白い沼

 或る休日、二人で昼過ぎの揺れるカーテンの内側。音楽も街の喧騒も流れない静かな場所でコーヒーを飲んでいた。
 彼女はそんな静かなところにつらつらと言葉を置いていく、そんな時間。
 なんとも不思議な、とてもとても古めかしい感情を感じる。深い沼に落ちたようで、動かなくても自然な快楽に襲われる。私はそれが好きだ

 テーブルに切り取られた上半身に着せられた白いセーター

 何も手入れされていないのに病気のように白い肌

 色素の薄い家具やティーセットが並ぶ白い部屋

 そんな部屋に黒いハイネックと赤いエプロンの私。毎度この時ばかりは、出てくる物語を間違えたのではと勘違いさせられる
 外を見ても白い三日月、私の味方は目の前のコーヒーだけらしい。鬱蒼とした緑の応援は、葉っぱを一枚飛ばすだけで終わってしまったようだ

 話が一通り終わったのを感じ取り、彼女のカップにミルクを注いで彼女の味方がまた増える。
 そしてまた、白い沼に引き戻される
 話をする彼女を見ていると、周りの色も相まってかどこかへ消えていきそうな錯覚を覚える。話しているだけ無機物ではないのは確かだが、落ち着いた声と一定のトーンで淡々と話す様はこの空間に生物は私だけだと証明しているようだった

 霧のように、煙のように、湯気のように削がれていく彼女を眺める



「───ねえ?」


「あ」

「おはよ」

「おはよう」

 急な呼びかけに私は今日も、現実に引き戻されるのだった


あとがき

 これはなんでもない二人の休日。私は、あまりにもゆったりとした日常に疑問を感じる間も無くこの時間が来る度に消えゆく彼女を眺めているのでした。
 起承転結?知りませんね。インスピレーションの消化です。でもこういう雰囲気好きなんですよね。いつか自分も過ごしてみたいです
 山奥の白い一室でコーヒー。素敵じゃないですか、憧れますね
 一応モチーフも貼っておきます

ではでは

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