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邪道作家第七巻 猫に小判、作家に核兵器 勝利者の世界 分割版その4

新規用一巻横書き記事

テーマ 非人間讃歌

ジャンル 近未来社会風刺ミステリ(心などという、鬱陶しい謎を解くという意味で)

縦書きファイル(グーグルプレイブックス対応・栞機能付き)全巻及びまとめ記事(推奨)


   4

「何か飲むかい?」
 私は誰かに賞賛されたいわけではない。ただ金が欲しいだけだ。「がんばったね」とか「よくやった」とかそんな中身のない戯れ言には興味は無いのだ。だから「等価交換」なんて看板を掲げている人間に、別に特に好印象を持つこともなかった。少なくとも、人生の晩節に「やっと成功できたよかったよかった」などと、言う気はない。
 そんなモノに意味はないと、知っている。
 私は自分を信じることに疑いはない。己の作品が傑作であることも知っている。だが、「運命」が信じるに値しないことも、また事実だ。
 やるべき事をやり成し遂げたところで、結果には何の関係もないことを、私は知っている。
「怖い顔してるな。まずは座りなよ」
「ふん」
 私は一応軽くテーブルと椅子を調べてから、腰を下げて座った。少し迷ったが、モカコーヒーを頼むことにした。
 美味い。
 苦いモノが美味いというのは、ただ舌がやられているだけかもしれないが。
 構わない。
 健康維持は努めている。この程度でどうこうなるような管理はしていない。あまり健康的すぎても免疫が弱まるしな。なんて、別に言い訳ってわけでもないが、まぁ構うまい。
 何が良いかは私が決めることだ。
「君って奴は相変わらずみたいだね」
 軽薄な男はそう言って、私の前へと座った。対面で誰かといると落ち着かないし、ゆっくりするときは大抵一人で過ごすので、個人的には早く噺が終わればいいな位しか、特に思わなかったが。「相変わらず? 何がだ」
「そうやって人間を辞めている所さ」
「ふん」
 別にそんなつもりは無いのだが。
 私は適当にやっているだけだ。
「どうでもいいだろう、そんなことは」
「良くないさ。ビジネスパートナーだからね、僕は。君の事には興味がある」
「生憎、こちらには無いな」
 どうでも良い噺でお茶を濁す趣味は無い。仲介人の男は言って、ハーブティーらしきものを炒れて、飲み始めた。
「うん、美味い」
「いいからさっさと話せ」
「つれないなぁ、そう急かすなよ。人生は長いようで短いんだぜ」
「何万年も生きている私からすれば、そんな下らん理屈は興味がないな」
 いや、何十万年だったか。
 あまりよく覚えていない。
 どうでもいいことはすぐ忘れる。
「君は長生きがしたいから彼女と「契約」を結んでいると聞いたけど、本当にそうなのかい? 僕には、死にたがりにしか、見えないけど」
「そうなのか?」
「うん。だってさ、君はどう考えてもこの世界に希望も夢も抱いていない。そんな人間が長生きして望むモノって、そんなのは身の破滅くらいのものさ」
「そうでもないがな。私が望むのは金による平穏と、充実した毎日だけだ」
「本当にそうかい?」
「ああ」
 欲しいモノなんて本質的に私は持てないが、しかし金が必要であり、あればあるほど嬉しいのは客観的な事実だ。別に散財する趣味も無いのだがしかし、好きなときに金を使えるというのは、実に良いものだ。
 逆に嫌いなモノはある。執筆だ・・・・・・不思議なことに「傑作」を書いているという自負がある瞬間ですら、あまり私個人の意志とは関係ない方向へ話が進むことが非常に多い。嫌なことがある方が良い作品が書けるという訳でも無く、「書くべき事」が発生したら否応無く書かなければならない、そんな衝動が起こるのだ。
 迷惑極まりない。
 操り人形のように書き続けたことも、一度や二度ではない。確かに充実のために私は作家をやっているが、別にその為に人生を投げ出すつもりは更々ないのだ。
 何事もバランスが重要だ。
 私が言うと、これほど説得力に欠ける台詞も、少ないだろうが。
「君はむしろ、金以外の全てを望んでいるように見えるよ」
 反対の事を言って当たっていたら儲けみたいな詐欺じみた、いわば当てずっぽうでそれらしいことを言っているだけだと、私は判断した。
 見透かした風を装うのは、そんなに楽しいのだろうか? 無論、私は見透かしていても本人が破滅するまで待ったり、知らないフリをしつつ当事者を苦しませる方法を考えるのが好きなのだが。 あまり人の事は言えないと言う噺だ。
「金以外の全てだと? 下らん。この世界には金の他には何も存在しない。愛も友情も勝利も夢も道徳も倫理も全て、ありもしない虚構でしかないものだ」
 実際、そんなものはどこにもない。
 紙上にのみ存在するものだ。
「この世にあるのは金だけだ。この世界は金すらも虚構で出来てはいるが、力と豊かさを兼ね備えるのは金しかいない」
 まるで誰か個人を指すように金を評してしまったが、まぁそういうことだ。金は所詮虚構だ。現実問題保有する大半は銀行のモノであり、また資本主義経済の中では「個人で多くの金を持つ」ことは実際出来はしない。
 銀行に預ける、という体で国が管理するものだ・・・・・・ビックブラザーをあり得ないと思っている奴は、どれだけ資本主義発足から民衆が管理され続けているかを、真面目に考えていないだけだ。 考えればわかることだが、考えない。だから気づかないのだ。
 全てを数値化できる時代はデジタル情報の発達から既に始まっている。本来軍用として扱われるはずだった「インターネット」は民間へと流され一国の管理を容易くした。世界を管理するのは未来を見据える優れた政治家の役目だったが、個人のカリスマ性、そして「信念」とでも呼べばいい「人間らしさ」よりも、「デジタルでの運営」が上回ったからこその「結果」と言える。
 人類は管理できる。
 いとも、容易く。
 人間の意志はコントロール出来る。これは大昔から存在する「技法」だ。オカルトでも何でもない。「集団心理」のコントロールなど、魔女狩りの歴史の遙か以前から存在する。
 催眠、洗脳、これらは「兵器」として石器時代から実用化されているものだ。集団を動かし、操る技法を類人猿は本能で学習し、磨き、後生に伝えてきた。だが、今ではそれらはデジタル情報として、伝達できる。
 誰でもその気になれば、使える技術だ。
 そんな気になる時点でどうかしていると思うがしかし、「権力」だとか「名声」だとかそういう中身の無いゴミを求めるのは、国家の習性と言ってもいい。現実には存在しなくても優越感が有ればそれでいいのだろう。どうでもいいがな。
 さて、そこで問題だ。
 全てがデジタルで支配できる時代に、金以外、つまり明確な力以外で、価値のあるものなんて、あると思うのか?
「君は、愛情とか友情とか、そういう綺麗なモノを、本当は欲しくないのかい?」
 下らん、「本当は何々が欲しくないのか」などと、三流の占い師みたいな言葉だ。私はそんなものは自己満足できる人間なので、いらない。
