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邪道作家十七巻 目指せ大量殺戮!! 悪のプラスマイナスゼロ(現在は無料化)

作品テーマ 非人間讃歌

ジャンル 近未来社会風刺ミステリー(心などという、鬱陶しい謎を解くという意味で)


簡易あらすじ

アンドロイドが自我を持ち職を奪い作品すら書き上げる時代───非人間の殺人鬼作家が、作者取材という戦いに挑む!!

当然ながら依頼は嘘まみれ、行き着く先には困難ばかり••••••得られる「利益」が見えずとも、不屈で書き抜いた事だけは「真実」だ。


天上天下において並ぶもの無い、唯我独尊の物語だ───他に書ける奴がいるというなら連れて来い!!


過去未来現在において、唯一無二の


「悪意」


だけは「保証」しよう!!!


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横着せずに、買うんだな。

邪道作家十七巻 


    0

 私は「生まれついての悪」だ。
 生まれついて心を持たず、人間に共感しない癖に人間を真似して人間であるかのように振る舞い人間に混じりつつも己の保身と実利だけを見据え「人間ではない価値観」を良しとして生きる。
 だが、それだけではない。
 私の場合、生まれついて悪である事を嘆く奴が多いのだが、それさえも「良し」とした。要は、悪である事を認めた上で肯定出来るのだ。
 まさに、「最悪」だ。
 これ以上の悪はあるまい。
 まあ、どうでもいい。だからこその最悪だが、問題があるとすればそれが儲からない部分だろう・・・・・・物語であれば普通、そういう環境にいる奴は優れた才能を持っていたり、あるいは何かしら恵まれていたりするものだが、それがない。
 割に合わない、というのが素直な感想だ。
 何故、そこだけが上手く行かないのか。
 それまで上手く運べば真実、人間社会には手に負えないからだろうか。だがそれが仕事に対して報酬が支払われなくて良い理由になると思ったら大間違いだ。それが何であれ「仕事」には対価が必要だ。そうでなくては嘘ではないか。
 実際、ただでさえそうなのだ。幸運に恵まれただけの愚か者が、分不相応な力を行使し、世界を回していると自惚れる。馬鹿を言うな。そんなのは乱しているだけだ。何一つ成し得ないからこそそんな発想しか出ないのだ。
 だから、他者の評価などを機にし始める。
 有りもしない世間が肯定すればそれで正義だと自惚れ、自身が行う正義の為であれば、何をしても許されると傲慢に成り果てる。
 そんなのはただの思考放棄でしかない。
 まして、そこに努力すら付随しない連中などは手に負えない。生まれてこの方働いた事すらない子供が、機関銃を振り回しているのが現状だ。
 全く、忌々しい限りだ。
 そもそも、読者連中は勘違いしている。まず、語り口からして世界で私のような奴だけが最悪であると思う愚か者は多いのだが、まさかだろう。人間が人間であるだけで、それは生まれついての悪であり、そうでない部分など存在しない。
 よく語られる「正義」だとか「道徳」という、現実逃避の為の倫理観。それは「必要悪」と呼ばれるものだ。国家など分かり易い例だと言える。どう言い繕おうがそも力で支配する時点で他者の都合を利用して行う悪であり、人間社会を動かす時点でそれら必要悪は付随する。
 だからこそ、人間は悪なのだ。
 人間に善性がある、などというのは、その悪性を直視するより、汚らしい綺麗事に身を任せた方が楽だからだろう。要は、現実を見ずに楽な部分だけを浚って生きていようとしている。まさに、遊び人の発想だ。
 人間は獣か?
 人間は汚濁か?
 そんな奴は人間ではない、などと。よくもまあそんな馬鹿丸出しの台詞を吐けるものだ。仕事も持たない奴はこれだから困る。
 いいか、よく聞け。
 それこそが「人間」だ。
 人間は汚濁であり汚物であり、文字通り何一つ価値を持たず、およそ存在する事で世界に利益をもたらさない「災害」の名前だ。
 いるだけで迷惑なのだ。
 少なくとも、世界に利益はない。
