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【実はビジネス英語の最重要ポイント?】 イギリス流”謝罪の作法”3つの鉄則
沈静化しないフジテレビのスキャンダルを見ていると”謝罪”という行為の難しさ、そして奥深さを感じずにはいられません。
”謝罪下手な日本人”という自虐論はほどほどに、近年イギリスで見られた”謝罪”の失敗例をから”謝罪の作法”を学びましょう。いつか来るとも限らぬその日の為に!
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◎”Wrong Again”(繰り返される過ち)
“ごめん”という言葉ほど辛いものはない(Sorry Seems To Be The Hardest Word)と書いたのはエルトンジョンだったわけですが、もといこの言葉ほど難しいものもありません。日本のフジテレビがおこなった2回の会見は謝罪のあり方についてこれ以上はないと言える程の反面教師です。
フジテレビに始まった事ではなく日本人は長らく適切な謝罪が苦手とされてきました。しかし、英国人の謝罪下手もなかなかのものです。道端で人にぶつかると英国人は盛大に(①profusely)謝りますが、より大きな問題をおこした場合にきちんと謝ることができる人は驚くほど少数です。
過去の残念な”謝罪”の実例を振り返り、そこから改善のヒント(②pointer)を得ていきましょう。
絶対に外してはならない3つのポイント、”謝罪の作法”3つの鉄則としてお届けします。
鉄則1”短く”
とにかく謝罪は簡潔に、シンプルに行う事が必要です。この重要性は自由民主党党首のNick Clegg氏の失敗を見れば明らかです。
2010年の総選挙で大学の学費を廃止すると公約を掲げたNick氏は若者たちの支持を得る事に成功し大きく議席を伸ばします。保守党との連立政権を組み与党側となったまでは順調でしたが、そこから雲行きが怪しくなり始めました。連立政権のパワーゲームやしがらみに引きずられ、結果として学費を上げる政策を推進してしまいます。これには一度期待した若者たちは失望、支持率は急落しました。Nick氏は何とか謝罪と釈明をしようと作り込んだのがこのビデオです。
しかし、力が入りすぎたようです。いかんせん長い。延々と続くビデオは見るものをうんざりさせました。
“I’m sorry…we hold our hands up…If we’ve lost your trust…I hope we can start to win it back.”
”申し訳ないです。言い訳はありません。皆さんの信頼を失ってしまったという事ならば、本日よりそれを取り戻すのを始められたらと思います”
結局彼が”信頼を取り戻すのを始める”ことは実現しませんでしたが、この話にはちょっとした後日談があります。退屈した聴衆の1人が暇つぶしに思いついたのでしょう。この長大な謝罪ビデオに歌を被せた”リミックス”が発表されましあt。するとその”リミックス”は拡散、ヒットチャートで143位を記録してしまったのです。
信頼を取り返すかわりに笑いを取ってしまうという予想外の展開。
災い転じて何とやらといえるかはちょっと微妙ですが。これからAI音声の時代です。こういうの沢山でてきそうですね。
鉄則2”受動態をつかわない”
一度謝罪すると決めたからには自らが主体となって引き起こした事を明示して真摯に謝ることが重要です。その際に主語を明示しない受動態を使用する事は避けるべきでしょう。このポイントで失敗したのはTheresa May元首相です。以下がWindrush問題発覚事の謝罪会見の一言です。
"I am sorry for any anxiety that has been caused over the Windrush scandal”
"ウィンドラッシュ問題に関して引き起こされた不安についてお詫び申し上げます”
causedの所でかちんとくるわけです。引き起こされたじゃなくて引き起こしたんだよね?と。
この問題は当時のテリーザ首相が厳格化した移民管理政策の不手際により何十年も前に英国にやってきて定着した人々まで”不法移民”扱いされるようになってしまったという大失態です。あたかも自分が主体になって引き起こした問題ではないという言外のニュアンスに多くの人は”もやっと”しました。
鉄則3”自分の利害を交えない”
謝罪の際には全身全霊で迷惑をかけた人の事を話すべきで、自分の話は絶対に避けるべきでしょう。ここを外してしまったのが、BPの経営責任者Tony Hayward氏です。
2010年に起きた史上最大の石油採掘事故、Deep water spill(メキシコ湾原油流出事故)を引き起こした企業のトップとして様々なインタビューを受ける中での失言(gaffe)です。
“we're sorry for the massive disruption it's caused to their lives. There's no one who wants this thing over more than I do, I'd like my life back”
”この事件が彼らの生活にもたらした混乱について、申し訳ないと思っている。私自身が誰よりもこの問題を終わらせたいと思っている。自分の生活を取り戻したいんだ”
謝罪を受ける側としては彼の生活など1ミリも関係ありません。まして油田掘削装置が爆発した際に11名の人名が失われています。世論は一気に彼の姿勢を問う流れに。場の空気が冷えきっていくのが想像できますね。
以上3つの失敗例、いかがだったでしょうか。ビジネスの世界で謝罪はその後の挽回可否を左右する重要な行為です。今は他人事でも、将来そのような状況に陥ることが絶対ないとは言えません。備えあれば憂いなし、です。
謝罪の模範例?