「いらないな。自己満足でいい。適当な自己満足で私は満足できるんだ。大体が、現実に愛だの夢だの希望だの、そんなモノを持ってみろ。疲れるじゃないか」
「じゃあ、いらないのかい?」
「いらないな。欲しがる理由も無い」
 そもそも、そんなモノを素直に求められて、それで満足できる人間なら、本など書くまい。
 普通に生きることで何も感じないからこそ、私は作家をやっているのだ。
 所謂「標準的な幸せ」など、必要ない。欲しがることがあるとも思わない。別に欲しくもないからだ。
 それが人間の求める幸福かもしれないが、別にいらないんだから押しつけないで欲しいものだ。 金だ、金。
 金だけ持って来い。
 理想だの信念だのは、溝に捨てて構わない。
 金だ。
 金だけが、重要だ。
 他は豊かで余裕のある時に「ついで」で求めればいい代物だ。ちょっと高い新鮮なウナギみたいなものさ。
 私からすればその程度だ。
「ふぅん、そうかい。なら、いいさ」
 などと考えていて、心底何とかせねばと思った・・・・・・こうしている今も、作品のことばかり、作家としてやることばかり考えている。
 私は適当に休みたいのに。
 金になればどうでもいいのに。
 嫌だ嫌だと思いながら嫌々作品を書くことの多い私だが、いい加減それにも対策を持たなければなるまい。具体的には、まだ案は無いが。
 書いて喜ぶのはどうせ読者だ。私には関係がない。読者の喜びなどどうでもいい。大して売れてもいないなら、作品などどうでもいいのだ。
 私個人の平穏と、作品の出来や傑作度合いは、驚くほど関係がないからな。私はどこか遠くで子供が虐殺されていることに、一々善人ぶって涙を流したり訴えたりする人間ではない。
 関係ないモノは関係がない。
 読者の都合など、知るか。
 考えて欲しいなら国の一つ位譲渡しろ、そうすれば考えてやっても良い。
 考えるだけだがな。
 無論、何も支払わないが。
 まさかファンサービスなんて、無意味で疲れることに、私が積極的な訳が無い。適当に猫を被ってやり過ごすのがオチだろう。
 それだって力は入らなさそうだが。
 無駄なことは嫌いなのだ。
 無駄だからな。
「金以外に大切なものね。まぁ、当人次第だろうね・・・・・・命よりも執念が大切な人だっているし」「つまらない返事だな」
 王道の回答ほどつまらないものは無かった。
「そんな小綺麗な回答しか出来ないなら、教師にでもなったらどうだ?」
「そりゃありがたいけど、生憎免許を持っていないよ」
「簡単だろう。子供を殴ればいい。そして飽きたら放っておけばそれで仕事成立だ」
「本気で言ってるのかい?」
 本気も何も、大体皆そんな感じだったがな。
 これも古い考えなのだろうか?
「少なくとも、人間人に何かを教えられるくらいになるまでは、相当な年月がかかるものだ。だが資格さえ取れば、つまり頭さえ回ればその権利だけは手に入る。何なら権利ごと買えばいい。それで安泰の生活を手に出来るなら、安いものだ」
「けど、教師って残業代でないんだぜ」
「しなければいい。さぼればいいのさ。少なくとも教師連中がサボりまくっているからこそ、世の中にはロクな人間がいないんだろう?」
「偏見だね、どーも」
 ポリポリと頭を掻き、彼は「そんなんで人生楽しいのかい?」と聞いた。無論「金次第だ」と私は答えたが。
「君とは相容れそうにないな」
「構わないさ。別に仲良くなる必要など無い」
「そうじゃなくてさ・・・・・・そういう「思想」は、僕には理解しかねることだ。理解できても、共感できそうにない」
「ほう」
 それは本来私の台詞だ。特許料金を徴収しようかと思わなくもなかったが、やめた。
 構わない。
 必要なら忘れた頃に回収してやるさ。利子付きでな。それに・・・・・・案外、私を見る他の連中も、そうなのかもしれない。
 それもやはり、どうでもいいが。
 参考程度にしか、ならなさそうだ。
 ダブルスタンダードの悪用は搾取する側の基本だ。そして私はそれを人生にも応用できるだけだ・・・・・・人間賛歌は尊ぶ、ただし現実的に有用な思想を優先する。政治と同じだ。自由な民主主義を尊ぶ。ただし秘密裏に検閲しつつ実行権利は握っておく。意見は聞くが実行する人間が決まっている以上、独裁となんら変わらないのが民主主義というものだ。私の場合、人間の尊さは認めるが、実在しないという事実を認めているだけだ。
 ただのそれだけ。
 現実には力が勝利する。ただし、私はこの世界の人間の美しさを「愛でる」だけだ。存在しないものでも愛でるだけなら趣味として構うまい。
 その程度の価値しかないとも言えるが。
 人間の本質など、その程度だ。
 私は私が生きやすければ、構わないがね。
「君は独りでいることが、怖くはないのかい?」「別に」
 どうでもいいよ、と私は答えた。
 実際、どうでもいい・・・・・・心ない私からすれば何故、いちいち仲間を求めたり、独りであることに苦しんだりするのだろうか。
 無駄ではないか。
 時間の無駄だ。
 そんな、至極どうでも良いことに、人生の思索の時間を使い切るというのだから、暇な奴らだとしか言いようがない。そんな暇があるなら金儲けの方法でも考えればいいのに。
「人間の幸福は人と繋がることなんだよ?」
「知るか。それはおまえ達の基準だ。私には関係があるまい。どうでもいい。そんなことより金が欲しい。金で私は「ささやかなストレスすら許さない平穏なる生活」を買いたいのでな」
「買ってどうするんだい? どうせすぐに飽きるし、手に入れたところで意味なんてないよ」
「くだらないな。そうやって道徳だの倫理観だの一円にもならない戯れ言を言っているのが心地良いのだろうが、私は違う。私は私個人だけで、自己満足して完結できる人間だからな。私個人の価値基準、自己満足こそが全てだ。まずは金。そしてそれから暇が有れば、それらしい適当な物語でも読んで、貴様の言う「人間らしさ」を疑似体験して適当に楽しみ、自己満足で満足するさ」
「それで君は満足なのかい?」
「誰もが、人間の理想とする「幸せ」を追い求めていると思うな。おまえ達にとっては価値があり良いのかもしれないが、私にはただのゴミだ。押しつけがましく、ただ迷惑なだけだ。私にとっては、幸福など金の力で如何に自己満足し適当に楽しめるかどうか、でしかないのだ」
 綺麗事の幸福は美しいのかもしれないが、わたしにそれを押しつけられてもただ迷惑なだけだ。 そんなモノはいらない。
 金が欲しい。
 金だけあればいい。無論、使える環境とそれを活かす環境があるのは前提だが。
「ふぅん、まぁいいさ。深くは聞かないよ」
「ならさっさと話を進めろ」
「これも性分でね」
「いいか・・・・・・「誰かに理解されたい」なんて甘っちょろい事を考える人間は「作家」なんて目指しはしないし、相応しくない。「己の道を信じて生きること」は簡単だが難しい。その他大勢の忌々しくも五月蠅い雑音は止まないからだ。例え状況や環境がどうなろうが、やり遂げたなら信じるしかない。無論、それが金になるとは限らない。しかしそれでも信じる。己のやり遂げたことを疑ったりはしない。疑う程度ならまだまだだ。私はこれが間違っているとは思わないし、思うつもりも毛頭無い。

