【ショートショート】『写真に写りたい男』
ほら、何処にでも居るものだろう?
例えば仲の良い数人で写真を撮っていて、いつの間にか写り込んでいる。
例えば集合写真を撮っていて、いつの間にか中央で寝そべっている。
例えば行事の度に、何人もの人とツーショットを撮っている。
そんな人。
私、遠山優奈が在籍していた高校のクラスにも、当然のように居た。
目立ちたがり屋で、空気読めよ、とか思うことが多かった気がする。
そいつはクラスのみんなから、若干煙たがれながらも、全く折れずに愚直に写真に写りに行った。
「優奈ー、手が止まってるぞー?」
「んー?あ、ちょっ、取らないでよ!」
「あはは!ぼぅとしてるのが悪いんだー!」
親友の美咲が、私の取り皿の食べ物を横取りして去って行く。
「はぁ……」
で、ある日、そいつに聞いてみたことがある。
なんでそんなに、写真に写りたがるのか、って。
そいつは困ったように笑い、こう答えた。
「みんなと同じ瞬間を共に過ごした。その、証が欲しかったから……かな」
「ふぅ〜ん」
中々ロマンチックなことを言うんだな、と感心した自分が少し悔しくて、わざと素っ気ない返しをした。
それと同時に、彼独特の考え方の起源にも興味が湧いたが、流石に踏み込み辛くて、ずっと聞けないまま……
……彼は、死んでしまった。
別に交通事故とか、事件に巻き込まれたとかじゃない。
幼い頃から、決まっていたことだったそうだ。
彼は生まれた時から身体に重大な疾患を患っていて、成人まで生きれれば良い方、と言われていたらしい。
高校の卒業式の日、彼の母親が涙ながらに語っていたことだ。
「息子は、みなさんと一緒に高校を卒業したがっていました。それまでは、絶対生きてやるって……っっ!」
あぁ、キミはなんてヤツなんだ。
そんな宿命を背負いながら、決して膝を折らず生き抜いてきたっていうのか。
そんなの、小馬鹿にしてきたこっちが、あまりに惨めでダサいじゃないか。
写真にひたすら写ろうとしてきたことも、思えば彼にとっては存在証明の1つだったのかもしれない。
おれを、わすれないで。
スマホの写真の約8割に写り込む彼の瞳が、そう訴え掛けているような気がした。
「優奈、早く早く!」
「はいはい、今行くよ」
美咲に連れられて、最前列の真ん中、その1つ隣に入る。
「今日の同窓会、アイツも来れたら良かったのにねー……」
「……」
いつも明るい美咲が、いつになく沈んだ声で、そう呟いた。
つられて私も、最前列の真ん中、いつも彼が精一杯の自己主張をしていた場所を見つめる。
ポツンと空いたその空間は、みんなで話し合ってわざと空けておいた。
「じゃあみなさん、いきますよー!」
カメラマンさんが、合図を送る。
カメラに目線を向けながら、私は彼の横顔を視る。
身長の低さゆえにいつも最前列だった私が、チラリと視線を横に向けると、いつも満面の笑みで。
集合写真の度に、悔しいけど見てしまう、そんな魅力的な横顔を。
だから私も、少しは彼に倣ってみることにした。
今自分にできる、最高の笑顔で_____
「ハイ、チーズ!!」
その日の夜。
家のベッドの上で、私は今日の写真を見返していた。
やたら写真に写りたがる彼の所為で、私はクラスのカメラマン的立ち位置になってしまっていた。
今じゃ懐かしい、思い出。
「あーなんか悔しい」
私ってば、アイツに影響され過ぎじゃない。
「あれ……?」
写真を流し見しては、右へスライドしていた人差し指が、思わず止まった。
……なにか、今ヘンなものが写ってた気が……。
恐る恐る人差し指を左へスライド。
表示された集合写真。
違和感の原因はすぐに分かった。
「……ふふ……!」
別にこんなところにまで、出張ってこなくても良いのだけれど。
写真の中央。
いつもの位置で、いつものように笑うキミの、その顔は。
忘れたくても、忘れられなさそうだった。
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