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のほほん双六 #096 おはなし ブゥ家の三兄弟 11

第11話「誰かの日記」

チクタク チクタク

まだ眠っていたいのに目が覚めちゃった。
夜明けだ。部屋に太陽の光が入ってくる。

チクタク チクタク

あ、小さい頃に住んでいた家の部屋だ。懐かしいな。

チクタク タクタク チクタク チクタク

父さんと母さんが楽しそうにお茶を飲んでいる。
僕も一緒に混ぜて。
「おはよう」って声が出てこない。

チチクク タタクク…ゥブ…
「え?」
「ブゥブブ!!」
そこにあったのはブゥブブブの半べそ顔。
「あぁ、良かった!ブゥブブ…」
ブゥブブブが泣いている横で妖精が石に抱きついて泣いていた。
背中がひどく痛む。
そうだ、オオカミが僕を襲って背中を引き裂いたんだ。

『傷口はふさがったけれどさすがに流れた血は元には戻せないからね。安静と栄養が必要だよ。』
んー?石から声が聴こえるけど思っている以上に僕は重症なのかな。

「あんまりじゃないか!ツキカゲ!!!」
めずらしい、ブゥブブブが怒っている。
「…。」
「なんとか言ってよ!」
ツキカゲはうつむいてダンマリのままだ。

「まあまあ。」
しゃべる石がブゥブブブをなだめる。
「落ち着いて、まずはブゥブブ君を妖精の里へ連れて行こう、怪我を治さないと。」
僕ならなんてことはない。背中は痛むけれど旅は続けられるし、早くブゥブを助けに行かないとー
「スー…ズズ、カッ…」
あれ?声が出ないぞ、それに起き上がれない!

『まず君は傷を治すことが最優先だよ。』
頭の中に心地の良い声が響く。

「わぁーっブゥブブ!起きて!!目を覚まして!!!」
ボロボロ涙がこぼれる。
「こんなの嫌だよ!わーーーんっ」

「落ち着いてって、ブゥブブ君は眠っているだけだから。さ、ここでモタモタしているわけにはいかないからね。」
近くで2頭のオオカミがイビキをかいて寝ている。

うららかな日和のようなヒトがいなかったら今ごろブゥブブはー。
ぶるぶるっ、涙をぬぐう手が震えている。

「うっ、ううぅ…。」
ヨレヨレと崩れ落ち、ツキカゲが泣き出した。
ヨツユが心配そうに寄り添っている。

ブゥブブをこんな目に合わせておいてツキカゲのヤツなにを泣いているんだ?昼間「一緒に旅をしよう。」だなんて言わなきゃよかった。

「チリンッ」
うららかな日和のようなヒトがツキカゲのそばへ歩み寄る。

「安心なさい。彼女は元気にしているようだ。少し退屈してて機嫌が悪いけどね。」
「うぅ…ヒダマリ。」
「ヒダマリ?」
「ツキカゲの子供、娘の名前よ。」
ヨツユの目も涙で光っていた。

「妖精って本当にいたのね。」
すっかり目を覚ましたオオカミの子供ー
ヒダマリは不思議そうに妖精たちを見ている。

「みなさんお疲れですからね、これを飲んだら寝てちょうだい。」
そう言ってポン九はコップに温かいお茶を注ぎ始めた。
とてもよい香りがする。一口飲むと体中がぽかぽかしてきた。
「嫌よ!これを飲むと眠くなるもの。ブゥブと妖精さんたちとお話しがしたいの!」
「彼たちとはしばらく一緒にいるのだし、朝になってからでもいいでしょ。」
「今がいいのっ!!」
「わがままばかり言わな…」

ぐらり

部屋が大きく揺れ、本棚に入りきれず積んである本がバサバサ落ちてきた。
「ほらっお怒りだよ!」
ポン九にそう言われてもヒダマリは納得できない様子だ。
「誰が怒ってるの?」
テーブルにこぼれたお茶やひっくり返った食器を片付けながらポン九に聞いてみた。
「【災い】ですよ、騒がしくするとお怒りで。日中は騒いでも怒らないですけど。」

へそを曲げたヒダマリを連れ、ポン九は下の階へ降りて行った。
なんとなく見開きになっている本を拾い上げ、中身を読んでみた。
本は書物ではなく日記だった。装丁も紙も傷みがひどいので、慎重にページをめくってみる。

「あっ」
ページいっぱいに鳥の絵が描いてあった。
【災い】から邪悪さを取り除いたらきっとこの絵のような感じになるかも。

「!?」
背後から視線を感じ、とっさに日記を服の中へ隠した。

「難しそうな本ばかりだねぇ。」
妖精たちに話しかける。
視線はもう感じなかった。 ーつづくー

イラスト(挿絵)

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