 私が選んだ、私の道だ

 それが「生きる」ということだ。未来のことはわかりはしない。こうしている今も金に大してなっていないからな。だが、私はそう信じて突き進み、そして成功したとしても歩みを止めるつもりはどこにもない。信じる根拠は正直無い。どこにもない。だが「己を信じるだけ」なら金はかからないからな」
「それが、君の信じる理由かい?」
「ただの虚勢だ。現実には金にならなければ、痛々しい限りさ。だが、己を信じてやり遂げたなら後悔などありはしない。疑う余地も無い。世の中の方が間違っているのさ。見る目の無い馬鹿共だと、そう大声で吐いてやるしかない」
 所詮、男の生きる道など、そんなものだ。泥臭くあまり綺麗じゃない。個人的には舗装された道が良かったが、選べないならそれでもなんとかするしか有るまい。
 それで何ともなっていないので、説得力に欠けるかも、しれないがな。
 だが、「事実」だ。
 それもまた、「事実」。
 世の中そういうものだ。
「なるほどね。ありがとう、参考になったよ」
「どういたしまして」
 嬉しくもない。
 前言を翻すようだが、やはり金がある方が良い・・・・・・金も無いのにこんなことを言っても、正直空しいだけだ。
 だが・・・・・・確信を持って言えるのは「こういう屈辱的な状況」だから言える言葉もあるという事だ。成功した作家がどんどんつまらなくなるのはきっと、その気持ちを忘れるからだろう。
 無論、私は既に、環境などに左右されずに、幾らでも書けるのだが。
 そんな低いステージに、私はいない。
 いるつもりもない。
 書くべき事を、書くだけだ。
「コーヒーのおかわりを頼む」
「いいよ」
 まずは一息ついた。
 まぁここまで言っておいてなんだが、金にならない、結果の出ていない信条など信じるには値しない。そんな価値はない。
 世の中金だ。
 金で買えないモノは無い。
 夢も誇りも信条も、全て、買える。
 私には何も無い。
 何も。
 何一つ、ありはしない。
 そしてそれで構わない。人間らしさも人間の楽しみも人間の繋がりも人間の喜怒哀楽も人間の夢や希望も、別に必要ない。
 とりあえず金さえあれば満足だ。それをよく分からない理由で、否定される覚えもないしな。
「そもそも、人間の心理、愛情も友情も信念も科学の力で「数値化」できる代物だ。人間の感情こそが唯一絶対だという考え、それこそがただの思い上がりでしかない。所詮パターン化された行動でしかない」
「本気でそう思うのかい?」
「ただの事実だ」
 人間の思考も、有る程度パターンに分かれているだけだ。複雑化し、知らない種類が現れたとき人間は「個性」を感じる。とどのつまり個性など数がたまたま少ないケースであるだけだ。そして私はそれを参考に作品を書くだけ。
 それを認めたがらない奴は多いが。
 自分たちの「心」が、高尚だと、信じたいのだろう。やっていることはプログラムされたロボットが笑っていることと、大して変わらないのだが・・・・・・「代わりが効かない唯一の存在」であると信じたがる。
 代わりなど幾らでも効くこの世界で、代わりの効かない人物になることを、憧れるのだ。馬鹿馬鹿しい。数えるのが面倒なくらい大勢いるのに、代わりが効かないわけがあるまい。
 運命の相手は代替が効く。
 似たような人間は、必ずいる。
 この世に唯一の個性など、存在しない。
 現実にはそういうものだ。
 物語の中ですら、同じなのだから。
「私は編集担当と仲良くしたいわけでも、俺たちでやっていこうぜと仲間意識を持ちたい訳でも、皆々様のおかげでこの作品を出版出来ましたと、おべんちゃらを売りたい訳でも無い。ただまっとうに生きて、平穏に暮らしたいだけだ。金の力でな・・・・・・他はどうでもいい。それが間違っていると言うなら、大いに結構。私は誰かと仲良くしたり、読者に喜んで貰ったり、皆で力を合わせ誰かのためになること、など「どうでもいい」のだ。倫理的に正しいかどうかなど知らん。他でもないこの「私」の気持ちだ。それが間違っているというならば、私を生け贄にして楽しもうという奴らが何人死んでも構わない。この「私」が自分自身の為だけに始めたことだ。だからその為だけに、全ての力を注いできた。