最後に近年稀に見る謝罪の模範事例を紹介します(あくまで謝罪方法が模範的という意味にて)。英国が誇る映画俳優、Hugh Grantさんの登場です。
売春で現行犯逮捕されるという窮地に陥ったHugh Grantさんでしたが、スピーディーで潔い謝罪により奇跡的に俳優のキャリアを継続する事に成功しました。その一つが出演したトーク番組での一言です。
“I did a bad thing. And there you have it.”(③)
”私は悪い事をしました。以上です。”
そして、あの人懐っこい眼差しで訴えかけるわけです。
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さすが映画俳優とは心得たものですね。
□本日のポイント■■■
①profusely/大いに
気前よく、たっぷりとという意味です。ネガティブな意味は含みませんが、通常よりも程度や量が多いという感じです。
ただし、たっぷりやっておけば良いというというほど謝罪は単純なものではありません。
🔳 Britons are similarly inclined: they tend to apologise **profusely **when other people bump into them in the street, while getting it wrong on larger issues.
(試訳)英国人も同じような傾向がある。路上で人にぶつかると大いに謝罪するくせに、より大きな問題となるとそれができない。
②offer pointer/助言、ヒントをだす
方向や場所を指し示すものなわけですが、ここでは謝罪はどうあるべきかのヒントの意味ですね。
🔳 Recent failures **offer pointers **as to how public figures can improve.
(試訳)近年の失敗をみれば、そこに公の人物がどうすれば謝罪を改善できるかのヒントがある。
③there you have it/それだけです、以上です
何か重要な事を言って、あるいは説明をして一言発する〆の言葉です。それ以上でも以下でもない。
これ以上の議論の余地はなし!という強い姿勢の言葉ですね。謝罪の際にはこれくらい潔い方がいいのかもしれません。
例文は本文に載せてしまったので、代わりに元大統領オバマ氏の力強い言葉を引用しておきます。
🔳"There you have it. That’s the meaning of democracy: that the people are running things, and that government exists to serve the public interest.".
(試訳)今から言う事が民主主義の意味するところの全てです。それは人々が主体となり物事を行い、政府は公益に奉仕する為に存在する。以上。
◇一言コメント
Windrushは元々は船の名前で(HMT Empire Windrush)、英国のwindrush川に由来を持ちます。ではなぜこのwindrush号と移民が関係するのか。ちょっと脱線しますね。
話は第二次大戦後の労働力不足を補うべく政府がおこなった移民推進政策に遡ります。当時ジャマイカ、トリニダード・トバゴなどカリブ諸国は英連邦の傘下にあり、政府はこれらの国にこのWindrush号を派遣し移民を募集し英国に招き入れました。そうした英国に移住した移民達は様々な分野で戦後復興に尽力しWindrush世代と呼ばれるようになりました。
ところが、Theresa首相が就任後に推進した現代の不法移民への対策強化政策の中で政府が手違いを起こし、復興の恩人とも言えるWindrush世代の人たちまで”不法移民”として処遇される事になってしまったのです。述べ83000名のwindrush世代が不法移民として国外退去を要請され、その内少なくとも164名が実際に母国に強制送還されました。Windrush世代が英国に到着した当時は英連邦国の住民は入国に際してパスポートが求められなかった為、入国の履歴がないものと分類されたのが原因と言われています。なんとも恐ろしい話であり、明らかに政府の過ちです。その謝罪が曖昧であるとなれば心中は穏やかでない事は疑いありません。