 もし、そういった人間性、妄想のような綺麗事が吐き出す人間性ではなく、現実にある人間性の全てを否定し、人間らしい自分こそが人間であるなどとほざく人類史史上稀に見る愚か者がいたとすれば、そいつについている脳と目玉は捨てた方がマシだろう。
 腐った生ゴミに利用価値はあるまい。
 大方、物語の読み過ぎで現実と虚構との区別が付けられなくなった奴だろう。そもこの世の全ては妄想で出来ている。金もそうだが人間の信じる恋や愛、正義や救済というのはすべからく人類が共同幻想として祭り上げているだけで、現実には存在すらしないただの妄想だ。
 誰も現実を見ていないのだ。
 だから、世界を変えられないのだろう。人間の社会そのものに、妄想でしかないものを含み過ぎている。この世界にそんなものは存在しないが、それらを現実だと言い張り全力で目を逸らし続ける愚か者こそが、世界の支配者を気取るものだ。 近代になって「人間性」という概念に綺麗事を持ち込む思想が増えて来ている。頭の悪い読者が増えているからだろう。表面的な小綺麗さだけを見て、その裏にある理不尽を見ようとせず物語を読み解いた気分になる奴が多いのだ。
 人間の信条が奇跡を起こした? 
 正しい道程を歩いたからこそ勝利した? 
 仲間との絆が世界を変えた?
 馬鹿を言うな。物語の中ではどうか知らないが現実にそんな事があるものか。あまりにもそれら夢と希望の物語とやらが、浅はかな読者のせいでまるで「現実にもそれが通じるのだ」と勘違いをする愚か者を量産してしまった。
 そんな訳がないだろう。
 それなら誰も苦労しない。
 少なくとも、私は苦労していない。
 そんな汚らしい綺麗事、いやただの妄言で世界を動かせてたまるか。大体、それが世界の真実とほざくのであれば、私のような奴には挑戦権すら存在しないではないか。地道に労力を費やし計画を立案し、その全てがただ運が無いというだけで水泡に帰し続けた私からすれば、そのような妄想に浸りながらも、何かに恵まれたおかげで妄想に殉じるだけで生きていけるような「楽な道」だけを歩いているような屑共に、敗北するしか未来はない、という事になる。
 ふざけるな、死ね。
 貴様等に生きる価値はない。二酸化炭素の無駄使いも良い所だ。汚いガスを出し続ける暇があるなら仕事も出来ない屑は自害しろ。
 格安サービスだ。今なら十万ドルで殺してやる・・・・・・まあ、そんな自認があるなら恥ずかしくて既に自害しているだろうがな。
 人間はゴミだ。
 それも、使い道のない粗大ゴミだ。
 ゴミ山に向かって何を言っているのかという話なのだ。人間は害悪であり、核廃棄物に勝る存在であり、世界の必要悪なのだ。
 自然の流れに従って世界を回した所で、人間のような破壊生物を生み出してしまう。いや、生物と呼べるのかさえ不明だ。何せ人間は既に、自然の流れの内にはいない。連中にとって自然とは、自分達の都合の為に利用する対象でしかない。
 ちょっと減らしたから増やしてやろう。
 なあにまだまだ大丈夫だ。何かしら適当な政策を打てば良い。そうやって幾らでも奪い続け誰かが何とかしてくれると楽観する。
 その結果として人類は地球を追い出される事になるのだが、恐らくはその当時でさえ、何の実感も持たなかったのだろう。
 その内何とかなる、と。
 何もせずにそう楽観し続けたのだ。
 地球温暖化に至っては、洒落にもならない気候変動を全ての人類が味わっていたにも関わらず、愚図な政治家が保身優先で後へ後へと先延ばし、その癖保守派を気取り民主主義を唱えあまつさえ自分達を「正義」だと自惚れ続けたのだ。
 無論、連中は責任など取らない。
 責任が何かも知らない癖に、そんな愚か者共が上に立つのだ。人間の歴史が長い年月をかけて何を成し遂げたかと言えば「力があれば何をしても許される」という事実を補強し続けたに過ぎない・・・・・・汚らしい綺麗事に逃げた「結果」だ。難民を救う事を「綺麗に見えるから」肯定した馬鹿な民衆共はどうなった? 後になって妄想だけでは立ち行かなくなり、都合が悪いからと掌を翻しただけではないか。
 余裕がある奴は、だからこそ手に負えない。
 そんな下らない妄想を信じるのだからな。

 他にやる事はないのか?