 だからこそ、金だ。

 金は理不尽を払いのけることが出来る。まっとうに生きる為にも必要だ。何より「どうでもいい誰か」の思惑に、左右されることが無い。道義的に正しいかどうかなど知らん。どうでもいい。正しくなかったところで私は私の為に行動する。正しさなど所詮当人の都合だ。だから私の正しさを邪魔する奴は容赦しない。どれだけそれが正しそうで素晴らしかろうが、私の利益を奪う行為は等しく「邪悪」だ。小綺麗に偽善者でいるよりも、私は自分に正直でいるだけさ」
「成るほどねぇ、いや確かにそういう考え方も出来るには出来るさ。ただ、それを実行する人間は始めてみたよ」
「お前の人生経験が貧困なだけだ」
「はは、そりゃいい。そうかもしれない」
 軽薄なその男は色々積まなくていい経験まで積んでいそうな人間では有ったが、しかし、私のような人間とは、やはり違うのだろう。
 人間のあり方を否定する人間。
 そんな奴の考えが理解できるのは、同じ化け物だけだ。想像はできても共感は出来まい。
 別に共感など必要ないがな。
 金だけだ。
 感傷? 下らない。 仁義? 役に立たない。 倫理観? 搾取する為の方便だ。 常識? 業界の常識など、ただ自分たちに都合の良いルールを適応させているだけだ。遊び場の子供と同じでしかない。
 とどのつまり、皆自分の都合だけを考えて生きているのだ。他の誰かを考えたところで、その誰かは施した奴の事など意に介さない。
 自分だけだ。
 皆、自分の事だけを信じて生きている。
 私程度の自己中心主義など、小さいものだ。
 誰かがどこかで死んだとして、悲しんでいるように振る舞うことはあっても、悲しみはしない。ただポーズを取っているだけだ。誰かの不幸は所詮その当人の不幸でしかない。人間は誰かと悲しみや喜びを分かち合うことなど、最初から出来はしないのだ。
 それを受け入れない。
 自分たちを上等な生き物だと思いこむ。
 迷惑な噺だ。
 まっとうで無い人間がそうであることを自覚した上で、納得する道を粗探しし、歩んでいこうとしているというのに、だ。
 楽で羨ましい。
 自分たちのルールを押しつけて、それでいて自分たちは痛い目をしようとしない。出版社などその典型例だろう。販売代理店みたいなシステムの分際で、まるで自分たちの手柄であるかのように全てを横取りし、感謝を求める。
 そもそもがお前達が独占しているのが問題ではないか、馬鹿馬鹿しい。
 市場を独占して儲ければ何でもいいのだろうが・・・・・・そのお陰で中身の無い「白紙の方がマシ」な本は溢れている。その上別に書いている人間ですら別に本で金を稼ぎたいわけではなく、ただ誰かにちやほやされたいと思って「作家」になる。 狂っている。
 私などより、ずっと。
 しかしながら、私がどれだけ本を書こうが、結局の所力を持つ「持つ側」には勝てないということだろうか? そうかもしれない。少なくとも、今のところは勝利を収めていない。
 それに前提として「売れるから売れる」心理傾向にこそ、問題はあるのだ。人間全体の心理が未熟な限り、良い商品は必ず埋もれてしまう。

 売れても売れなくても儲かるようにする。そんな半端な気持ちの人間に、本は売れないのだ。

 売れても、所詮知れている。そして中身が充実することは、やはり無い。
 少なくとも目の前の一セントに敏感なくせに、ローンを組んで買い物をするような馬鹿共には、期待するだけ無駄だろう。目の前すら見えていない人間に、期待できる部分など、ありはしない。 ならば、無駄なのか。
 それも、「結果」で判断できる。
 世の中、そんなものだ。
 案外、私みたいな人間も、他にも大勢いるのかもしれないぞ・・・・・・異質だと思っているのは周囲のあいつ等だけで、普通にその辺に住んでいる可能性だって有る。少なくとも可能性だけで言えば何事でもそうだが、可能性が無いことなど、どこにもないのだから。
 可能性があるだけで不可能なことも多いが。
 生きるとはそういうことだ。
 不可能性で世界が構成されているなら、諦めて妥協するか、不可能を可能にしようと考える大馬鹿かどうかだ。私の場合、挑戦権そのものが無かったので、ルールの外側からのアプローチが非常に多く、いらない労力を消費しているが。
 面倒な噺だ。
 それこそ凡俗なら私のような異形の人生を、歩みたがったりするのだろうが、冗談じゃない。楽が出来るに越したことはない。平凡であるという事はつまり、平坦な人生であるということだ。無論私はそんなクソつまらない、死体があるいている方がマシ、みたいな人生は送りたくもないが、適度に充実して自己満足でいるなら、その点は解消できるはずだ。
 出来ないなら出来ないで、他の方法を探すが。 とはいえ、「生き甲斐」として、充実させるための自己満足でしかない「作家業」ふん、作家の業と読んで作家業が、どうにも離れなくなっているのは問題かもしれない。
 書きたくも無いのに筆が勝手に進むのだ。もう私の指が勝手に動いているだけかもしれない。そんな感覚であるのは確かだ。そしてその方が考えて書くよりは出来がよく、書き終わった頃には、いつのまにか時が過ぎているというのだから、何だか分からない噺でもある。
 金になればなんでもいいのだが。
 業というのは背負うことは出来ても、途中で投げ出すことは出来ないらしい。これは人類史上初の大発見だと言える。発見したところで、一円ドルにもならないが。
「弱さによる強みすら、本来有るはずのその方法ですら、私は全く上手く行かないからな。人を使えば有る程度事は運ぶのだが、それも結局は金になっていない。なにもかもが、上手く行かない。だがそれでも金だけは求めなければ。上手く行くかどうかこそ「どうでもいい」からな。成功も勝利も些細なことだ。どう呼ぼうがどうでもいい。問題なのは金になるか、どうかだ」
「いいねぇ。僕はそういう考えは好きだよ」
「嬉しくもない」
「君の考えは面白いな。きっと、僕が紹介するよう頼まれたじいさんも、喜ぶと思うよ」
「例の協力者か」
 どんな人間だろう。いや、想像はつく。時代遅れで、誰からも賞賛されず、それでいて夢見がちなのだろう。私との違いは実利より人間の意志を尊重している所だろうな。
 パイプラインの反対などをしている時点で、性格は分かる。現代社会に馴染めないのだ。遅れた考えだから、そりが合わない。
 要領が悪いだけかもしれないが。
 私は上手くやりたいものだ。
「彼ならここに住んでいるよ」
 といって、地図を取り出し机に置くのだった。今時珍しい。紙の地図なんて皆、もう使わなくなってしまった。デジタルの恩恵は何にでも広く与えられるが、それが突然使えなくなったとき、あらゆる自然現象や紛争で便利でなくなったとき、依存しすぎてパニックになるのだから、正直、考え物だ。
 自分で考えることを、やめるということだ。
 本質よりも実利を追求するとは、そういうことだ。無論、私は実利の方が欲しいのだが、どうせ作家なんてやっている時点で考えることはやめられないのだ。本質など考えたところで、結局は、中身の無い人間が勝利するのだから、綺麗事より実利を重視した方が、現実的ではありそうだ。
 ま、なんでもいいがな。
 私は平穏に暮らしたいだけだ。
「ふん、どれ」
 と見てはみたが、さっぱりわからない。いや有る程度は分かるのだが、距離や地形が大雑把すぎて、心配なくらいだった。
 だが、とりあえず「向かう先」は、決まった。 時代遅れの老人のいる場所。
 どうやら、そこが今回の作者取材の旅、そのターニングポイントであるらしかった。

