009: 『最近の仏壇は液晶パネルを組み込んでいるの?』

2023年1月25日(水)の備忘録② 1 of 2

 2000年頃の話です。クリスマスから26日に日付が変わった深夜でした。体調を崩して実家に帰省していたのですが、頭が覚醒して眠れずにいました。トイレから出た後、廊下の先で雪がチラチラ降っている様に見えたんです。
 「北海道の真冬に家の中にまで雪が吹き込む程、窓を開けて寝ていたら凍えてしまう。こんな季節に誰が開けて寝たんだろう?」雪がチラついていた所で床を確認しましたが雪や溶けた水もありません。それほど冷たくも無いのです。

 廊下で雪が降っていると思いましたが、居間の方から吹き込んでいる様なのです。「庭に向いた居間の大きな窓が空いてるかもしれない」そう思って窓を調べましたが、ちゃんと閉まっていてカギも掛かっています。

 よく見るとチラチラと降っているのは雪ではなく金色の蝶の鱗粉みたいな光の粉が降っているように見えます。どうしても触ることができないのです。不思議に思いながら振り向くと、仏間へ繋がる襖の隙間から居間にチラチラと金の粉が吹き込んでいます。

 僕のボキャブラリや文才が貧弱で『吹き込む』と表現できてないですが、『線香花火の最後に出ている光のシャワーがダイヤモンドダストのような感じ』で伝わりますか?

 部屋の内側から吹き込んでいる様で、僕は状況が理解できません。
 襖をあけて仏間に入り、仏壇を見ると仏壇の金箔を貼った部分や金泥を塗った部分から『金色の鱗粉』が『チラチラ』というか『ひらひら』『きらきら』『ぽろぽろ』とこぼれ落ちているのです。どんどんこぼれているのが止まりません。

 当時のその仏壇は修繕をしたばかりで綺麗になっていました。その時に僕が懸念したのが「修繕で、直したはずの部分の金箔や金の塗装に不手際があり、剥がれてきてボロボロになってしまっているのでは?夜が明けたらすぐに父親に言って、修繕の手直しを発注してもらわないと、法事に間に合わなくなる。」

 僕は焦りました。畳の上にこぼれた金を手のひらにくっつけて、拾おうとしましたが手には何もつきませんし、異物感もありません。僕はさらに動揺します。仏壇の金色の部分が心配になって、しっかり確認をしましたが、ちゃんと綺麗に修繕されています。落ち着いてくると、不思議なことに気が付きます。

 部屋の明かり仏壇の灯りも点けていないのに金色の部分が柔らかい光を反射しているのです。「光源はどこだ?」光源が私の後ろにあれば私の影でこんなに綺麗に光りません。仏壇の中を観察し始める僕。

 中に『本尊:阿弥陀如来』『脇侍左:蓮如上人』『脇侍右:親鸞上人』の掛け軸が三幅下がっているのをまじまじと見ていると、掛け軸の日本画がまるでアニメーションの様に画の中の人物が動いているのです。動くといっても高名な僧侶ですから品格の在る振舞いでくつろいでいるように見えます。

 「動いてるー。最近の仏壇は液晶パネルを組み込んでいるの?えーっ、親父がオプションでこんなの仏壇に付けたのか?」僕は戸惑いが収まりません。向かって右側の掛け軸を見ていると中の人がジェスチャーで左を指します。

 「左?左の人を見るのか?」左に眼を向けると、左の人物は右を指し示します。また右を見ると左を指します。「どぅ、ゆぅ、ことぉ?」ついに真ん中の本尊である、阿弥陀如来みずから手招きをしています。

 まるで、「こっち、こっち」と言っているようです。そうです、僕なら、さっさと真ん中の本尊の主役に目を向けろ!ふつう真ん中から見るだろ!真ん中を飛ばすんじゃない!と、しびれを切らして怒鳴ると思いますが、仏の道を極めた方々は、流石に心が広い(笑)。

 真ん中の本尊である阿弥陀如来を見た後、すぐにその場を去ろうとすると、阿弥陀如来は再び慌てて手招きをします。「あ、ごめん、まだ用事が終わってなかったんだ。」阿弥陀如来がその場でゆっくりと右に回ると香炉が出てきて古いお寺の様な香りが漂ってきます。

(つづく)

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