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高校ランクに垣間見える格差社会

濃尾平野のほぼ真ん中にある当塾は多くの高校に通いやすい立地にある。1.5㎞離れた最寄駅から名古屋駅までは特急で1駅12分である。公立高校の普通科系統だけで68もの高校が尾張学区内にある。勿論このうちの半数ほどは通学に現実的ではない立地なので、20~30校くらいが現実的な選択肢となる。私立高校や専門学科もそこに加えると50校くらいの中から高校を選ぶことになる。昔、岐阜の可児と美濃加茂の2つの校舎で働いていたときは、36人の中3生の進路希望の欄に書かれた高校が6校だった。公立進学校が2校、中堅公立校1校、公立実業高校1校に私立高校が2校。当地から車でたった45分くらいの所でもそんな違いがある。選択肢が多いという面でこの地域の中学生は恵まれている。

先日、夏休みに受けた模試の結果が返ってきた。ある生徒の個票を見て思わず「う~ん」と唸ってしまった。別にその生徒の結果を憂いたのではない。ただそこに載っているデータに思わず「マジか、、」という気持ちになったのである。

愛知県尾張公立高校普通科 Aグループ
愛知県尾張公立高校普通科 Bグループ

内申でオール4程度、偏差値で約60の結果を模試で残した生徒の合格可能性一覧である。前述したように68の高校が載っているのだが結果毎に分けてまとめると以下のようになる。
95%…42校
75%~94%…17校
25%~74%…1校
24%以下…8校

オール4で偏差値60の生徒というのは学習塾にとっては最も鍛えがいがある学力層と言える。学校では上位1割から2割くらいに位置する。授業の中での吸収は良い方であるが、同時に粗さも垣間見える程度の水準である。集団塾のボリュームゾーンと定義できる。

しかしこの生徒が努力を続けて手が届く適度な目標になる高校が存在しない。この10年愛知県ではトップ校(旭丘、明和、一宮、向陽、菊里、千種、瑞陵)の人気が上がったか現状維持、そこに続く郊外の2番手校は周辺人口の減少(半田、横須賀、一宮西)と厳しい学力指導が敬遠され(西春、五条)志望者数を減らしている。したがって25%~74%に位置する高校が桜台1校のみといういびつな構図になってしまっている。

2018年のボーダー この6年で知多半島の半田や横須賀が大きく下げた

生徒のモチベーションを考えると30~70%くらいの「ちょっと油断すると不合格になるが、しっかり努力し続ければ合格できる」という水準の高校が自転車通学圏内に一つは欲しい。しかし現実は名古屋の文教地区に固まってトップ校が鎮座し、それ以外の高校はこの層にとってはのんびりしていても合格できてしまう。

なぜ小中学生やその保護者に「勉強軽視」が広がっているのか、この地域の公立小中学校の教員に「学力向上」を第一義としない指導が広がっているのかを考えた時に、その理由が現状の構図になるように思う。要は上位1割しか競争原理の働く入試をしていないのである。これが上位3~4割であれば、当事者になる人が増えるのでもっと皆が必死になるのだろうが、1割になるとさすがに厭戦的なムードになる。

ここを補助線にして考えると、加熱する首都圏の中学受験はこの上位1割の椅子取りゲームなのだろう。また難化した(特有の訓練が必要になった?)共通テストはこの1割の為に作成されていると考えると納得できる。
私の尊敬する恩師の一人が「格差社会は1割しか勝たんからいかんのよ。9割は不幸になるわけ。なぜか多くの人はフィフティーフィフティーで考えるんだけど、そんな格差社会は存在しないの」と話していたことを思い出す。
※決してここに入れないから不幸になる訳では無い。学力が無くても幸せに生きる方法はいくらでもある。

要は私が言いたいのは、高校入試や大学入試が皆が経験するものではなくなっていくのだなという事実である。そしてこの残り9割は学力そのものよりも情報戦が中心になる。それだけ書くとそう悪いことではないが、地に足が付いた努力よりも、いかに制度をハックするかの方にエネルギーが注がれてしまう。

またこの辺は現在資料を作成中である。近いうちにnoteで高校の現状が矛盾に満ちたものであるものを示せると思う。

最後にこの生徒は10%の高校にまだ近づきたい欲を持っている。ファイティングポーズを崩してはいないことを報告しておく。

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