高リスクTIA, 軽症脳梗塞に対するDAPT
TIAや軽症脳梗塞では早期の抗血小板療法の開始が再発予防に重要である.
ここ数年, 早期のDAPTがより効果的であるという報告が相次いででている.
基本的に高リスクTIAはABCD2スコア≥4点で定義され,
軽症脳梗塞はNIHSS ≤3点で定義されるが, 近年の報告ではNIHSS ≤5点としているものも多い. ちょっと改めてまとめてみようと思う.
アスピリン + クロピドグレルの報告
CHANCE trial; 軽症脳梗塞(NIHSS ≤3)もしくは高リスクTIA発症後 24h以内の5170名を対象としたDB-RCT.
(N Engl J Med. 2013 Jul 4;369(1):11-9.)
・Clopidogrel 90日間 + ASA 21日間投与群
vs. ASA単独90日投与群に割り付け, Strokeリスクを比較した.
・Clopidogrelは初回300mg, 以後75mg/d.
ASAは75mg/dを継続.
全患者は初日に主治医の判断でASA 75-300mgを使用し,
その後に2群に割り付けられている.
患者の母集団;
・軽症脳梗塞症例が70%超を占める.
・発症<12h, ≥12hが半々
アウトカム
・90日間 脳梗塞再発率はDAPTで有意に低い; 8.2% vs 11.7%. HR 0.68[0.57-0.81
], NNTは29.
・出血リスクは両群で有意差無し. Any bleedingは2.3% vs 1.6%
POINT trial: 発症12h以内の高リスクのTIA, 軽症脳梗塞(NIHSS ≤3)患者を対象としたDB-RCT
(N Engl J Med. 2018 Jul 19;379(3):215-225.)
・発症12h以内にClopidgrel + ASA vs ASA群に割り付け比較
・Clopidgrelは600mg Loadingし, その後75mg/d. 90日間継続.
アウトカム
・90日間のPrimary outcome(脳梗塞, MI, 虚血性血管障害による死亡)は5.0% vs 6.5%, HR 0.75[0.59-0.95]と有意にDAPT群で低い結果.
・Major bleedingは0.9% vs 0.4%, HR 2.32[1.10-4.87]とDAPTで増加
このCHANCEとPOINT trialを解析した報告では, 脳梗塞予防効果は発症後21日以内で有意であり, それ以後は有意差を認めない結果.
出血リスクを考慮すると, 発症〜1ヶ月前後のDAPTがリスクベネフィットが良好な可能性がある.
(JAMA Neurol. 2019 Jul 1;76(7):774-782.)
INSPIRES: 発症72時間以内の軽症脳梗塞(NIHSS≤5)または高リスクの動脈硬化に由来するTIA症例で, 血栓溶解療法や血管内治療が行われなかった症例を対象としたDB-RCT.
(N Engl J Med 2023;389:2413-24.)
・発症72時間以内にClopidogrel + ASA開始群とASA+Placebo群に割り付け, 90日間の脳梗塞, TIA再発リスクを比較.
薬剤の投与期間は90日間.
・他に高強度アトルバスタチン vs Placebo群にも割り付け比較している.
・INSPIRESはNIHSS ≤5とした点と発症72h以内とした点がCHANCEやPOINTと異なる.
・軽症脳梗塞: NIHSS ≤5, 高リスクTIA: ABCD2 scale ≥4で定義
さらに, 以下の画像基準のいずれかを満たす;
頸動脈エコー, または血管造影にて頭蓋内・外血管の50%以上の狭窄があり, 脳梗塞の原因として考えられる.
CTまたはMRIにて, 動脈硬化由来と考えられる多発性脳梗塞を認める
・2019年以降は発症24h以内のNIHSS ≤3, またはTIA症例は除外された (AHA, ASAよりこの患者群ではDAPTを行うことが推奨されたため)
母集団
・TIAは13%,
多発脳梗塞が67.6%
・発症24h以内が12-13%
, 24-48h, 48-72hが其々4割
・NIHSS≤3は75%
, NIHSS 4-5が23-24%
アウトカム
・90日脳梗塞リスクは9.2% vs 7.3%,
HR 0.79[0.66-0.94]とDAPT群で良好.
・一方で出血リスクは増加し,
中等度〜重度の出血は0.9% vs 0.4%
, HR 2.08[1.07-4.04]とDAPTで増加する
・Sub解析では,
NIHSSや, 発症時間ではさほど差はない.
多発脳梗塞例ではよりDAPTによる
再発リスク低下効果が期待できる
アスピリン + チカグレロルの報告
THALES: NIHSS ≤5の非心原性脳梗塞, TIAで 血栓溶解/除去療法の適応とならない患者群11016例を対象としたDB-RCT.
(N Engl J Med. 2020 Jul 16;383(3):207-217.)
・発症24h以内にTicagrelor + ASA群 vs ASA群に割り付け,
30日間継続. Strokeの再発リスクを比較した.
・Tigagrelor 180mg Loading, その後90mg bid
ASA 300-325mg 初回, 以後75-100mg/d
母集団;
・脳梗塞症例が9割を占める. NIHSS ≤3が60%, 4-5が30%程度
アウトカム;
・30日間における脳梗塞再発リスクは有意にDAPTで低下するが
出血リスクは上昇.
脳梗塞 5.1% vs 6.3%, HR 0.81[0.69-0.95]
重度の出血 0.5% vs 0.1%, HR 3.99[1.74-9.14].
THALESの探索的解析:30日間の治療期間における不可逆的な有効性と安全性を評価
(Neurology® 2022;99:e46-e54.)
・Ticagrelor併用による主要虚血イベントの減少は, 最初の1wkで生じる
(4.1% vs 5.3%, ARD 1.15%[0.36-1.94])
・Major bleedingも最初の1wkで認められた; リスク増加0.3%
・初期の1wkはDAPTに有利な点が多い結果.
まとめ
・軽症脳梗塞: NIHSS ≤3が基本であるが, ≤5を含めても良い.
・高リスクTIA: ABCD2スコア≥4 で
・心原性ではない場合, 早期のDAPTは有意に再発リスクを減少させる.
この時のポイントは,
・リスク低下効果は発症〜早期に出現するため, 早期に開始することが推奨される.
・24時間以内, 最低でも72時間以内であり, 1週間を超えてから開始しても意味がない.
・DAPTでは出血リスクも上昇する.
・再発リスク低下効果は〜21日で良好である可能性が高く, リスクを考慮するならば3-4wk程度のDAPT, その後は単独, というのは良いかもしれない.
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