   6

 努力に意味はない。
 極寒の吹雪に視界を遮られながら、私は老人の家のある方向へ向かっていた。こんな極寒の中で「根性論」ほど役に立たないモノはあるまい。
 人生も同じだ。
 努力しているから、とか、あるいはがんばっているから、とか。そんなモノに意味はない。どれだけ尊かろうが「結果」が「全て」だ。
 そうではないと言う奴は、摂氏マイナスのこの地獄のような環境で、鼻歌を歌いながら服を脱ぎ出すようなものだ。物事の本質を見ていない。
 過程ほど下らないモノは無いのだ。過程とは眺めて楽しむものであって、それが何かを生み出すかどうかとは、関係がない。
 努力しようが頑張ろうが、信念に殉じて前へ進もうが、「結果」とは関係がない。
 何一つとして。
 とはいえ、それでも結局は進むしかないのだ。例え極寒の中寒くて家に返りたいと思っていても「進みすぎた」人間というのは、良かれ悪しかれ引き返せるような中途半端な生き方をしない。
 もうどこへ引き返して良いかもわからない。
 それでも進む。
 やるしかあるまい。それで途中で倒れたとしても、無念は有っても後悔はない。無論、無念に倒れるのが御免被るからこそ、前へ進むのだが。
 寒い。
 苦しい。
 痛い。
 前が、見えない。
 未来に絶望しか、無い。
 それでも私は進んできた。だが、どうやら結果とは何の関係もなく、無駄だったらしい。
 未だに私は、勝利を掴めていない。
 持っていないという、持つ側にいないという、実に下らない理由でだ。
 うんざりだ。
 無謀だと思って一体、どれだけ歩いたことか・・・・・・もう覚えていない。それ位、私は長く、遠い遠い回り道を、歩いてきた。
 結果、何一つ得なかったというのだから、笑いすら起こらない。
 妙な虚脱感だけがある。
 無駄だったか、と。
 無論、現実問題歩みはもう止められない。いっそのこと拷問を受けているのと変わるまい。じわじわと真綿で絞められ、苦しいというのが何だったのか、忘れる位苦しみ続ける。
 いい加減、うんざりだ。
 理不尽も理不尽を作る人間も、それを容認する世界にも、うんざりする。だが、こちらがどう変わろうが世界は変わらない。世界は私のような人間には興味がないのだ。神がいたとして、人間を見守っているとしても、それは華々しい部分を愛でているだけであって、間違いなく私のことは、知りもしないのだろう。
 神なんてモノがあったとしても、やはり人間の醜い部分など見たくもないだろうしな。どうせなら簡単な、適度に失敗して適度に成功する、そんな小綺麗な人間賛歌を、好むはずだ。
 化け物の人生ほど、面白いモノも無いのだが。小綺麗な人間など底が知れるし見飽きている。だから私は人間の領分を外れて生きている「個性」の方が、面白く見応えがあると、感じるのかもしれない、
 だが、勝てない。
 いや、実利が掴めない、と言うべきか。
 掴むべきモノを掴めない。本来手にして然るべき当然の報酬を、中々手に出来ないのだ。困ったものだ。化け物は波瀾万丈に生きるかもしれないが、別に見せ物ではないし、何かを掴めない。それに持つ側の人間の方が、応援するのは楽だろうしな。
 まぁどうでもいい。
 神なんてモノがいたとして、それは関係のない噺だ。宇宙人(私は世情に詳しくない、というかテレビすらみないのでよく知らないが、だいぶ前から交流は有るらしい)と同じだ。いたとして、いなくても、やはり私の人生には何の関係もない・・・・・・神も悪魔も所詮自分の都合で動いているだけだ。良いイメージの権力者か、悪いイメージの権力者かの、違いでしかない。
 いてもいなくても、まるで等価だ。
 私の人生は一ミリも豊かにならない。
 関係がない。
 だから、どうでもいい。
 私の望む豊かさとは、関係がないのだから。
 吹雪で前が見えなくなってきた。まるで私の人生みたいだ。前が見えなく、そして大抵ロクな事がないくせに、希望は全て幻想だ。上手く行くと思ったら、それは持ち上げて落とすただの嫌がらせみたいなイベントでしかない。
 いい加減ワンパターンだ。もう少し面白く出来ないものか。
 今回の依頼にしたってそうだ。パイプライン建設など、どう考えても既得権益を守る為のモノでしかない。先ほどの努力が無意味というのは、そういうことなのだ。つまり「努力」という言葉は既得権益を守る為にある言葉で、何かを成功に導く言葉ではない。「努力義務」により改善しているというアピールの為に、作られた言葉だ。
 既得権益を守る為にある言葉だ。
 宇宙太陽光などの古いエネルギー施設が残されている理由も、それに起因する。国家は政治家の利益の為にあるのだから、当然だ。法的な措置を取ることで利益を得られるようにする。その為に今回のパイプラインも存在している。
 極々一部の人間の為に、社会は存在する。
 ともすれば私の試みなど無駄かもしれない。どれだけ物語を書こうが、世間全体がそういった風潮に左右されるのでは、意味がない。
 その答えも、恐らくその老人とやらは、私とは違う答えを出しているのだろうか・・・・・・どこにいるのかも分からない人間の為に、人生を左右されているという点では、気が合うかもしれない。
 火星には随分昔から住んでいるらしいが、文化水準はちぐはぐというか、狩猟民族が住む田舎惑星だったはずなのに、国家の利益のためだけに、文化レベルを無理矢理、頼んでもいないのに、上げられたそうだからな。
 誰かの為、現地に住む人間の為という詭弁の上で、パイプライン建設とそれに伴う現地の整備を終わらせてきたわけだ。補助金という名前の賄賂を差し出して、奪われた。いや、奪われたというのも違うのか。当人達の意志を、金と権力と暴力で「ねじ曲げ」た。
 羨ましい。
 他者の信条を、無理矢理だろうが何だろうが、変えることが出来れば、自分では無い誰かにへたを押しつけて、自分だけは利益を得ることが出来るではないか。綺麗事などよりも、私はそういう「搾取する側」に回りたい。
 綺麗事はいらない。結局のところこの世界に、因果応報などと言う都合の良いモノは無い。やったもんがちだ。誰を殺そうが踏みつけにしようがどれだけ他者に押しつけようが、結局のところ、美味しい汁を吸える人間こそが「結果」実利を得るのだから。
 吹雪の向こうに小屋が見えてきたところで、私は思考を中断した。
 細かい噺の答えは、そこに住んでいる老人が、教えてくれるだろうから。

