菌血症→心内膜炎の可能性を評価するスコア色々

菌血症で感染性心内膜炎を疑うものといえば黄色ブドウ球菌であるが, 連鎖球菌, なんなら腸球菌もリスクにはなる.
どの患者で注意すべきか, 心内膜炎の評価としてTTE(経胸壁エコー)やTEE(経食道エコー)を行うかを知ることは重要.

これに関してはいくつかスコアがあるのでこの際まとめてみよう.


黄色ブドウ球菌菌血症におけるIE予測スコア: POSITIVE, PREDICT, VIRSTAスコア

*1 : 動脈塞栓, 敗血症性塞栓(肺), 感染性動脈瘤, 頭蓋内出血, 結膜出血, Janeway病変
*2: 心内膜炎既往, 人工弁, 心臓内デバイス, 先天性心疾患, 弁膜症
PREDICTスコアはDay 5で評価. 72時間以降の血液培養結果を待たずにDay 1で評価する方法もあり(その場合は4点をカットオフとする)

■ どのスコアも血液培養の陽性が含まれているが, 
POSITIVEでは陽性までの時間が, 
他2つは治療開始後フォローの陽性が含まれる.
□ また, 心疾患の既往やデバイス, 塞栓症状, 感染の状況(IV drug use, 院内や施設内感染)が重要

■ オランダの7施設において, 成人例の黄色ブドウ球菌菌血症(SAB)を前向きにフォローし, 上記3つのスコアとIEリスクを評価した報告.(Clinical Infectious Diseases® 2022;74(8):1442–9)
□ 複数回のSABを繰り返している患者は, 初回の1回のみを導入した.
 また, 
48h以内に死亡した症例は除外
□ SAB患者は90日間フォローされ, IE合併を判断
■ 2017年〜2019年に対象SAB 637例を診断.
 このうち77%(491例)で同意をとり導入. さらに14例は48時間以内に死亡し, 477例で評価された.
□ IEの合併は87例で診断(18.2%)
 
 63例は2 major, 24例は1 major + ≥3 minorを満たす
 
 外科的, 病理で確定された症例は17例
 
 Native valve 53例, 人口弁 20例, 埋め込み型デバイス 14例

■ 各スコアの感度, 特異度

□ カットオフはPOSITVE >4, PREDICT ≥2(Day 1は≥4), VIRSTA ≥3
□ 特異度はどの指標も不十分.

□ 感度はVIRSTAが最も良好で, この患者群におけるNPVは99.3%

 他の指標ではNPV 92.5%, 94.5%と5%以上でIEを逃す
□ PREDICT Day 1は早期にTEEを行う患者群を抽出する指標として使用可能. PPV 66.7%.


まとめるとSABにおいて,

■ 心臓内デバイスがある場合
, 塞栓症状/所見, 感染播種(髄膜炎)がある場合, 
心疾患やIE既往がある場合は早期にTEEが良い
■ 院内や施設発症のSAB, IV drug useでのSABでは,
 血液培養の陽性のタイミングや治療開始後の持続的血液培養陽性(48-72h)での結果を見てTEEを考慮.
■ そういったリスクがない場合(特にVIRSTA <3)では, 
IEリスクは低く, TTEで代用, また菌血症としての治療が考慮される.
(可能な施設や患者の状態が良ければTEEが優先されるでしょうが)

連鎖球菌菌血症におけるIEの予測: HANDOCとリスクフローチャート

連鎖球菌菌血症もIEのリスクにはなるものの, 菌種により大きくそのリスクは異なる. 特に非β溶連菌菌血症(NBHS)ではIEのリスクが高いため, 注意が必要である

□ NBHSは以下の7群に分類: S. anginosus, bovis, sanguinis, mitis, mutans, salivarius, 其の他(Viridans Strepはmilleri, mitis, mutans, oralis, sanguis, sobrinusを含む)

NBHS菌血症におけるIEリスクの評価: HANDOCスコア

■ スウェーデンにおいて2012-2014年に報告されたNBHS菌血症症例を後ろ向きに解析し, IE合併リスクを評価 (Clinical Infectious Diseases® 2018;66(5):693–8 )
□ 患者は18歳以上で好中球減少を認めない群を対象.
□ IEはmodified Duke criteriaか, 剖検にて診断された場合で定義

□ IEの否定は以下の3つのうちいずれかを満たす場合に否定

・TEE否定される

・抗菌薬IV投与が<14日, 全体で21日未満の投与期間で, その後6ヶ月以上再発がない場合

・剖検でIEが否定される
□ Cohortは2つに分けてDerivation, Validationを施行.
□ NBHS 339例のうち, IEは29例で認めた(8.6%).

