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Vol.76#挑め!Leading Article/NHS改革と現代のルター

今日のテーマは”労働党政権とNHS改革”です。

🔹🔸このコラムでは毎朝その日のLeading Articleから解釈の決め手となる語句を3つ選んで解説していきます。定着させて英語を読む事がどんどん”楽”にしていきましょう🔹🔸

NHS(National Health Service, 国民保険サービス)は公費負担による国営の医療サービス事業です。経済力の有無に関わらず必要な医療サービスを提供を実現しており、ストライキや待機時間などの問題は尽きないにせよ英国の医療政策の大きな実績であると言えます。
しかし、インフレや経済成長の鈍化に伴いこれまでの運用が通用しなくなっている中で制度に対する患者達の要求は緩む事がありません。
予算増額などの場当たり的な改革ではいずれ行き詰まる事が明白な現状において、次期政権で保険相への就任が見込まれているWes Streeting氏への期待が高まります。
NHSを伝統的なカトリック教会とすれば、聖域なき改革に挑むStreeting氏はプロテスタントの創始者ルターです。淡々と、徹底的な改革を進めていく事が期待されています。

Streeting氏の興味深い経歴にも触れながら、読み進めていきましょう。

◎今日のLeading Article:Labour’s Luther

Wes Streeting is one of the most promising members of the shadow cabinet. But the man likely to be health secretary must challenge orthodoxy if he is to save the NHS

If the National Health Service is truly Britain’s national religion, as the late Conservative chancellor Nigel Lawson observed, then Wes Streeting would like voters to believe he is Martin Luther. The shadow health secretary rejects the unquestioning worship that too often features in his party’s rhetoric on the NHS, and rightly so. In a week in which public satisfaction with the health service has fallen to its lowest level in four decades, voters deserve candour and practical solutions. If the opinion polls on voting intentions at the next election prove correct, it will fall to Mr Streeting to provide both.

In the past, Labour offered little beyond mistyeyed homilies to Aneurin Bevan and blank cheques. The former is an infantile political reflex and if the latter worked the succession of Tory health secretaries who demanded and received billions in additional funding for failing hospitals would have solved the crisis of confidence in this most fundamental of public services years ago.

Yet this year’s report on attitudes to the NHS by the King’s Fund and Nuffield Trust shows confidence at a new low. A quarter of people questioned in 2023 were satisfied with an NHS hobbled by strikes, burgeoning waiting lists and clinical scandals. In 2010 the satisfaction rate was 70 per cent.

It is now 27 years since Sir Tony Blair won a landslide victory on a pledge to “save the NHS”. Then, public satisfaction stood at 34 per cent, the lowest figure then recorded. That incoming Labour government could count on a growing economy to fund the investment in healthcare that was so clearly needed. When Sir Tony faced voters in a BBC interview ahead of the 2005 election, the primary complaint about the NHS was that patients were able to book GP appointments only some 48 hours in advance. Would that today’s patients — caught in the unseemly 8am scramble to see a doctor — were so lucky. Mr Streeting, talented communicator though he is, cannot magic into existence the growing economy of 1997. He must contend with strained public finances, rebellious junior doctors and disillusioned patients.

The time has come for Mr Streeting to offer something more substantial than the easy epigrams that are his stock in trade. Yes, it is encouraging that he would like the NHS to be a service not a shrine. He is probably right, also, in saying that only a Labour health secretary can deliver radical reform because the public is more likely to trust its motives. And how refreshing it is to hear a prospective health secretary refusing to sign up to limitless spending.

These are encouraging expressions of intent but they do not yet amount to a coherent policy. What concrete measures Mr Streeting has suggested — an increase in medical school places, a renewed focus on preventive medicine, a shift from oldfashioned GP surgeries to neighbourhood primary care centres and increased investment in technology — are welcome. But he will have to delve deeper into the causes of the NHS’s forever crisis and be prepared to countenance radical reform in the face of fierce opposition from vested interests.

If Labour is elected, the public will expect immediate improvements: an end to the doctors’ strikes and rapidly falling waiting times. It will demand a no-nonsense approach to the self-indulgence of the junior doctors faction in the British Medical Association and — regrettably — a oneoff injection of cash. Now that Jeremy Hunt, the chancellor, has abolished non-domicile tax status and deprived Mr Streeting of one source of funding, the question of money weighs ever more heavily. Ever greater spending cannot be the solution. Mr Streeting will have to be bold in challenging orthodoxy, nailing to the church door specific plans for NHS renewal. He must be an unsentimental reformer, Lutheran in his zeal.

□解釈のポイント■■■

①mistyeyed/涙目の

mistyは水分の多い状態を指しますが、目がそうなっているということは涙目の感傷モードという事です。Aneurin BevanはNHSを創設時の保険相ですが、医療を貧しい人に広めた偉大な政治家です。今の労働党はそのAneurin Bevanを感傷的に思い出してスピーチをして、あとは際限なく予算をつける以上の事ができていないという批判です。

NHSの父、チャーチルとは仲が悪かったらしい

偉大な過去を思うのではなく、現在のあたりまえを疑い徹底的に改善しない事にはNHSに未来はないという事ですね。

②epigrams/警句

古代ギリシアからの詩の形式で、短く最後にウィットを効かせたものという定義です。

演説が上手なWes Streeting氏の言葉はさながらエピグラムのようだという事ですが、それだけじゃなくそろそろ内容の伴う政策提案をすべきだとしています。

③stock in trade /常套手段

商売で扱っている在庫、つまり商品や商売道具を指します。そこから転じて常套手段という事ですね。

Streeting氏の実際のスピーチを聞いてみたくなりますね。労働者階級の出身という事を全面に出していますが、祖父は銀行強盗をして服役していたというなかなかの経歴の持ち主です。貧しい人が多い公営住宅での少年時代を経て、小売業で働きながら大学を出たという苦労の人。きっとNHS改革を推し進めてくれるはずという期待が感じられます。