   6

 パチパチと火が灯っていた。
 薄暗いログハウスの中で、私は老人と向かい合ってソファに座っていた。家は木製の癖に、やけに良いソファとテーブルを使っている。と思ったらどうもソファは狩りでしとめた動物の毛皮で出来ているらしい。テーブルは普通のガラス製に見えるが、案外これも作ったのかもしれない。
 時代遅れ。
 それを地で行っているらしい。まぁ、私のような作家が言うのも、らしくないか。
 作家など時代より早すぎるか遅すぎるかしなければ、つまらないものだ・・・・・・結局のところ「今ここに無い何か」を伝えることが仕事だと言って良いしな。
 だから誰とも相容れない。
 相容れるような奴は、作家失格だ。
 相容れるような思想など、物語に値しない。
 まぁだからって売れなくても良い訳ではないがな。売れるに越したことはない。いつだってロクでも無い作品が売れているのもまた、物語の特徴ではあるが。
 実際、「本物」とは認められないからこそ本物なのだ。レトリックに聞こえるかもしれないが、そうではない。「聞こえがよくて中身がない」モノが売れるのは当然だ。中身もなく自信も無い、自分で自分のことを考えられない人間こそが、いつの時代でも大多数を占める。この法則がある限り、「新たな常識を打ち出す本物」は、どんな分野であれ認められないことが前提になるのだ。
 悪い冗談だが。
 笑い死にしそうな冗談だ。
 冗談みたいな現実だ。
 そして、何も考えずに生きるなどという、恥知らずな生き方を良しとしなければ、誰だって異端になる。異端を求める凡人の話はよくあるが、私から言わせれば「何も成し遂げようともしない」ただのクズが、成り上がることなど有り得ない。 成し遂げた上で、認められるかどうかだ。それはそのまま「金になるか」と言って良い。優秀な理論を書き上げた科学者は多くいる。ただ単に、周囲に認める脳味噌がなければ、誰だって異端になるのが世の常だ。
 異端のまま終わるか、認め「させる」かだ。
 無論、選ばれなければどう足掻いても無駄だ。幸運がなければどんな人間でも、勝てない。私は今まで運に見放された人間が勝つ様など、未だかつて見たことがない。
 これからも無いだろう。
 運不運とは、そういうものだ。
 少なくとも、認めよう。私は勝てなかった。あらゆる方策を試し尽くし、手を変え品を変え、時には己で動き、時には人を使い、時にはあらゆる手段を行使した。

