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2020年式 トヨタヤリス X

搭載エンジンは1リッター3気筒エンジン

今回取り上げるのは、現行のヤリスとは言っても4年前の初期型車だ。

トヨタヤリスに搭載されているエンジン、1リッター3気筒の1KRエンジンは、筆者にとって関わり深いエンジンなので、流石にいまさら人ごとの様に評論めいたことを書くのははばかられるため、いままで1KRエンジンを搭載した車自体も取り上げるのを避けてきたところではある。
このヤリスに搭載している1KRエンジンは、ヴィッツ・アイゴ(欧州専用車)搭載のために、最後のあるべき姿のベーシックエンジンとして開発したエンジンを基本的に踏襲している。その一方この車の開発当時に、開発と生産を担当しているD社は親会社に対して距離を取る方針の時期であった(?)ので、当時の量産エンジンとして最高の熱効率を目指したエンジンとして、やや過剰だが、デュアルポート・デュアルインジェクターを備えた専用シリンダヘッドを開発し、自社生産のパッソ・ブーンに搭載することとなった。そのため、本来エンジンハードの共通化を目指していたものの両社の溝は埋まらず、2種類の兄弟エンジンとして今に至っている。
ヤリス搭載の1KRエンジンは、従来のヴィッツ用に対して、新しいTNGAプラットフォーム搭載に関わるところの変更が主となっている。
以上の様な事情なので、エンジンに関してあれこれウンチクを語るのが常ながら、今回は多くを語ることができない事をご容赦いただきたい。

真っ黒のインテリアは…?

さて、エンジンの始動は、この最も廉価なモデルでも今やスタータボタンを押すタイプだ。キーを回すタイプと異なり、軽くワンプッシュするだけでエンジンが始動するのは良いが、何らかの事情でワンプシュで始動しないとクレームになるので、メーカー泣かせのデバイスだ。この方式は当然キーレスエントリーとセットになっている。バックソナーやコーナーセンサー、車線を外れるとアラームが鳴るやらといった装備は一通りついており、前の車が動いた時に知らせてくれる機能は、ありがたい様な鬱陶しい様な。。。現代の車は車両価格も上がったが、ベーシックカーでも装備はもう要らないくらい充実している。
その一方いつも感じることだが、トヨタの廉価モデルに共通の真っ黒のインテリアはいかがなものか。愛想ばかりに、ダッシュとフロントドアトリムに白いアクセントストライプが入っているので前席は未だ救われているが、後席はは本当に真っ黒けで愛も素っ気も無く、ユメもキボーも無いアナグラ状態だ。ルーフライニングくらい明るい色にすれば良いと思うがどうだろうか。

シートもトリムも天井もマックロケの内装は、当然トキメカナイ。

その前席のドアトリムだが、クロスは高いので不織布風の成型材を使用している。樹脂そのままの様にテカテカしないのは良いが、9万キロ以上を走行したこの車では既に擦り切れてきており何だか安っぽい。
その一方、ドアのインナーレバー周りはやけに造形に凝ってコストを掛けているが、肝心のインナーレバーは、やはり真っ黒で奥まった位置にある為、どこにあるか分かりにくく、いちいち探すはめになり使いづらい。コストの掛け方がチグハグに感じるが、デザイナーがチーフエンジニアと戦った末に、ここだけなんとか勝ち取ったんやろか?と要らぬ想像をしてしまう

質感の劣化が大きいドアトリムと、使いにくいドアインナーレバー

フロントシートは見掛けはテレっとして生地も愛想のないものだが、アンコのウレタンと一体に整形されたそれは、中々掛け心地が良く太もも周りのサポートも良いが、もう少しバックレストのサイドサポートが有っても良いと思う。街乗りなどの乗降性とのトレードオフでこの仕様の選択をしたと思われるが、これもこの車の走行性能の味付けと何かちぐはぐに感じられることは、後に述べる。では早速走らせてみよう。前身となるヴィッツと比べると明らかにボデーまわりの剛性は高く感じる。足回りなどからのゴトゴトした低級音も無い。ただ、矛盾する様だが、9万キロ以上を走行したこの個体は、路面の凸凹を乗り越えるとドア周りのシール部からミシミシした音が出ていた。この個体は何か事故修理などの履歴があったのかもしれない。

意外と楽しいワインディング

一方、エクステリアのデザインは、最近のトヨタ車らしくスタイリッシュになった。Aピラーに傾斜がついたデザインに有りがちな、ピラーによる死角が少なくコーナーなどでも視界が良く走りやすく、さすがトヨタ車だ。
以前は、このクラスの車はアイドリングストップが付き物だったが、この車では装備されていないので、市街地走行で停止する度にスターターが回る煩わしさは無い。その分、若干燃費には影響するはずだが、車載の燃費計によると主に坂道と市街地ばかり走行して約16km/Lとまずまずの燃費だった。
エンジンはマウントの懸架方式もヴィッツから変更されている。3気筒エンジンながら、アイドリング時の振動は良く抑えられており、流石に3気筒エンジン専用に開発されたTNGA-Bプラットフォームだ。但し上り坂での発進時に、恐らくエンジン起因の、クラッチジャダーに似た「ドドド」といった感じの振動が出る場合があるのが少し気になった。
CVTは、ノーマルモードとエコモードがセレクト出来るが、ノーマルモードではシフトダウン/アップが頻繁で、変速比も大きくビジーだ。これらはせっかくのCVTの良さを大きくスポイルするので、エコモードでの走行を推薦する。エコモードを選んだからといって、特にトロくなったりもしないので、何のためにモードを分けたのか。届出スペック的に何か必要だったのかしら?とまた、要らぬ想像をしてしまう。
この車で一番精彩を得るのは、意外と山道のワインディングだ。TNGA-Bプラットフォームでは長い4気筒エンジン搭載を諦め3気筒エンジンに標準化した事で、パワーとレーンの重心位置を車両センター付近に寄せることが出来た効用か、脚が路面をよく捉え、またブレーキング時や加速時のピッチングが少ないのでコントロールし易く、またアクセルによる姿勢変化も穏やかだがドライバーの意志通りに挙動するので走らせていて楽しい。
エンジンは所詮1リッターなのでパワフルでは無いが、CVTのセレクタをBにしたエコモードで十分楽しめる。むしろノーマルモードでは変に引っ張ってシフトアップ・ダウンを繰り返すので、却って興醒めだ。
その一方、山道で楽しい足回りは市街地での一般走行の乗り心地とは両立していないと感じた。一般路に多く観られる舗装補修の段差やマンホールの出っ張りなどに、ハーシュネスが強いわけでは無いが、いちいち車が反応して車体が揺すられるため結構疲れる。ベーシックカーとしてのキャラクターからすると、これらはアンマッチに感じる。

さて結論は

結論からするとヤリスは良い車だとは思うが、新しいプラットホームによる操安性の向上を活かす方に全振りしてしまった結果、本来メインステージであるはずの一般的な街乗りの乗り心地を置き去りにしてしまった様に感じる。そのため筆者の感想としては、残念ながらベーシックカーとしてはお勧めできないと思った。
軽自動車のN-Boxの方が、ベーシックカーとして色々な面で数段優れていると思うが、お値段はヤリスの方がずいぶん安いと云うのが現実で、Bセグ車開発の苦しさを感じる一台だ。

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