名言
座右の銘を胸に刻んで生きている人が、この世に何人いるのだろうか。
中学生の頃、地元の社会人が職業講話と称して公演をしにきたことがあった。看護師、消防士、自衛隊、製薬会社、鉄道会社など、聞けばやってることが想像できそうな人たちだった。こういう講話こそ、訳の分からない仕事をしてる人が来るべきなんじゃないのか?と思ったりしたが、人の話を真面目に聞くタイプではなかったので、どっちでもいいやということにした。
講話をした人の中に建設業者の人がいた。50〜くらいのおじさんだ。その小太りのおじさんは髭を生やしていて、タバコも酒も激しいです、という顔をしていた。外見だけで人を判断してはならないのかもしれないが、こういうのは理性で止められないし、大体当たってると思うからやめるつもりはない。
そのおじさんが講話の最後にこんなことを言っていた。
「夢を叶えたいならプラスのことを言いなさい。口に+(プラス)と書いて叶うって書くでしょ?逆にマイナスなことを言ってしまうと、吐くっていう言葉になる。言葉には人を変える力があるんだ」
おかしくね?
その理屈は、口にー(マイナス)と書いて「くたばる」と読ませる漢字でもないと成立しないのだ。
百歩譲って「叶う」がプラスなことを言って夢を叶えたやつだとする。そうすると「吐く」の場合は、プラスなこともマイナスなことも言っているやつになる。プラマイゼロの人間は一般人と言えるだろう。そんな奴が吐いているのだ。一大事だ。きっとひどい感染症でも流行っているのだろう。
プラマイゼロの一般人でさえ吐いてしまうような世界で、マイナスな発言ばかりする奴はどうなってしまうのか?
くたばるに決まってる。
繰り返しになるが、口にー(マイナス)と書いて「くたばる」と読ませるような漢字はない。よって、おじさんの理屈は全く通じていない。
あれ?もしかして、名言って屁理屈ばっかりなんじゃね?
気になったら検証するしかない。とりあえず、名言を並べて気づきを言ってみよう。
・夢を見ることができれば、それは実現できる
ウォルト・ディズニー
これ順番逆で、実現できることしか夢見れない、が正しい気がする。
・登りたい山を決めることで人生の半分が決まる
孫正義
半分って意外と少なくね?ちょっと無難にいったでしょ。9割決まる、くらいは言っても良かったんじゃないかと思う。
・つまづいたっていいじゃないか にんげんだもの
みつを
人間であることを言い訳にしたら何でも許されちゃうよ。暴論だ。
・常識とは18歳までに身につけた
偏見のコレクションのことを言う
アインシュタイン
偏見が激しい僕でも常識人になれるかもしれない。
勇気をくれる言葉だ(多分捉え方違う)。
・生殺与奪の権を他人に握らせるな 冨岡義勇
あれは炭治郎がかわいそうでしたね。
・義を見てせざるは勇なきなり 孔子
高校の時、漢文大嫌いでした。
・人間は恋と革命のために生まれてきたのだ
太宰治
これではこの世に童貞がいる理由を説明できない。
・諦めたらそこで試合終了ですよ 安西先生
これは本当にその通り、文句のつけようがない。
名言として残ってる言葉は、ツッコミどころはあるものの、生き様を表していていいな、と不覚にも思ってしまった。名言は、言葉そのものというよりも、その人の生き様とリンクさせることによって輝くらしい。それが屁理屈であったとしても、人の心に残って勇気を与えるのであれば、案外悪いものではないかもしれない。悔しいが、名言をたくさん見ていたら捻くれた心が少し真っ直ぐになってしまった。
人の言葉の粗を探すのはやめよう、そして、中学生にそれっぽいことを言ってドヤ顔をする中年親父になるのもやめよう、そう思った。