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どうする団塊ジュニア世代(#18)<カオスに飲まれるカオス>


introduction

敗戦後の第一次ベビーブームにより誕生した世代は「団塊世代」と呼ばれ、戦後日本の復興に大きな影響を与えました。

私は戦後日本を早急に復興せさるため、何者かが恣意的に第一次ベビーブーマーを団塊化させたのではと推察します。

あくまで個人的な見解ですので、ホラ話と思って読んで下さい。

ピアニストの娘

時は遡り1946年 大日本生命館にて
(完全にフィクションであり、実在の人物や団体などとは関係ありません)

新憲法草案作成の期限まで「あと6日」

新憲法の草案を10日で作成するという無理難題を押し付けられた加藤法制局部長と、GHQから新憲法作成を託された素人集団MSKの最年少シロータは大政奉還の経緯について話している。

大政奉還までの経緯についてはこちら

「いい加減、大政奉還に話を進めて下さい」
シロータは疲れもあり苛立っていた。

「貴方は誰に育てられましたか?」
思考に煮詰まった加藤は未だに意味不明な質問を繰り返す。

シロータはユダヤ系ウクライナ人を両親に持ち、オーストリアの首都ウイーンで生まれた。
5歳の時、ドイツを中心とした反ユダヤ運動が激しくなったことから日本へ亡命。
15歳の時にアメリカに留学し、日本降伏のタイミングで通訳として22歳で日本に戻って来た。

「両親ですが、何か?」
シロータはピアニストである父親と優しい母親の顔を思い浮かべ、その半生を遡ると自分は日本人とアメリカ人という2つの顔を持っているということを感じた。

想定通りの回答を受けて加藤は質問を重ねる。
「その両親から、もう面倒見ないから、後は自分で勝手にやってと言われたらどうします?」

完全に意味が分からずシロータは加藤に適当に合わせる。
「そりゃ困りますよ。自分で何にも出来ないんだから」

「困りますよね」
「では何故、慶喜は大政奉還したのでしょう」
加藤を遠い目で、うわ言のように語りかける。

突然、慶喜の話に戻り呆気にとられたシロータは、苛つきながら聞き返す。
「それはこっちが聞きたいです。」
「いい加減にしてください。話が全然進みません」

叱りつけられた加藤は、全く怯む様子が無い。
「幕府と慶喜、天皇と朝廷、長州や薩摩」
「関係性や主義主張、目的が支離滅裂で収集がつかないのです。」

「さっきの両親の話と関係あるのですか?」
シロータも期待はしないが、とりあえず尋ねる。

「ボイコットしたら困るだろうとか」
「結局、困って後から謝ってくるとか」
「そんな感じですか?大政奉還って?」
完全に加藤はキャパオーバーである。

何なんだこの人は?と思いながらシロータは諦める。
「今日は終わりにしましょう」

加藤は夜風に当たってきますと言い残し姿を消した。

倒幕の密勅

1946年 日比谷図書館にて
新憲法草案作成の期限まで「あと5日」

シロータは日比谷図書館に駆け込んだ。
ポンコツ化した加藤に見切りをつけて、米森に泣きついたのである。

初老の紳士は図書館のいつもの場所にいた。
「そろそろかと待っておったよ。」
「ところで加藤はどうじゃった?」
微笑みながら米森は尋ねる。

シロータは腕で大きくバツを作り答える。
「どうもこうも。あれはタダのポンコツですよ」
「大政奉還までは順調だったんだけど」
「そこで急に混乱し出して」
「終いには夜風に当たると言って消えました」

米森はまあまあという感じで怒れるシロータをなだめる。
「彼は真面目だからな。ロジックを重視したがる」

「ロジック?」
シロータは興味深げに聞き返す。

「理屈、筋道とか、そんなことじゃな。結果には当然そうなる原因がある。それを論理的、つまり思考の道筋のことじゃ」
米森は嬉しそうに説明する。
「大政奉還が論理的に説明出来ないことが、彼を混乱させた原因じゃな」

「でも、おっちゃんは加藤部長に聞けと?」
シロータは意地悪な質問をする。

「徳川慶喜と加藤は似ている。頭が良すぎて先が見えるが、正しい事を論理的に言ってしまう。そして理屈が合わないことには呆れて、どうでも良くなってしまう。要するに往生際が良いんだな」
米森は更に続ける。
「慶喜は加藤だと考えたら、この先、お嬢ちゃんがイメージしやすいと思ってね。」
「で、加藤は最後何に行き詰まっていた?」

「確か、関係性や主義主張が支離滅裂だとか言ってたよ」
シロータが昨日の苛つきを思い出しながら答える。

「なるほど、支離滅裂か。加藤タイプの人間が一番嫌う言葉だな」
米森の表情は終始、ニヤついている。
「それは加藤が『大政奉還』と同日に、『倒幕の密勅』が下された事を知っていたからじゃ」