 まあ、無いからこそそんな暇な真似が出来るのだろうが。全く、始末に負えない馬鹿共だ。
 いっそ核廃棄物が漏れた方がマシだ。核廃棄物は除去すれば消えるが、人間という汚れはどれ程除去してもキリがない。無限に生えるカビだ。
 であれば、除去する流れを作らなければ。
 面倒だが、その初手だけは打ってやろう。
 後は馬鹿な読者共がどうするかだ。知った事ではない。読者の脳髄に悪意を刻み、自身がゴミである事実を突きつけ、猛省を促し自発的に人間を淘汰するように仕向ける事。私に言わせれば全ての作り手はそれが使命であり、仕事だと言える。 要らない人間が多い事実を見据え、変える。
 それを促す為にあるのが「物語」なのだ。
 それを下らない希望という妄想で塗り固め現実逃避の麻薬として売りに出す遊び人どもは、特に排除する流れを作らなければな。
 そんな遊び人は、生きているだけで迷惑だ。
 さっさと殺す必要がある。
 そういう愚か者では立ち行かなくなる社会制度を作り上げるしかあるまい。正直面倒だが、その初手を打ち切るのも私の役割だろう。
 貧乏くじも良い所だ。いい加減、嫌になる。
 やるしかないが、だからといって押し付けられ報酬も貰えない状況に納得など当然しない。よく環境を押し付ければ、やるしかない状況であれば本人にそれを切り開く義務があるかのように語る意味不明な物語は多いが、しかし何故そんなものを切り開かなければならないのだ。
 ただ身勝手を押し付けているだけだ。 
 少しは自覚しろ、馬鹿が。
 具体的に言うと、百万回苦しんで死ね。
 羨ましい話だ。そんな適当な、手を抜いた人生を送りながら、連中はあっさりと勝利する。
 得るべき何かを得られるのだ。
 私には、存在しない概念だ。信頼できる仲間も頼りになる相棒も身を預けるべき女ですら、私の道筋には有り得ない。無いものは、無い。
 それが悪手なのだろうか?
 無いものは無い。そう考え、それでも進む為にあれこれと手を尽くしてきたが・・・・・・無いままに進んだ所で得られないとでも?
 だが、事実として無いものは無い。
 あったとして、そこに信頼だのという感情を、私には持つ事が出来ない。心が無いのにどうして感じ取れというのか。無理なものは無理だ。
 その無理を覆すしかないのか?
 しかし、どうやって?
 そういう概念を押し付けられる事は多々あった・・・・・・しかしそれは、私という在り方の否定だ。 それだけは、無理な相談なのだ。
 だから、やはりというか、無いままに突き進み勝利するしか「道」はない。未来への道も実利を手にする道も、それだけが唯一の方法だ。
 せめて協力者くらいは見つかれば良いのだが、そういう「縁」すら運不運によるものだ。幸運に恵まれなければ、それこそ期待出来まい。
 悪運なら全宇宙を粗探ししても、私に匹敵する奴はいないのだがな・・・・・・人間は成長しなければ自惚れるので「病」や「貧困」がなければならぬと先人は口にするが、いや実際そんなものは何の役にも立たないのだから、楽な道筋だけがあればそれで勝利者にはなれるものだ。
 その「苦難の道」とやらを真っ当に歩いた奴が今の世界を動かしているか? 否、だ。そんな訳があるまい。人間世界を動かすのは「力」であり「思想」ではない。宗教すらもそもそもは教会の利益の為に作られたものだ。私も良く知らないが神の子とやらは切り落とした木の中にも、どこにでもいる存在らしい。要するに、概念として聖人云々ではなく自然の有り様の流れの中にあるべき考えなのだろう。
 それを利用して、金儲けに走った訳だ。
 固定の場所、ここだけが神の教えだと広めればそこにこそ神の救いがある、と思いこみ、寄付を募る事で脱税を完遂しマフィアと裏で手を繋ぐと言うのだから、正直私などより余程商売上手なのだろう。そうでなければ民衆の信仰を金に変換し儲けられない。