 だが、「運命」に人間は勝てない。

 それが証明されてしまった。面倒な噺だ。実利が有ればそれでいいとはいえ「敗北の運命」に、私はどうしても勝てなかった。
 何をどう足掻いても、上手く行かない。
 昔からそうだった。
 どう尽くしても必ず最悪の形になり、失敗から学んでも結末は同じだった。無駄は無駄。そう知りつつも諦め悪く何年も何十年も何万年も続けてきたが、無駄だった。
 皮肉なことに誰よりも「結果」を重んじることで「過程」を選ばず目的を遂行する作家は、物語で実利を手にするという「当たり前の報酬」すら手にすることは叶わなかったのだ。
 そのくせ、未だ作家業をやめることも、もうできないというのだから、生殺しも良いところだ。 読者の為ではない。
 己のために、書いたつもりだったが・・・・・・運命という存在は、どう足掻いても勝てない、変えられない。だが、それなら私の人生は「運命」で定められているからなどという理由で「無駄」に終わると言うことだ。
 実に腹立たしい。
 どうしろと言うのか・・・・・・私の意志が反映されない世界に、何かを期待するなど無理な噺だ。それでも私は止まることが出来ない。
 忌々しい。
 実に。
 最初から無駄だったという「事実」。そんな程度のことは子供の時から分かっていた。何か方法くらい有るだろうという考えは、甘かったのかもしれない。
「年寄りの話は長いぞ」
 そう言ってその老人は私の前に座った。顔に皺は入っているが、気力に溢れた顔つきをしている・・・・・・まるで兵士のようだ。動物の毛皮のコートを着ていて、狩人としての風格と威厳が、その古くさい格好からにじみ出ている。
 そんな印象の老人だった。
「構わないさ。そうでなくては作品の取材にならんからな」
「ふん、若いの・・・・・・あのパイプラインの件で呼ばれたのだろうが、「あれ」をどう思う?」
 私は出されたコーヒーを啜り、一息ついてから「燃料でも運んで、今時珍しいローテクな家電製品を売り出すんじゃないのか?」と、至極適当に答えた。
 だが、
「いいや、違う。あれは燃料なんて運んでいないのさ。目端は利くようだがまだまだだな。あれの中身は空洞だよ」
「何だって?」
 空洞のパイプライン。そんなモノがあるのか? いや、あったとして、それでどうやって採算を取るというのか。
 意味が分からない。
「そもそも、今時古くさい化石燃料による資源など、連邦の奴らは望んじゃいない」
「じゃあ、何だ? こんな辺境の惑星で、何を連中は取り出している?」
 その答えは恐るべきモノだった。
 老人は蝋燭の光に照らし出されながら、その恐るべき現実について語り始めた。
「今世紀初頭、新型振動核弾頭の開発に、銀が連邦は成功した。必要なモノは特殊なレアメタルとブラックボックス化した特殊理論。理論の方は、連中が実験を握っているが、必要な資源に関しては情報が割れている。採掘量と比例すればどのくらい作られているか分かってしまうからな。それでは意味がない」
「意味不明だからこそ、情報が確定されないからこそ、政治的なカードとして切れる、か」
「その通りだ。実際の採掘量はどうしたって「誤魔化す」必要がある。だが人道団体やエコロジストの手前、その本来の採掘量を大幅に減らす、その必要性が生じてきたのだ」
「成るほど・・・・・・政治的背景は理解したが、それでなぜ、こんな惑星でやる必要がある?」
「一つは、忘れられた場所だからだ。科学が幾ら進もうとも、自分たちの住んでいない土地に、興味を持つ人間は少ない。地球を追い出されたからというもの、人類は合理性を考えて行くようになった。地球も火星も、最早大昔の思い出でしか、ないのだ。いや、この場合忘れられて捨てられたと言うべきか」
「心理の盲点を突くわけか。いつの時代も変わらないな」
「物事の基本だからな」
 言って、彼もコーヒーを啜る。
 今時、豆で挽いたコーヒーなど、誰も飲まないだろう。インスタントやレトルト食品の割合は、およそ七割。つまり十人中七人は、生ゴミの心配を一切しなくて言い訳だ。
 だから青白くて健康的すぎる、ひ弱そうな人間の姿が、最近の主流だ。
「衛星の監視を逃れるという意味合いもある。どれだけ大がかりに物事をやろうが、所詮人間は、表面だけしか見ない生き物だ。監視と言っても表面上問題がなさそうに見えれば、誰も気にしない・・・・・・監視する衛星は高価で優秀でも、それを管理、運営するのは時給25ドルの兵士だからな」「ふん。それで」
「その核物質を横領し、独立しようと言う空気すら、この惑星には流れている。ゲリラもよく分からない奴らばかりだ。取って付けたように「自由」を求めるkょうさんしゅぎしゃによる自爆テロ、活動まで、活発になってしまった」
「ついこないだまで田舎だった惑星が、随分人気者になったものだ」
「冗談じゃない。結局の所、大国の下らない意志に巻き込まれただけだ。自分たちの目の届かない所では、残虐な行為も殺人も許される。権威を手にした人間の行動は、ワシが子供の頃から、まるで変わっていない」
「・・・・・・言っては何だが、どうせ無駄だろう? はっきり言って、仮に今回パイプラインを破壊したところで、また似たような事を始めるだけだ。理不尽に敗北することが定められているこの状況で、一体何がしたいんだ?」
「ワシは、意志を残したい」
「そんなものは、幻想だろう。お前が何を成し遂げたところで、すぐに、皆忘れる。流されて、飽きられて、それで終いさ」
「否定はせんさ。だが、脈々と受け継がれてきたこの自然を、太った金持ちが涎を垂らして美味い食い物を食べるために、利用されるのは我慢ならんだけだ」
「時代遅れだな」
 人の事は言えないが。
 だが、そう思うのだ。
 結局、無駄ではないのか?
「確かに、そうかもしれん。だがそうでないかもしれん。やることをやらなければ後悔が残る。ワシはただ、己に従っただけだ」
「やれやれ」
 精神論根性論。まったくもって御免被る。
 そんなものに巻き込まれるのは御免だ。だが、最後まで見届ければ、参考くらいにはなるだろう・・・・・・そしてそれを、作品に書くまでだ」
「私は科学技術には詳しくないが、テレポートだとかで、安全に移動させればいいのでは?」
「そうも行かんのだ。テクノロジーが進化するということは、それを管理する能力も向上するということなのだ。誰が何をテレポートしているか、非公開だが既にそれらを管理している」
「銀河連邦が管理しているのだから、やりたい放題ではないのか?」
「基本はな。だから臓器売買や麻薬密売などは、国家が主導して行っている。だが、ことが核兵器のような軍事機密になると、そういった販路を使うのは難しい。情報が流出した場合、現地の人間以外も、テロリズムを促進して活性化させ、奪おうとするだろう。事実、今回など情報規制をしても嗅ぎつける奴は嗅ぎつけ、独立運動に利用しようとしている。だから、仕方ないのだろう」