■試訳

Wes Streetingは影の内閣における最も有望な人物の1人であるが、この保健相候補はNHSを救うつもりであれば伝統的な考えに挑まなければならない

前の保守党財相Nigel Lawson はNHSを英国の国教であるとしたわけだが、それが本当であるならばWes Streetingは有権者に対して自身がMartin Lutherであると信じて欲しいはずだ。影の保険相は労働党によるNHSの議論にありがちな盲目的な崇拝を拒否しており、それは間違っていない。今週世間の保険サービスに対する満足度は40年間で最低となった。有権者には率直さと実践的な解決策を提示されて然るべきだ。仮に次回の選挙における投票意図に関する世論調査が正しいとすれば、Steering氏にはその両方を提示する事が期待されている。過去、労働党が提示できたものとえば、せいぜいが Aneurin Bevanに対する涙目のお説教と白地小切手くらいのものであった。前者は幼稚な政治的な条件反射だったし、後者に効果があったとすれば何年も前に機能不全に陥った病院への追加資金を要求し受け取った歴代の保守党の健康相達がこの最も重要な公共サービスへの信頼の危機を解決しているはずだ。しかし、キングズファンドとナフィールド基金による今年のNHSへの姿勢に関する調査によれば、NHSへの信頼は最低記録を更新した。2023年に調査を受けた人でNHSに満足していると回答した人は4分の1にとどまった。ストライキに急速に長さを伸ばす待機リスト、そして診療スキャンダルで身動きがとれなくなっている。2010年には満足と回答した人は70%だったのだ。トニーブレア卿が”NHSを救う”との公約を掲げ圧倒的勝利を収めてから27年が経った。当時の満足度は34%で、当時の記録では最悪の数値であった。当時発足しようとしていた労働党政権は成長する経済をあてにして必要性の明らかな医療サービスへの資金を拠出できた。トニー卿が2005年の選挙を前にBBCのインタニューで有権者と対面した際に、NHSに関する主な苦情は患者が48時間前にならないと一般開業医の診察を予約できないというものだった。今日の患者といえば診察を受けるため朝8時に電話に殺到しているわけで、その位なら幸せだろう。Streeting氏はコミュニケーションの才能がある人物であるが、1997年の成長する経済を魔法で再現することはできない。彼は逼迫した財政と反抗的な研修医、幻滅した患者達と向き合わなければならない。Streeting氏も得意とする安易な警告よりも中身のある何かを提示すべき時だ。そう、彼がNHSをサービスとして捉えており、教会ではないとしているのは期待が持てる。また労働党の健康相だけが徹底的な改革を実現する事ができるとしているが、これもおそらく正しい。世論がその動機を信用しやすいからだ。そして健康相候補が際限なく支出をする要求をしないとしているのを聞くのはなんと新鮮な事か。考えを表現した言葉には期待できるものがあるが、未だ筋の通った政策とまでは言えない。
Streeting氏が提言している具体的な方策としては、医学部定員増、改めて予防医学に注力する事、一般開業医による時代遅れの外科医ではなく自宅から遠くない場所での初診を受けられる施設を準備する事、そしてテクノロジーへの投資増額があるが、どれも歓迎すべきものだ。しかし、彼はより深くNHSの終わりのなき危機の原因を追求し、徹底的な改革を承認する準備をすべきである。既得権益からの猛烈な反対は予測できる。労働党が政権をとったとすれば、世間はすぐさま改善があることを期待するだろう。医者のストライキは終わり、待機時間は急速に短縮されるはずだと。世間の要求は英国医療協会の研修医達の自己満足と嘆かわしい事に場当たり的な資金の拠出に対し、意味のある方法で取り組むことだ。財相のJeremy Huntが非居住者という課税上の地位を廃止し、資金源を奪ってしまった今、Streeting氏は思いきって伝統的なやり方に挑まなければならない。NHS刷新の具体的な計画を教会のドアに打ち付けて。淡々と改革を実行に移す、熱意という点でルター的な人物であらねばならない。

◇一言コメント:

NHSに満足していると回答した人の割合は、ブレア政権前34%→ブレア政権改革後の2010年70%→2023年25%という事でブレア政権により大幅に改善した後に再び満足度が下がっている経緯を辿っています。
人口の高齢化、インフレ、パンデミックによる医療制度への負荷など様々な要因があるようですが単純に予算を割くだけでは財政破綻が目に見えています。そこで徹底的な改革が必要というわけです。

最後の方にnailing to the church door specific plans for NHS renewal(NHS刷新の具体的な計画を教会のドアに打ち付けて)という文が出てきますが、これはルターが”95ヶ条の論題”をヴィッテンベルグ城教会の扉に釘で打ち付ける事でカトリック教会と決別しプロテスタントが誕生したという逸話に言及しています。
実は教会の扉は掲示板のようなものであった為、言い伝えほど過激な行為ではなかったとか釘を使わなかったとか歴史的な議論はあるようですが、腐敗した当時のカトリックに対して改革を以て挑んだルターと同様にStreeting氏にもNHSを改革してほしいという事ですね。

ルターさん ビールと歌をこよなく愛する改革者
労働党のルターことStreeting氏 なんか似てるかも

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