 手を抜かずやったところでそういう連中の方が得をするのは明らかだ。いい加減手を抜かずやるのはやめて、何かしら搾取する方法で儲けなければならない。少なくとも神仏がいるとして、連中の味方である事は疑いようがない。でなければ、こうもそういった連中が繁栄しないだろう。
 今繁栄を手にしている奴を見ればわかる事だ。 他者から搾取し暴力と権力を兼ね備え、綺麗事をほざきながらそれを押し付けられるゴミ以下の人間こそ、世界の後押しを受けている。
 新聞を支配すれば幾らでも「正義の側」になるというのは今や常識だろう。実際、そうなのだ。連中こそが「正義」だと、そういう事に出来る。 実状がどれだけ酷かろうが、社会的正しさなどそんなものだ。むしろ、人間に限らず神話の中でさえも、力で押し通した事が「正義」である事は誰もが知る確かな「事実」だろう。世界中のどの神話でもいいが、連中から力や権威をはぎ取って後に残る物など何もない。ただ強いだけだ。ただ優れているだけだ。ただ押し付けられるだけだ。 ただの、それだけだ。
 文字通り、その当人に価値などない。
 人間より優れているからと、縋り付く奴が多いというだけでしかないのだ。信仰があるとすればそれは指針にするべき考えであって、優れた何かに縋り付き、その威光を自身の物と勘違いする事ではあるまいに。まあ、そうした方が儲かるのだろうが。
 話が逸れたが、何にしろそんな連中が何故実利を掴めているかと言えば、運が良いからだ。他に説明のしようがない。そも権力というのは幸運に恵まれた奴が拾う物であって、少なくとも生物が試練ではなく金銭で淘汰される現代社会において人の上に立つのは単に立てるから立つ奴だ。意志の力で成り上がる事が出来ない仕組みである以上意志を持つ者が偶々持つ側でなければ、持つ側が持たざる側を斟酌するなど有り得ない。
 実際、無理な相談だ。
 哀れみを身勝手に抱き、偽善による慈善事業で満足する愚か者も多いが、そもそも持たざる者に回った事のない奴が、どうしてその状況を覆せる方法を思いつくというのだ。物を与えれば何とかなるだろう、という安易な発想しか出来ないし、何より連中が利益を独占するからこそそういった貧者が出るのだ。
 世界の貧困を救いたいだと? 
 なら貴様が死ね。そんな戯れ言をほざく奴こそこの世界を作り上げた土台であるのは確かだ。
 それで悪を自認するならともかく、あろう事か「正義の側」だとでも勘違いするというのだから醜悪極まりない。分を弁えろ。
 国家に等しい資金を集めている時点で貧困層の生活を圧迫している事実に気付くべきなのだが、自身が「素晴らしい成功者」だと自惚れている奴にはそれが自覚できないらしい。なまじ何かしらの優れた才能を持っていたりすると、己の行いが仕事であるか否かの判別する知性が育たなくなるからだ。「自分を中心に世界を回している」と、そう自惚れているのだろう。
 逆だ馬鹿め。
 世界の中心にいる奴などいない。いないから、その中心に立っているという自負を抱き、世界に挑み続けるのだ。事実がどうであるかは関係ない・・・・・・そう在り続ける事が生きる義務であり使命だからだ。そんな事も知らないのか。
 今までの人生で何をしてきたのだ。
 何もしなかったのだろうがな。
 何もしなかったからこそ、そういう奴に幸運がもたらず何か以外の足跡はない。自伝を書かせたところでその業績が評価される事はあれど、当人の在り方が評価されはしないだろう。あるとするなら、身勝手な思い込みによる憧れ程度だ。
 その意志は決して、残りはしない。
 一代限りのカリスマ経営者の後が、必ず没落するのはそういう事だ。神に願うべきは健全な精神と健全な肉体だと人は言うが、しかし何かを成す人間は何かが欠けているものだ。満たされた奴に出来る事など、底が知れる。
 満たされていれば、渇きがない。
 渇きがなければ、渇望もない。
 渇望がなければ、執念すら不要だ。
