2008年 カナダ:野生動物の王国で①・ グリズリーからのメッセージが

毎年恒例となっている兄妹旅行で、この年はカナダに行った。
その日はロッキー山脈の近くにある、旅行社所有の家に泊まった。
庭先にはエルクが来るとのことだったが出会えなかった。
まだ朝靄がある中、車に乗り込み出発した。
すると、森のなかで2頭のエルクがのんびりと潅木の葉を食べていた。
やさしい目で穏やかな表情が、大きな体をゆったりと導いていた。
その日の最初はルィーズ湖だった。
湖のまわりは深い緑の針葉樹がおおい、湖はエメラルドグリーンの水をたたえ神秘さを深めていた。



氷河の水が溶け込むため氷河に含まれている物質が溶け込んでその色になるという。
ニュージランドの湖も同じ色をしていた。
正面には3464メートルのビクトリア山が燦然と聳え立っていた。
女王の娘の名にふさわしさ湖を散策した後、その途中から山頂に向けてトレッキングを開始した。
山腹の高台から湖を見下ろすと絶景だった。
まるで箱庭のような景色が広がっていた。日本では見られない壮大で神々しい風景であった。
エメラルドグリーンの湖の向こうには氷河を頂く3000メートル級の山脈が連なっていた。
 
次はその氷河に向かって車を走らせた。
走り始めてからしばらくすると、広い車道の左側道に大鹿のような動物が4,5頭歩いていた。
普通に、人間が道路わきを歩くように大きな野生動物が歩いているのだ。
大きな角を上下に動かしながら自分の道のように堂々と舗装道路を歩いていた。
ガイドが「みなさんラッキーですね。もう野生動物を2種類みましたよ。」と笑顔いっぱいに言った。
我が兄妹は、あんまり感激もなく「よかったね」と軽く言い合った。
かれらはあまり動物に興味がないというか自然に関しても無頓着である。


さらに1、2時間走ると渋滞が始まった。
こんな田舎道で事故でもあったのだろうかと前方を注意していると右側道に何台もの車が止まっていた。
さらに近づくと人が車から降りてカメラを向けていた。
カメラの方向をみると車道から5,6メートル上の山斜面に灰色熊グリズリーがパンダすわりをしていた。
目の前の笹を手で倒しながら食べていた。



ガイドが緊張した声で、「みなさん車から絶対に出ないでください。危険です。あー危ない。あんなに近づいているのは自殺行為だ」と言った。
グリズリーはその気になったら凶暴で、数秒で人間を倒し殺してしまうそうだ。
森の中でも時速40キロで走るそうだ。毎年被害者がでているとのことだった。
見た目はパンダすわりで可愛くみえ、ついついそばに寄りたい気分ではある。
さらにガイドは興奮した声で「みなさんは本当にラッキーです。グリズリーは見たくて見れないのですよ。グリズリーの研究者が探しても遭えず3年間もダメだった者もいますし、野生動物に出会うツアーに
参加しても3種類も出会うなんて奇跡です。」と言った。
だがみんなは「そうなんだ」とあっけからんとしていた。
ガイドは「本当にこれは奇跡ですよ。みなさん」と念を押していた。
そんなやりとりをぼんやりと聞きながら車中からグリズリーをみていると、不思議な感覚になってきた。
グリズリーは単に自然の山で、自然に食事をしているだけであった。
見ている人間が異常で、わたしたちが檻のなかにいるように感じ始めた。
するとグリズリーからこんな声が聞こえてきた。
 
「お前たちはなにをやっているのだ。おれのように自然でいれば良いじゃあないか・・・」と。
 
その声を聞くと本当に自分が檻のなかにいるような実感がおこってきた。
わたしの信条である「あるがまま、なるがまま」でやってきたつもりだが、まだまだ檻にとらわれていた。その瞬間にグリズリーと目があったような気がした。
錯覚かも知れないがグリズリーから大きなメッセージをもらった気がした。
さらに奇跡が続いた。
 
氷河見物の帰り道では、急な岩山の斜面にマウンテン・ゴートが群れで連れていた。
ガイドはもう呆れ顔で「こんなことはありえません。一日で野生動物4種類に遭えるなんて有り得ないことです。もちろんわたしも初めてです。本当に今日は奇跡です」と感動していた。
ガイドの感動は、兄妹には伝わっていなかった。
わたしは兄妹旅行前に、一足早くカナダ入りをして一人旅行をしていた。
そのときには、野生わしも見ていた。
広野に一本の高々とした伸びている樹のてっぺんに巣があり、その上空を悠然と羽を広げて巣のまわりを飛んでいた。
その雄姿は鳥の王者の風格を見事に示していた。


 
さらにバスで移動中、森が広がる道路の脇をブラック・ベア2頭が、これまた我が物顔で舗装道路を歩いていた。
カナダは野生動物と人間の共存を目指している。
これでカナダの野生動物はほとんどみたことになった。
私一人で大きな感動を感じていた。
だが氷河は確実に何百メートルも後退していた。
面積325平方kmに及ぶコロンビア大氷原は、北極圏外で北半球最大の規模をほこり、過去4回の氷河時代を経て形成された。
最近、氷河は温暖化の影響で年に1~3m 後退をし続け、1850年から1、5キロメートルも後退していた。
以前は氷河で覆われたいた部分は茶色の土が荒々しくむきだしになっていた。
自然を愛しながらも自然との共存は困難だということだ。
氷河では、ラッキーにも氷河の裂け目であるクレパスも見ることができた。
中をのぞみこむとエメラルドブルーにキラキラと輝き、その透明感と色の美しさに見とれた。
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