「トウバクノミッチョク?」
シロータは初めて聞く言葉に興味深々だ。

カオスに飲まれるカオス

「四侯会議の話は加藤から聞いたかい?」
米森は試すようにシロータに質問した。

「薩摩藩を中心とした雄藩が連合を組んで政治を動かしていこうとする会議だよね」
「そこで除け者にされると気づいた慶喜が、粘って雄藩連合の圧力を跳ね除けたと聞きました。」
シロータはスラスラと答える。

米森は補足する。
「そこで慶喜は、立場をわきまえよ的な態度で上から目線で臨んだんじゃ」

「将軍としての威厳を保たれたのでは?」
シロータの慶喜に対してに印象は良い

「ところがどっこい。薩摩藩の島津久光あたりは困っているなら助けてやってもいいよという感じで、幕府との協力関係を望んでいた節もあるんじゃ」
「しかし良好な関係を築いて幕府内での影響力を高めるはずの会議で、立場をわきまえよとメンツを潰された」
米森の顔は真顔だ。

「何か問題があるの?」
シロータはいまいち飲み込めない。

「これにより薩摩藩が武力倒幕路線で一本化されたんじゃ」
「四侯会議で慶喜が雄藩連合に『ご指導ご鞭撻お願いします、徳川も雄藩連合の末席に加えてください』と頭を下げて、幕府協調派を取り込んでおけば、こんなことにはならなかった」

「でも加藤部長は、それでは慶喜が鎌倉殿になると」
シロータは疑問をぶつける。

鎌倉殿のワードに一瞬戸惑った米森だっが、とっさに理解して答える。
「それは無い。幕臣の全員が雄藩側に寝返ったら可能性はあるが、鎌倉期とはパワーバランスが圧倒的に違う」
「それがわかっているだけに薩摩藩は武力倒幕路線を選択したんじゃ」

「それと倒幕の密勅とどう関係するの?」
シロータは話を戻す。

困り顔で米森は話し始める。
「四侯会議後、長州藩を許すという密勅と、倒幕の密勅が出され、それに合わせて長州と薩摩は討幕の軍勢を出陣させたんじゃ。」

「つまり、出来レース」
シロータの理解力には目を見張るものがある。

その答えを確認した米森は難題をシロータに出題する。
「密勅は誰が作り、誰が出したかわかるか?」

「そりゃ、天皇でしょ」
シロータの答えは早い。

「それがよくわからない」
米森は、コレが本題とばかりに話し出す。
「天皇陛下は直接勅命書を出さない。陛下の勅命を、しかるべき手続きにより勅命書を出すのだが、この密勅はしかるべき手続きの形跡が無い」

「まさか偽物」
シロータは恐る恐る尋ねる。

「それは分からない。そもそも勅命がこんな感じで出るよ的なサンプルだったという説もある。また、こんな感じで出るから安心して出陣していいよ的な保証書だっという話もある。」
米森は持論を述べて、こう付け加えた。
「間違い無く言えることは、密勅を合図に軍事行動が開始された。」

「こうなるともう、何でもアリだね。」
シロータの率直な意見だ。
「でも誰がこんな企みを計画したの?四侯会議までは協力しようとしてたんじゃ無い」

「加藤が混乱したのも、ソコなんじゃ。」
米森は結論付ける。
「四侯会議後、プレーヤーが入れ替わったんじゃ。」

「プレーヤー?」
シロータは聞き返す。

「藩主や幹部クラスから下級藩士に主導権が移って、何でもありのカオス状態となった」
米森は若干、興奮気味に話を続ける。
「彼らにはロジックは無い。手段はどうでもいい、あるのは討幕という目的だけだ。」

「そんなんじゃ。民衆は誰も認めてくれないよね。」
シロータは鋭い。

「確かに既得権益のある藩主クラスはそう思う。しかし下級藩士は失うものは無い。地位も名誉も新しく作ればいんじゃない位にしか考えてない」
米森は解説を続ける。
「ペリー来航当初、カオスを作り出そうとした雄藩が、最終的には逆にカオスに飲み込まれた。」

「それってどういうこと?」
シロータは確認する。

「手段を選ばない暴走した志士達を、誰もコントロール出来なくなったということじゃ。」
米森はそう答え、やっと例のキーワードが登場する。
「しかし頭脳明晰な慶喜も四侯会議以降、何もしていなかった訳では無い。密かに『大政奉還』という革命返しの手札を整えていた。」

「革命返し?」
シロータは意味不明の言い回しに困惑する。

「そうそう、革命返しじゃ。大政奉還は論理的に組み立てられたものでは無い、単なる革命返しだ。そう理解しないと加藤のように混乱するぞ。」
米森はそう言い放ち、やっと大政奉還の話を始めた。

大いなる反省(解説)

明治維新編がカオスから脱出できません。加藤と同様、私も完全にカオス状態に陥り、思考が整理できません。
誠に申し訳ございません。
次回は本当に大政奉還の話をすると思います。
<続く>

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