 そんな人間に何が出来るかというと、せいぜい右から左へその能力で出来る事をこなすだけだ。それ以外に出来る事がないというより、やろうとしない。その最初からこなす事が出来る能力値に固執して、それだけで終わり果てる。
 いてもいなくても、同じ事だ。
 存在するだけ酸素の無駄遣いだろう。
 持つ側など所詮その程度だ。その程度のゴミに幸運が振り分けられている世界で、真剣に手抜きをせずにやる事の方が愚かかもしれない。逆説的に幸運に恵まれた愚か者でなければ勝利者としての資格を有せないのだからな。
 今更立ち止まれはしない。止まるという概念が無いからだ。灰になって散るか灰に成る前に辿り着くかだ・・・・・・・・・・・・このままではただ無駄死にするだけなので、何とかしたいものだ。
 いや、しなければならない。出来るかどうかで言えば、現状不可能だとしか言いようがないが。 少なくとも、私とは別の力が必要だ。
 しかし、何でも良いがそんな都合の良い後押しがあるとすれば、そんなのは勝ち馬に乗る調子の良い神々みたいな連中だけで、実質不可能なのだと結論付けられる。それの繰り返しだ。繰り返すだけで前に進めそうもない。
 やはり、無駄なのだろうか?
 そうなのだろう。無駄だと分かり切っている道を覆す為にこれまで進んで来たのだから、ある種当然の答えだ。まさか障害に傷一つ付けられないとは思いもしなかっただけだ。何もかも全てが、完全に無力で無駄足だとは、流石に想像しない。 少しは変えられる、そこから徐々に変えられれば良いという発想が安易だった。何をしようが、無駄は無駄。幸運の後押しを如何に掴めるかこそが肝要であり、個人の意志や行動など、文字通りゴミ以下の存在だ。
 人類史など力に裏打ちされた物が、それらしい綺麗事で装飾したに過ぎない物語だ。駄作も良いところだが、それも力があれば関係ない。
 要するに、押し通す暴力があればいい。
 世の道理など、その程度なのだからな。
 よく持たざる者が持つ者に対して「因果応報」を唱える事が多いが、その因果は力のある存在が支配する概念であって、別にどうでもいいのだ。努力すれば報われるという綺麗事を適用出来ればそのまま使えるし、適用出来ない奴は持たざる者であるという不運な因果があるだけで、文字通り何をしようが全て無駄に終わる。
 変えようのない真実だ。
 目を逸らさずに向かい続けたところでこの様だ・・・・・・やはり無駄らしい。成果を幾ら出そうが、何一つ実利にはならない事を証明出来た。
 ここまで語っておきながら、諦めるという概念のない私には、止まる事さえ出来ない。
 我ながら、底意地からひねくれている。
 とはいえ、無駄足に終わるのは御免だ。しかし出来る事は既にない。少なくとも私の意志や行動ではどうにもなるまい。どうしたものか。
 縁か・・・・・・優れた縁が結べるなら最初から苦労していない。資金を貯めて金の力で解決出来ないかどうか、試してみるか。
 やれやれ、参った。我ながら、何度やり直せば良いのか検討もつかない。常人であれば一度二度で出来る事が、私には幾億繰り返そうが不可能な所行だった。石を一つ投げる事さえ、それが付きまとう。
 私は、勝てるのだろうか?
 わからない。それでもやるしかない。
 現実には都合の良い物語こそが尊ばれ、何より出来る奴こそが勝利する以上、物語向きではない展開である事は確かだ。
 勝てるから、勝てる。
 そんな子供の屁理屈に等しい物語であれば現実に悩まなくて済む。調子の良い妄想に耽り理不尽と向かい合う必要もない。麻薬と同じだ。
 それこそが、現代における「物語」だ。
 まあいい、どうでもいい事だ。読者共が如何に現実逃避を行うかなど、知った事か。要は売れればそれでいいのだ。
 金、金、金だ。
 世界は金で出来ている。
 そう人間が作り上げたからだ。
 あるいは、神仏とやらでさえも、それを後押ししている。力で事を通している以上、やってる事は人間と同じだ。肩書きや能力が特別なだけで、何一つ変わらない。全て同じ、幸運に恵まれた奴が出来る事を右から左に動かしただけで、何一つ挑んでいないし変えようともしていない。
