小説|『棄てて拾って』②
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「ようこそ、死後の世界へ。」
目を開けると、そこには何もなかった。ただひたすらに白い世界。雪が生み出す銀世界とは似ても似つかない、不気味なほど何も感じない景色。
「オイオイ、何もなかった、はヒドイんじゃあないかキミィ。」
何もなかった。
「見えてるよね?ココ!ココ!!見えてるんでしょー!?無視しないでヨぉ。」
僕は断じて何も見てはいないし、聞いてもいない。だから、僕に向かって手を振っているような奴もきっと、目に入ったゴミがかくかくしかじかなだけなんだ。
そんな、人型クッキーが話しかけてくるみたいな、現実の法則を捻じ曲げてるような奴が例えあの世だからって、存在していいわけないんだ気色悪い!
それに、何だかあいつの姿、僕が小さい頃仮面ドライバーのシール欲しさに母さんにおねだりして買ってもらって、怪人シッカーを出したウエハースのキャラに似てんだよなぁ!?
「ボ、ボロクソ言うじゃないか…。この姿はキミの所為なんだが。まあ、キミがどう思おうと話は進めさせてもらうヨ。」
なるほどそうくるか。
まあ、こちらも何が何だかわかっていない状態だ。キミの話とやら、聞くだけ聞いてみるとしよう。
「助かるヨ。さっきも言ったけれど、ココは死後の世界だ。あの世ってやつだね。キミは現世、つまりこの世で死んでココに来た。ちなみに、自分がどうして死んだのか、キミは覚えてる?」
自殺だね。エタノールを飲んだよ。
今でも僕の英断に心が震えるね。なんて、なんて大きな決断ができたのだろう。ウジウジばかりしていた自分が情けないッ!
「後悔してないらしいネ。」
後悔?まさか!
寧ろ、爽快ッ!だったよ。今までの優柔不断な僕に見切りをつけることができたし、最期の最後まで無視してきやがった母さんの慌てふためく顔も、最高だった。ざまあ(笑)、てね。
「…………遺してきた家族について、何も思わないの?それだけじゃない。キミにも、現世にはたくさんの友達がいるだろう?アイツらがキミを心配するとは、悲しむとは思わなかったのかい?」
なんだ。知ったような口を聞くじゃないか。何も知らないくせに。お前に僕の気持ちが1ミリだってわかってたまるか。
いいんだ。アイツらだって僕にそんな興味なんてないさ。わかるか。アイツらは、別に僕になんて何も期待してないし、僕もそれに気づかないほど愚かじゃない。
きっと今頃、学校で授業受けてお勉強中だ。
そう考えると、悪いことしちゃったかもな。僕の死なんてどうでもいいことだが、一応同じ高校の生徒の死だ、何も音沙汰がないということはないだろう。あいつらが一生懸命頑張ってるお勉強の邪魔になってしまうかもしれないな。
「不安なら、見るかい?キミの死後の現世の様子。ボクなら見せられるんだけれど。」
ははっ。いいよ見なくて。
「どうして?」
だって傷つくだろ。わかってても、実際に見るのは僕だって辛いんだ。折角鬱陶しい感情から解放されたのに、そんな思いはもう生きてる間だけで十分だ。
キミもそう思うだろ?
「…………確かに、苦しい思いなんて誰もしたくない。でも、現世の様子はキミの想像した姿と異なるようだけれどネぇ。」
これは困った。僕の想定が甘かったか。やはり、人は自己をどうしても過大評価してしまうものだね。益々見たくなくなったよ。
ほら、さっきまで死後の世界の説明をしていたじゃないか。話が逸れてるな。早く肩っ苦しい説明を終わらせて、ゆっくり日向ぼっこでもしていたい気分なんだ。さっと残りの説明も済ませてくれ。
「うん。でもキミは、ジブンのことを過小評価しすぎているようだ。」
そうかな。僕はそうは思わないけれどね。
「そうだヨ。だからキミは、もっと自分のした行為の重さを知った方がいい。」
何だよ急に………!?
____『僕』を白い光が包む。そして、そこには誰もいなくなった。
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