のほほん双六 #009 おはなし ブゥ家の三兄弟 05
第五話 オオカミの願い事
お昼もだいぶ過ぎた頃、少し風が出てきた。
「アタシが卵の時にツキカゲに食べられるところだったの。」
「えぇ?そうなの?」
「あとで食べるつもりが、忘れてて…。」
「気がついた時にはアタシが卵から孵化していたわけ。」
「で、ずっと一緒にいるんだ。」
「そうよ、アタシがヒナの時からずっとね。」
あのオオカミのヤツ、うっすら笑顔になっていやがる。
ブゥブブブめ、すっかり仲良くなっちゃって。
「なんだか不思議な光景だな。」
「フンッ」
「まあそんなにカリカリすんなよ。」
そう言ってリスが木苺を分けてくれた。
「おい、ブゥブブブ、もうそろそろ戻ろう。」
「ねぇブゥブブ、考えたんだけどさぁ。」
オオカミがなぜ僕らの跡をつけて来たのか。
【災い】に僕たちが襲われたあの日、オオカミのヤツは近くでその光景を見ていた。年老いたフクロウから聞いた、なんでも願いを叶えてくれる【幸い】なる存在。それが目の前に現れた。フクロウの話は本当だった。僕らの跡をつければまた【幸い】に会えるかもしれない。会って願いを叶えたい。
『オオカミの本能を取り戻す』という願いを。
なんだかとっても嫌な予感がする。ブゥブブブの考えることなどロクなものじゃない。それに一度言ったらなんであろうと諦めることはしない。今までは僕やブゥブが仕方なく折れてきたけれども、予感が当たっていたとしたら今回ばかりは折れるわけにはいかないし、ブゥブだって全力で反対するさ。
「ツキカゲとヨツユも僕たちと一緒に旅をしようよ。【幸い】が何かはわからないけれど、もしかしたら妖精たちが何かを知っているかもしれないし。」
僕らの旅にオオカミを連れて行く?
「兄さんと妖精たちがいる場所へ戻ろう。」
やっぱり嫌な予感は当たった。
「ふざけているのか!ブゥブブブ!!」
「ふざけてなんてないよ、大真面目だよ!」
「おまえはなんとも感じないのか。父さんと母さんを亡きものにした、憎きオオカミだぞ?僕たちを守って…」
父さんと母さんが天国へ旅立った日。もう泣くのはやめて、三兄弟力を合わせて生きて行こうと誓ったのに。悔しくて悲しくて涙があふれてきた。
「ごめんねブゥブブ。父さんと母さんを襲ったのはツキカゲではないでしょ。」
取っ組み合いのケンカは久し振りだった。小さい時はよく三匹で喧嘩をしたけど、あれはお遊びみたいなものだったんだな。腕も心もひどく痛む。
「やめなさいよ!ケンカなんて!ツキカゲ止めて、二匹を止めて!!」
「え!こ、怖いよ。」
お互いを傷つけあっても、ブゥブブブの決心は揺るがなかった。 ーつづくー
ありし日のブゥ家(挿絵)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?