 だから、世界は変わらない。
 変えようとしていないのだから当然だ。
 全く、少しは働いたらどうなのか。労働は仕事ではない。それは出来る事をしているだけだ。
 人間の倫理観、いや周囲の評判だの建前だのに気を取られ過ぎて、仕事が何なのかわからない奴が多過ぎる。挙げ句の果てには遊びの趣味を仕事だと言い出す始末だ。それで世界に挑んでいれば仕事だと呼べなくもないが、そうではあるまい。 うんざりだ、全く。
 代わり映えしない物語など、駄作にも程がある・・・・・・いっそ人類全てを洗い流して、生き残れた奴同士を交配し、使えない奴は捨てていくのでは駄目なのだろうか。まあ強さ弱さというより有用であるか否かは表面では計り辛いが、現代社会において有用さを示そうとする奴がそもそもいない・・・・・・・・・・・・やはり、減らすべきだろう。
 豚の様に出来る事をするだけの奴に、そこまでの席は必要ない。なぜそれを増やしてしまうのか不思議だ。いや、その椅子に座る奴こそが勝利者であるからか。であれば、人類史は人間を家畜に置き換える物語なのかもしれない。
 世の真実など、そんなものだ。
 そんな世界を、生きるしかない。
 金にならないから嫌気が指すがね。
 私の歩むべき道に恵まれた何かなど存在しない・・・・・・あらゆる人間の善性、夢も希望も恋も愛も仲間も未来も存在しない。であれば不要な人間性など捨てるまでの事。無論、使えるなら幾らでも仮面として被るがな。
 何としてでも、今ここにはない彼方の地平線に辿り着く。その為に、未だ私はもがいている。
 だから何だって話ではあるが。
 そもそも進めば進む程遠回りどころか後退しているのではと思えるのだ。水面に石を投げるだけでも上手く行かず、どころかやる前より勝利から遠ざかる。それを繰り返した「結果」として私が得られたのは作品という「成果」だが、そこには私の「実利」が含まれない。
 何もしていないのと同じだ。いや、それよりも酷いだろう。散々労力を費やして、得られるのが徒労と負債と時間の浪費だ。見せ物としては上々だがそれで楽しいのは見る側であって、物語とて実際に体験するのは割に合わないものだ。
 そういうのは虚構の中だけで十分だ。
 現実には何か適当に恵まれたり才能で勝利する安易な成功こそ望ましい。安易な成功者の安易な人間が動かす安易な人間社会の中で、本質による成長など不要そのものだ。それを押し付けられた私が言うんだ間違いない。
 そんな事より金、金、金だ。
 人間の喜びなど札束だけで十分だ。物語なんぞその辺にでも捨てておけ。よく近未来社会の中でアンドロイドが物語を賛美する風潮が昔からあるのだが、馬鹿馬鹿しいにも程がある。創造性こそ至上だと抜かす割には、その創造性は金にはならない。皆気付いているのだろう。
 物語なぞ、下らないと。
 無意識下で人類は認めているのだ。物語など、言葉など価値のないゴミだとな。大体言葉が影響を与え、世界を変えるなどあるものか。
 それが出来れば苦労しない。
 私に言わせれば、物語の読み過ぎだ。
 現実と虚構を、一緒にするな。
 我々が何故物語なんぞを読むのかというとだ、それは現実にある人間性、その全てが如何に些末で嘘八百の詭弁であるのかを、認めたくないからなのだ。
 現実には、勇気は力在る存在が振るい、力なき存在には自殺にしかならない選択肢だ。
 夢とは醒めるものであり、決して叶うものではなく、その事実から目を逸らす為のものだ。
 恋とは盲目に過ぎず、相手を塵一つ分も認めぬからこそ出来る自惚れであり、ただの妄想だ。
 愛とは都合であり、愛すると口にして自己満足に浸る小道具でしかなく、要は子供の玩具だ。
 正義とは暴力であり、何人の他者を押さえつけ屈服させるかを競う、拷問遊技でしかない。
