒシュタインコウモリのせいだと言えます。

③without let or hindrance/妨げるものなく、自由に

イギリスのパスポートにこの言葉がでてきます。
”Her Britannic Majesty's Secretary of State requests and requires that the bearer pass freely without let or hindrance”(内務大臣は女王陛下の名において、この文書の所持人が自由に、かつ妨害されることなく通行することを要請・要求する)と書いてあります。letは障害や妨げの意味で、16世紀ごろから使われている古い言葉です。動詞で使う意味とは真逆ですね。

🔳 Along with great crested newts and badgers, they can wreak havoc on development plans for roads, houses and shopping centres if Natural England is not satisfied that enough is being done to allow them to feed on their choice local delicacies and flit around without let or hindrance.

(試訳)ホクオウクシイモリやアマグマと共に、これらの生物は地域の開発計画、例えば道路、住宅、ショッピングセンターの建設を破綻させうる存在です。Natural Englandがこれらの生き物が好む地元の食物を摂取し、自由に移動できる環境が確保する取り組みが十分に実施されていると判断することになっているからです。

◇一言コメント

タイトルはcompletely nuts!(まったくばかげている)とコウモリのbatをかけた表現ですね。

イギリスは鉄道のパイオニア的な国ですが、それは既存の鉄道網が世界一老朽化しているという事です。HS2はそんなイギリスの鉄道網をバージョンアップする英国の悲願とも言えるプロジェクトでした。

我らが日本企業も日立が車両を受注する見込みとなっており、期待は大きかったわけですがコウモリたちによって雲行きの怪しい事になっています。
コウモリたちがコストアップに貢献したのがロンドンからバーミンガムを繋ぐ第一区間ですが、そんなこんなしているうちに財政難が苛烈になってきたりしてバーミンガムからその先リーズに至る第二区間は中止となってしまいました。

インフラ整備のタイミングは本当に大事ですね。高度成長経済の勢いとゆるやかな時代の諸条件があいまった日本の新幹線は幸運だったのかもしれません。

マンチェスターに行く第二フェーズとリーズに行くイーストは中止、、、、残念




いいなと思ったら応援しよう!