■ アウトカム: IE症例の特徴より, HANDOCスコアを作成:
□ 3点以上で感度100%[91-100], 特異度76%[71-81]でIEを示唆.

HANDOCスコア

■ Validation study(Infect Dis (Lond). 2020 Jan;52(1):54-57.)では,
□ 68例の疑い患者のうち16例でIEを診断.
□ HANDOCは感度100%[79.4-100], 特異度62%[47-75]でIEを予測.
(カットオフ ≥3点)

菌種とリスク, 血液培養セット数からのリスク評価

■ 溶連菌による血流感染症症例の症例データベースを評価し,
 IE合併リスク因子を評価した. (BMC Infect Dis. 2021 Jul 16;21(1):689.)
□ 溶連菌菌血症は6393例.
■ 菌種によるIEリスクは以下の通り:
低リスク群(<3%): S. pneumoniae, S. intermedius, S. pyogenes
中リスク群(3-10%): S. constellatus, S. anginosus, S. salivarius, S. dysgalactiae, S. agalactiae, S. thermophilus
高リスク群(10-30%): S. parasanguinis, G. adiacens, S. mitis/oralis,
最高リスク群(≥30%): S. gallolyticus, S. sanguinis, S. gordonii, S. mutans.

■ リスク別菌種と血液培養陽性セット数別のIEリスク

リスク因子: 弁疾患, 人工弁, IE既往, 心臓内デバイス

3-10%ではTTEが推奨(黒太), >10%ではTEEも合わせて推奨(赤字).

腸球菌菌血症におけるIEリスクの評価: NOVAとDENOVA

■ 腸球菌菌血症におけるIEの合併率は3-10%程度であり, 特に人工弁ではIE合併リスクが高い.
□ 2003年から2012年におけるEnterococcus菌血症症例を前向きに評価した報告では, 腸球菌菌血症における
IE合併率は4.29%であった.
□ また, IEを来たすのはE. faecalisが9割であり, E. faeciumは1割のみと偏りがある(Clin Infect Dis 2015; 60:528–35.)

NOVAスコア

■ このStudyにおいて, IEリスク因子を抽出し作成したのがNOVAスコア

□ NOVA <4点ではIE症例はない.
□ 
5ptでは23.3%, 6ptでは45.5%, 7ptでは82.4%, 8ptでは66.7%, 
9ptでは60%, 10ptでは100%, 11ptでは83.3%, 12ptでは80%でIEを合併.

■ IEリスクが高いE. faecalis菌血症でNOVAスコアを評価したValidation.
(Clinical Infectious Diseases® 2016;63(6):771–5)
□ このStudyではNOVAスコアを一部変更しており,
 血液培養陽性を2/2セット陽性と定義し, 5点としている.
(このStudy母集団の半数以上が3セット採取していないため)
 また, E. faecalis菌血症の定義も1セットのみ陽性で定義されている.
□ E. faecalis菌血症 647例において, IE合併は78例(12%)
□ NOVAスコアが評価できたのは240例(心エコー結果がある患者).
■ 変更NOVAスコア <4では, IEは2/40例のみ. 
≥4では76/200.
□ 感度 97%, 特異度 23%でIEを予測する結果.

これをまにうけると, 2セットE. faecalisが陽性となるとIE評価が推奨されてしまう…

DENOVAスコア

■ E faecalis菌血症症例を後ろ向きに評価.
 
 IE発症に関連する因子を評価し, スコアを作成した. (Infection. 2019 Feb;47(1):45-50.)
□ 397例の菌血症のうち, 44例でIEを診断
□ 症状の持続期間が長期間≥7日, 塞栓所見がさらに関連を認め,
元々のNOVAスコアに追加し, DENOVAとした.

■ DENOVA ≥3点は感度100%, 特異度83%であり
 
 NOVAスコアの特異度29%を大きく上回った.
□ Validationでも感度100%, 特異度85%(NOVA 35%)
 
NOVAカットオフは≥4点

特異度の面から考えるとDENOVAの方が良いだろう.


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K. Takagishi
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