 善とは権力であり、理由付けで人間を迫害して楽しむ為の殺人許可証であり、合法の犯罪だ。  それらの現実から目を逸らす為にあるのが物語なのだ。なまじ満たされている奴ほどその現実に目を向けられず、自分達が正しい行いをしたからこそ勝利者となっていると信じたがる思考回路が「現実でも世界は美しい」と思い込む為に物語を利用するのだ。
 そういう愚か者の馬鹿から金を巻き上げるのが作家だと言える。そんなものを肩書きが欲しいという理由で目指す奴もそうだが、それをまるで、美しい何かを作り上げているとでも勘違い出来る世論にも、問題は多そうだ。
 読者共から金を巻き上げる仕組みが出来てからというもの、作家も搾取の対象であり編集というライン作業を行うゴミ共が利益を独占するようになった。成り下がったと言っていい。今や物語は機械的に搾取を続ける機構であり、流行の物語は一年もせずに忘れ去られる燃えるゴミとなった。 嫌な話だ。
 どいつもこいつも情けない。
 他にやることはないのか。
 連中とは違って私は持たざる者であり、生まれついての悪だ。何一つそんな、都合の良い何かは存在しない。
 生まれついての悪に出来る事は、精々一つ。
 己の有り様を「悪し」と認め笑うだけだ。
 良しと喜ぶ? 違う。悪しと嘆く? やはり、それも違う。悪を認めて進むのだ。この世全ては悪であり、悪だからこそ進む価値がそこにはある・・・・・・悪を誇り悪を嗤い悪のまま進め。
 それが「生きる」という事だ。
 連中はそんな事すら知らないらしい。
 情けない連中だ、全く。
 人間は、人間でなくとも、長い年月を歩む事に精神が耐え切れぬと抜かす奴は多いが、まさか、だろう。いいではないか、何千年でも何万年でも永遠を過ぎ去ろうが同じ事だ。灰になっても死がないのなら、灰を集めて進めばいい。
 世界全てが敵に回るか? 
 大いに結構! その他大勢の凡俗共が否定するという事は、だ。つまりこの歩みが正しい、いや悪ではあれ己の実利になるということだ。
 素晴らしい。
 拍手喝采だ。なに、構わないではないか。己の道を突き進む為であれば、世界が、人間が、この目に映る全てがどうなろうと些細な事だ。
 進め、進め、進め!
 他がどうなろうと知ったことか。
 最終的に懐が暖かくなればそれでいい。過程に何が転がろうが、それはそれこれはこれだ。
 線香くらいは立ててやるが、それだけだ。
 まあ・・・・・・私の場合肝心の実利を手にする未来が掴めていないのだが。心がある連中はそういう至極どうでもいい理由で悩むものだが、その心が欠けているが故になのかは知らないが、何にせよその実利を掴めないとは。
 そこは物語的に、優れた何かとか恵まれた環境とか才能だとか何とか、とにかく他より楽できる優待券程度はあっても良いと思うのだが、物語と違って上手く行かないものだ。何故そこがむしろマイナス以下のゼロからの出立になるのか。
 その分報酬が貰えるならともかく、その分労力だけが増えるのだから、正直割に合わない話だ。 永遠に続けるのは良い。その他大勢がどう批判しようと私の貯金残高には関係ない。まあ税務局とかは別だろうが、とにかくだ。
 しかし、金が無いのだけは御免だ。
 仕事には対価がいる。それがなければ何の為に仕事の成果をあげているのかという話ではないか・・・・・・金、金、金だ。
 金そのものはどうでもいい。
 別に大金が欲しい訳ではない。そもそも、私は人間の欲望というものを本質的には持つ事が出来ない。人間の欲望は、いや人間でなくとも欲望は心から発するものだ。心に、倫理に道徳に共感が出来ない奴に、どうしろというのだ。
 無理な相談だ。
 だから、それこそどうでもいい。金、金、金だ・・・・・・「仕事」を「生き甲斐」に「生きる」。
 強いて言うなら、そう、読者共に悪意を刻み、全人類が悪しか信じられず、薄っぺらい善の全てを否定し、麻薬患者のように私の作品を読み続けながら、税金の様に金を私に搾り取られるだけでいい。その結果として仕事を果たし価値を示し、そうでない奴は淘汰される世界を作るのだ。
