小説|『棄てて拾って』⑧(完結)
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あれから、約十年の月日が経過した。
僕は、大学受験に失敗し、一浪したものの大学には結局落ちた。
というより、就職を選んだ。
大学に行っても、やりたいことがなかったからだ。
就職したといっても高卒なので、給料はそんな高くはなく、毎日節約の二文字が頭から離れない生活を送っていた。
だが、勤めていた会社が他の会社と合併するにあたって、僕は会社を辞めた。
それが、二年前の話。
それからは何をするでもなく、ハロワに行ったり行かなかったり、無職のおじさんになってしまっていた。いや、まだお兄さんか。
たっくんは良い大学行って、大企業で安定した生活を送っている。
インパクトがあるのはケンちゃんで、良い大学に行ったところまではたっくんと同じなのだが、どういった心境の変化か、お笑い芸人になると言い出して、今はピンで頑張っているらしい。
未だに繋がりが強いのは、あとひーちゃんくらいか。
仕事を辞めてから一人暮らしをやめ、実家で暮らしている僕にとって、彼女はまたお隣さんになった。
ひーちゃんは、出版社の編集をやっているらしいが、会社が家から通える距離なので、実家で暮らしているそう。
よくうちに上がり込んでは、家事の手伝い等をしてくれている。
学生の頃は、いつも締め切りを守らなかったひーちゃんが、今度は締め切りを守らせる側だというのだから、人生何があるか分かったもんじゃない。
ある日。
僕は気分転換に、小説を書いてみることにした。
なんてったって、編集の方が近くにいらっしゃるんだ。
ひーちゃんに相談したが、渋い顔をされてしまった。解せぬ。
悔しかったので、某小説サイトに投稿することにした。
ひーちゃんを見返してやろうと投稿を始めたワケだが、思ったように閲覧数が伸びず、逆に見せられなくなった。
最近はあまり良いことがないな……。
僕はアレを境に結局変われたのか。
正直、分からないところだ。勉強を頑張れたワケではなかったしな。エタノールを飲んだ影響で視力も失った。
ただ、一つ貫き続けていることがある。
それは、絶対に命を諦めてしまわないこと。
生きる意味とは、とても曖昧なものだ。ハッキリしているような時もあれば、見失う時もある。複数あるように感じる時もある。
だから人生の意味なんて、深く考える必要はないのかもしれない。沼だからな。
僕たちは、そもそも何か意味を持って、使命を背負って生まれてきた存在なのだろうか。
……結局、答えは出ない。
「うーん……。」
何だか、書いていたら僕の頭までこんがらがって来た。
本当に、難しいことだ。
文明の発達に伴って、人は生きるだけのモノじゃなくなった。生きるだけでは、満足できなくなった。
だから、きっと『生きる』以外の自分の『意味』を、存在価値を求めてしまう。
でも、それは雲を掴むような作業で、僕たちを疲弊させる。疲れてしまい、存在価値を求めるが故に、それが掴めないことに自分の無価値を証明された気になってしまう。
もし神様がいるのならば、僕たちはなんて意地悪な試練を課されてしまったのだろう。
「あーーやめたやめた。答えなんて、そう簡単にでないや。」
椅子の背に身を預け、数秒ぼぅと天井を見上げる。
一度は棄てて拾った命。その時僕は答えを得られたと思っていた。でもそれは、一時の安らぎを僕に与えてくれただけで、すぐにまた僕は悩みを抱え始めた。
それでも、あれから僕には命を諦めない、自分を諦めないという信念が生まれた。
………結局、それが大事なのかもな。
少し悩んだ後、小説の最後はこう締め括ることにした。
僕達はただ、『自分を諦めてしまわないこと』。自分の未来を、可能性を信じることしか出来ない。
キミの未来は、その可能性は、キミが思っているよりずっと広いんだ。
それを棄ててしまうのは、あまりに『もったいない』だろう?
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