【ショートショート】『幸せの音』
「今月の内閣の支持率は遂に20%を切り……」
「や〜ねぇ……。来月の総選挙には政党交代かなぁ。」
「お母さんなにみてるのーーー!!??」
ドシーン!
リビングのソファでテレビを観ているお母さんに、思いっきり飛びついた!
「やっ!ちょっと危ないでしょ!」
「あ!お母さん、おせんべい食べてる……」
お母さんからいい匂いがする!
「………欲しいの?」
「うん!」
「はぁ……。はい、あげる。」
ガリッ。
「お母さん!これおいしい!」
「そう?よかったねー。」
お母さんが、最近買ってきたおせんべい。ちょっと辛いけれど、ピーナッツがあるから我慢できるんだ。
これ、お母さんの大好物みたい。ぼくが一袋食べる前に、お母さんは二袋食べちゃった。
「ぼくの分も食べないでね!」
「え〜?早くしないと、お母さん全部食べちゃうよ?」
「えええーー!ズルいー!」
お母さんはぼくより口が大きいから、一口で一気に平らげちゃうんだ。大人ってズルい。
ぼくも早く大きくなりたいなぁ。
「お母さん!このおせんべい何ていうの?」
「『柿の種』って言うんだよ。」
「種ー?じゃあさ、これ埋めたら柿ができるのかなぁ?」
「ううん、これは埋めても柿の木はできないんだよ。」
「えーー!不思議ー!」
柿の木はできないのに『柿の種』だなんて、よくわかんない名前だなー。
なんで、『柿の種』って言うんだろう?
「えー。お母さんだってわかんないよ。」
ちぇっ。
『柿の種』の中身はどうなってるんだろう。こんなにぷっくら膨らんだお腹には、何があるのか気になって、試しにはんぶんだけ齧ってみる。
「うわぁ……。」
なんにもない。
え、でもおかしいよ?だって『柿の種』は確かに種なはずなんだもん。もしかしたら、『柿の種』はずっと中身を探しているのかも!
よし、ぼくが見つけてあげよう!
「『柿の種』さん、あなたの中身はどこにあるの?」
「…………。」
でも、『柿の種』さんは何も答えてくれなかった。「むーー!」と唇を尖らせても、向こうはずっと何も言わないまま。
しょうがないなー!ぼくが他のみんなに聞いて来てあげるよ!
水槽の中の金魚さんを覗き込む。
「金魚さん金魚さん。『柿の種』さんの中身知らない?」
「ぷくぷくぷく……{え〜わかんないよ。大体、それってオイシイの?}。」
「おいしいよ!少し分けてあげるね!」
カリッ
「ぷくぷく{オイシイね!んーでもやっぱりわかんない!}」
ベランダで育ててるミニトマトさんのところまでかけて行った。
「ミニトマトさんミニトマトさん。『柿の種』さんの中身知らない?」
「サアサア……{原料は…お米でしょうか。良い肥料になりそうです。少しくれませんか?}」
「いいよー!」
カリッ
「サアサア…{んぅ〜程よいデンプンッ!ついでに、中身の詰まった私のトマトもいかが?}」
「ありがとう!」
トマトおいしい!
お月様を見上げる。今日のお月様は三日月っていうらしい。
「お月様お月様。『柿の種』さんの中身知らない?」
「ぼぅぅぅぅ{なんじゃ、随分とワシに似ておるな。少しくれんか?}」
「いいよっ!」
カリッ
「ぼぅぼぅぅぅ{ううむ、これは美味じゃのぅ。しかし、ワシには中身があるのじゃよ。此奴の中身は、何処に行ってしまったんじゃろうか。}」
「ねー!」
みんな知らなかった、『柿の種』さんの中身の行方。
「あ、お母さーん!」
「なあに?」
「『柿の種』さんの中身知らない?」
「あら、『柿の種』さんのお手伝いしてるの?」
「うん!」
「えらいね〜。」
お母さんはぼくの頭を撫でてくれた。
「お母さんも、知らない?」
「そうね〜。『柿の種』の中には、幸せが詰まってるの。それを、私たちに届けてくれるのよ。」
「ええーー!!すごい!」
「そう。だから、『柿の種』のカリッていう音は、幸せの音ね!」
そうだったんだ!
カリッ
今日もいっぱい、幸せをありがとう!
………でも、『柿の種』の中にある幸せは、何処からやってくるのだろう?
ガリッ
「お母さん!ピーナッツも美味しいね!」
「そうねえ。おせんべいの味を一旦リセットしてくれるよね!」
「すごいですよぉ!ピーナッツ型【幸せ】回収機の回収効率120%を突破しました!」
「うむ。計画は順調だな。」
とある会社の研究施設。
コンピュータの数値を見た研究員が、興奮気味に語るのを、"大臣"は鷹揚に応じる。
「いやあ、『ガリッ』という音と同時に回収することで、鮮度100%に近い【幸せ】を得られるなんて、天才ですね僕ぅ!」
「そろそろ【幸せ】も溜まって来た頃だ。もうすぐ『【幸せ】のお裾分け』ができそうだな。」
「内閣支持率もやばいですからねぇ。ここで1発かましときますかぁ?」
カリッカリッガリッ
今日も幸せの、音が鳴る。
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