幻想
もしこの世でたった一人きりなら
ただ一人で手術室に入り
ボタン一つで全てが終わる
そんな世界なら
もしそうなら
手術と術後はそれ以上にも以下にもならなかった気がする
身体の辛さだけだったら
まあそれなりに痛いとか動かし辛いとかあるけど
その程度
それなり
じゃあなんでこんなに苦しいのか
なんでこんなに辛いのか
それは多くの人に助けてもらったから
多くの人に慰められ大切にされ優しくされたから
もしこの世でたった一人
一人でいたら気が付かなかったことに
他人が関与することで気が付く
そこには可哀想な自分がいた
可哀想な私の存在に気が付いてしまった
省みてしまった
自分自身を
それはまるで
『だいじょうぶ?、よしよし。』
そう言われてから泣き出す子どものように
相手を通して自分はそういう状態にある存在と知ってしまった
だとしたら
私が戦っていたのはすべて幻想だった
心の辛さは私の中で生まれていた
そして静かに消えていった