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【エッセイ】あの頃にもどりたい

「なぜ、北海道と沖縄は外されたんだろう?」
「遠いからよ。飛行機も、鉄道も、自動車もなかったんでしょ。行けないじゃない」

1890年に行われた、第一回総選挙。明治22年、帝国議会衆議院選挙のことだ。
このとき北海道と沖縄、そして小笠原諸島、樺太は除かれた。選挙権が与えられなかったというわけだ。
差別だ! 不公平だ!!
こんな声を予想して、少々うっとおしい気分になった。

こられの地域が除かれた理由は、他の府県とは体制が異なっていたから。
北海道は、地方自治体としての法人格がなかった。沖縄は、府県制になっていたが、特例としてだった。
教科書にもあったように、当時の選挙権は、15円以上の納税をしている男子のみに与えられた。
北海道も沖縄も、他の府県とは納税体制そのものが異なっていた。

現代人の感覚からすると、国内の全地域の体制を整えたうえで、選挙を行うべきだとなるだろう。
しかし、それぞれの地域にはそれぞれの歴史があり、いきなり平等とはいかなった事情もわからなくはない。
もちろん除かれた地域の人が複雑な心情なのも想像に難くない。
少なくとも、差別意識から除かれたのはではないことだけは受け取ってほしいと願う。

現代人の複雑な心情はさておき、気分はほっこり。
差別だ!、不公平だ!!の代わりに出てきた回答は、
遠いから。

「新幹線も飛行機もなかったわけでしょ、遠いからいけなかったのよ。荷物とかも重たいでしょうし」
彼女は、疑いもなく、自分の回答に満足していた。
私は、彼女に歩調を合わせることにした。
「交通って、大事ね」

素朴な感性しかなかった、子どものころ。
あのころにかえりたい。
心がほっこりした、あのころにかえりたい。

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