「自業自得だと思うが」
「そうだな・・・・・・過ぎたテクノロジーを持ちすぎたのかもしれん。ワシは別に民族としての生き方を強制するつもりはないが、だからといってハイテクにかかりきりでは、人間的な成長は決して、望めないモノなのだ」
「別に、誰だって成長したくてやっている訳じゃない。私は作家だが、売れればそれでいい。その最近の若い人間も「金になれば」それでいいのだろうさ。現実に自分が豊かかどうか。誰だってそれを気にするだろう」
「だが、豊かさは過ぎればただの傲慢になる。それは油断を生み、油断は悲劇を生む。ワシもお前も、油断できない状況下で生きてきた。だからこそ何かを成し得るのだと思う。ワシは意志を後生に受け継ぎ、お前は物語で人々に教えればいい」「ふん、下らん。金、即ち「実利という結果」がなければ、貴様の思想も私の物語も、誰一人として語り継ぐ事はあるまい」
「そうかな・・・・・・ワシはそうは思わない。確かにワシだって、見向きもされず今まで生きてきた。だが、だからといって意志が受け継がれず、消えてなくなる訳ではあるまい」
「現に、消えてるじゃないか。このあたりでそんなことを行っているのは爺さんだけだと、そう聞いているが」
 老人は何かを思い出したのか、目線をどこか遠くにやりながら、しかしこう言った。
「そうか、そうかもな・・・・・・あるいは、そうやって誰一人受け継がなくなったときこそ、人間の滅ぶときかもしれん。だが、若いの。ワシもお前も性分でやっているのだから、仕方有るまい。損を承知でやめられんからこそ、面白いモノも、またあると思うぞ」
「私はそうやって、実利を諦めて悟った風に妥協するのは、嫌いなのさ」
「・・・・・・本質を見失えば、合理化の果てにある国家のように、数値以外が見えなくなる。本当に大切なモノを見失う」
「下らん」
 所詮この程度かと、落胆したのかもしれない。まぁ年寄りに期待するのも勝手な噺だ。仕方有るまい。
「本当に大切なモノだと? 私にとってそれは金と平穏だ。美しいのは認めるが、だからって押し売りされる覚えもないな。人間の道徳など、クソの役にも立たん「持つ側の言い訳」だ。余裕のある人間だからこそ、そんな無責任な台詞が吐ける・・・・・・勝って初めて綺麗事を吐く権利が出来るこの世界で、綺麗事に価値はない。「結果」こそが「全て」だ。過程に尊さを問うなど、諦めている証拠だ」
 私はそんなモノいらないしな。
 お前たちからすれば高尚で美しくても、私からすれば役に立たないただのゴミだ。
 それを押し売られても迷惑だ。
「・・・・・・かもしれん。だが、ワシはそういう在り方が「性に合わない」のだ。だからこれは意地の問題でしかない。ワシはそれでいい」
「ふん、私は御免被るな。だから今回は協力体制と言っても、私は貴様と心中する気はない」
「構わんさ」
 所詮年寄りの自己満足だ。そう言って彼はコーヒーを啜り、また一息ついた。年寄りは理想と綺麗事を胸に死ぬのは良い気分かもしれないが、若者からすればたまったものではない。現実に美味しい思いをしている「搾取する側」本質よりも、実利を得ている人間の姿を皆が知っている。
 現実はその程度であることを、皆知っている。 だから過程に、本質に重きを置く人間など、破綻していると言って良い。
「所詮本質など、余裕有る人間に付属するおまけのようなものか」
「さて、な。それを判断するのはワシ等ではない・・・・・・周りが勝手に決めることだ」
「違うな、それは逃げだ。己自身で判断すればいいのだ。問題は、それに周りが付いてこれるかどうか、だ」
 無論私は自惚れているわけではない、ただ純粋にそういった自負を持たずして、どうやって事を成し遂げるのかと、強く思うだけだ。
 当たり前の事だしな。
 少なくとも、私にとっては。
「だから本質が受け入れられるか、どうかですら問題ではない。問題なのは金だ。全ての問題は人間の心から生じ、そして大体は金から発生するものだ。女の激情以外の問題は、大抵が金で解決できるからな・・・・・・どう綺麗に取り繕おうが、私は誤魔化せない。貴様は、「信念を金にする」為に手を尽くすことから、逃げただけだ」
「・・・・・・・・・・・・」
 時代遅れの男が二人。
 室内で言い合って、お互いに思うことは自分たちの在り方だ。無論どちらも引かないし、どちらもそれを正しいと信じている。だが、どちらも淘汰される運命には、打ち勝っていない。
 それにどう応じるか。
 私が知りたいのはそれだったのだが、こうなってくると拍子抜けだ。精々死に様を派手に彩って欲しいものだ。そうでなくては作者取材の意味が無いからな。
 綺麗事はいらない。
 金が欲しい。
「じゃが、貴様の書く「物語」とて、中身のない偽物は淘汰されるだろう? そういうモノだと、思うがな。後の人間が伝えればいい」
「下らん。私は死んだ後に奉られるのなど、尚更御免だ。今、ここなんだ。今ここにいる「私」が豊かに成るために、全ての作品は在る。それが出来なければ私にとって、物語は価値がない」
「読者からすれば、そうでもないだろう」
「いいや、「私」からすれば読者が喜ぶかどうかなど、どうでもいいことだ。だから読者が喜ぶかどうかなど、私の価値基準には存在しない。皆の為になったから、などという言い訳臭い偽善臭のする言葉を吐く為に、私は書いていないからな」 淘汰されるかどうかさえ関係がない。誰かが私の物語を伝えて、意志が伝達したとして、それは私の財布の中とはまるで関係がない。
 驚くほどこの世界は、他者の犠牲と己の実利が関係ないように出来ている。
「巡り巡って、いずれはそれも、実を結ぶものだと思うがな」
「その理屈で行けば、私の作品はとうの昔に金になっているさ」
 大体が、得られて当然の報酬を得ることが出来ていない現状で「因果応報」など笑い話だ。
 後々から得るのでは意味がない。ただ単に、結果を出したことに大して、世界が鈍感なだけだ。それを言い訳されても困る。
 成し遂げた事に金を払うのは、本来当然だ。
 それを威張るな、馬鹿が。
 空気に踊らされて本を買う読者共など、とうの昔に見切りをつけている。金を払わない読者など関係ないただの他人だ。そして評論家気取りでキーボードを叩く奴は多いが、電子の世界でしかまともに意見も言えないようなカスを、喜ばせるために書いているわけでもないのだ。
 金の為だ。
 私の充実の為。
 私の為でしかない。
「それで、パイプラインの破壊が目的ではないのか? 話を聞く限り、資源が持ち運びされているようだが」
「ああ、そうだ」
 言って、彼は資料らしきモノを取り出した。
 そこには。
「・・・・・・何だこれは」




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