好奇

トマトにねぇ いくら肥料をやったってさ メロンにはならないんだなあ    相田みつを


ブルーハーツを聴け 馬鹿野郎    鳶巣







僕は大阪産まれ大阪育ちの17歳、府内の偏差値45の高校に通っている。名前は蝗 光だ。(ばった ひかり)

義務教育をまともに受けてそれなりの受験勉強をしていたら偏差値45の高校に入る事はまず無いだろう。でも、僕は人とは違う。周りの人が当たり前に出来ることが僕には出来ないのだ。中学生の頃は両親が通わせた塾に週3で通い、家でも多少勉強はした。それで偏差値45のクオリティなのだ。羨ましいだろ。


8月6日 (金曜日)

いつものように友達の鳶巣(とびす)と本多と3人で食堂のカツ丼を食べていた。

鳶巣は美術部で見た目はなんの特徴もない平凡としている奴だ。好きな音楽が僕と一緒なことから仲良くなった。ある日の生物の授業で先生の橋本が僕達に質問を投げかけた。「お前らー、人間の身体の部位で一番肌が薄いところはどこか知ってるかー。そこが一番我々人間が物に触れた時に感じた!という感覚がある場所だ。どこか分かるかー。正解は中指だ。ほらー、中指同士擦り合わせてみろー。敏感になっているだろう。」

するとクラスの女子達が「ほんとだー」「たしかにー!」と言うはずもなく机に堂々と頬っぺたを密着させ寝ている。そういう学校だ。
すると隣の席のまだ一度も話したことがない鳶巣が僕に向かって「一番感じやすい場所って乳首じゃね?」と。なんやこいつ。これが鳶巣との出会いだった。

本多はと言えば、そうだな。平成を抱いた男が木村拓哉だとしたら、平成を抱ききれなかった男、本多だろう。分かりにくいか。簡単に言えば芸能人みたいな顔立ちで街に出たらスカウトマンに百発百中で声を掛けられる程の奴だ。格好が良い。とても日本人の間から産まれて来た生き物には見えない。本多は帰宅部でバイト三昧の毎日、接着剤で手に本が着いて一生離れなくなったとデマが流れるほどの、本好き。好きな音楽が僕と一緒なことから仲良くなった。初めて話したのは家庭科の調理実習の時だ。4人1組でカレーを作るという、教科書みたいな調理実習だった。お腹がいっぱいで食べきれそうにない僕に担任の安村が「お米さんにはなー、一粒一粒に神様がおんねん。絶対にお残しは許しまへんでー!」と嫌みを言いながら僕の後ろを歩いて言った。

すると隣の班のまだ一度も話したことがない本多が僕に向かって「なにが神様やねんな、調理過程で溺死とか全身複雑骨折なるぐらい揉みクシャにしてるくせにな」と。なんやこいつ。これが本多との出会いだった。


食堂で三人仲良くカツ丼を食べる。これがいつものルーティンだ。
「世の中でなにが一番かっこいいか選手権開催しよや」僕は鳶巣と本多にカツ丼を頬張りながら告げる。別にこれといって理由は無い。ただ男子高校生とはこういうものなのだ。
「俺はモンドリアンが描いた赤青黄のコンポジションかなあ」
「美術部過ぎやねん」
「ちゃうで、色が3色しか無くて一見めっちゃシンプルな絵やねんけどなそのシンプルさがええねん。ゴッホとかピカソとかに筆持たしてこの絵に適当に描き足してええよって言うてももう描き足す部分が無いねん。分かる?シンプルウィズベストな絵やねん。それがかっこええねん」
僕はそれを聞き馬鹿が英語を使おうとするなよ、とちゃんとツッコミを入れてあげる。
で本多は?
「マザーテレサかな」
「あーあの偽善者?」鳶巣がユーモア混じりの失礼をかます。
「いや、正確には偽偽善者やな」
「偽偽善者ってなんやねん」
「わからん。なんか響き良かったからゆってみた」と本多
「なんやねんそれ。じゃあ失格でいい?」僕が挑発する
「じゃあ蝗はなにが1番かっこええねん」反撃の狼煙を上げに本多がカウンターを仕掛けてくる。
「カブトムシ」僕は間髪入れずに答える。
20分の偏差値45首脳会議の結果 カブトムシが王冠を被ることになる。ムシキングだ。
予鈴が鳴り僕達は皿を片付け始め教室に戻ろうとしていた。
この時僕達はまだ、このカツ丼が験担ぎになることを知らなかった。


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