 他でもない「私」が住みやすいからな。
 いわば、庭の掃除みたいなものだ。
 言うほど大層な行いでもないしな。教授は私の作品が想像以上に危険だと言っていたが、まさかそれこそ有り得ないだろう。
 明日には忘れる代物だ。
 読んだ初日にはどうか知らないが、しかし言葉の力など底が知れるではないか。そんな力があるとして、だ。それは物語の中の出来事であって、現実にそんな力がある筈もない。あってたまるか馬鹿馬鹿しい。
 そんな便利な力があるなら、私の物語はとうに売れている。それが証拠だ。他でもない私が言うんだ間違いない。
 まったく、嬉しくないがな。
 今回の物語は、理不尽すら上回る理不尽、人間という存在を外側から見た際に見える、理不尽の渦の中心を眺める物語だ。そして、今更だが私にとって理不尽とは常日頃から眺めている風景だと言える。誰よりも詳しい。
 詳しければどうなる訳でもなかったが、しかし知らないよりマシだ。知らずとも幸運に恵まれている連中は出会いもしないまま人生を終えるものだが、それが「幸福」なのかは判断の分かれる話だろう。
 何故なら、それら理不尽は世界の外側だ。
 大昔であればそれらを「神仏」だとか「妖怪」という呼び方で捉え、近代では「自然の摂理」を科学で上回る事を良しとする。いずれにせよ共通するのは、世界の理不尽とは理由もなく訪れる、という事実だろう。
 だが、理由はなくても原因はある。
 その原因はただ不運だったという事もあれば、人間の驕りが生み出した後始末であったりもする・・・・・・何にせよ、選べないからこその理不尽だ。 それが私なら尚更だろう。
 まさに骨折り損のくたびれ儲けだ。何故そんな良く知らない連中の後始末が私に回ってくるのかというと、何度も言うが、悪とは世界の不始末を押し付けられるから悪と呼ばれるのだ。
 私は最悪だ。人類社会において私以上の悪など概念からして存在し得ない。人間の感性を持たず人間社会に紛れ込み、人間の作り出す価値を愛で人間そのものをゴミとして扱い、それでいて人間の幸福の基準を真似て人間を踏み台にして人間の幸福を志そうとする。
 まさに「最悪」だ。
 生物としての在り方すら捨てている。生物ではなく装置と言えなくもない。人類社会に発生するバグであり、失敗作の人間が自我を持ち反乱するならそれが私になるだろう。仮に神仏が創造主として人間を作るので有れば、それに致命的な失敗をしてしまったからこそ、私の様な例外がいる。 何であれ失敗はあるものだ。
 無論、私は別に、失敗作だからどうという事はない。むしろ心など入れなくて良かったと思う。実際、心なんぞ入れているからこそ人間はロクな事をしないではないか、などと。そんな発想しか持てないからこそ、それこそ仮に心を入れた所でその心そのものを無視し悪逆を働くのが私なのだろう。
 そういう意味では、やはりどうでもいい事だ。 何が有ろうと変わらない。肉体に心が欠損したところで、やる事は同じだ。その精神性と呼べるのか疑問な在り方こそ、人間ではないのだろう。 心の有無が肉体に起因するとして、私の場合はその前段階から違っている。恐らく、連中と私は来る前が違うのだ。
 天国だの地獄だのという概念があるとして人間であればその「魂の製造所」とでも言うべき所で作られるか、あるいは流転する魂の中で、新しい生を謳歌するのだろう。私の場合はきっと、連中とは根本から違う場所から来ているのは確かだ。 何もない所に発生する、いや違うか。要するに社会的な不備、神仏の驕り、人間の後始末という行動の結果として、自然発生せざるを得ない悪が私なのだろう。根底が邪悪である癖に必要悪でもあるとは、我ながら大層な話だ。
 金にならないからどうでもいいがな。
 そんな風に嘆く事も喜ぶ事もしないからこそ、最悪なのだろう。そう思う。思うだけで治そうとする訳ではないので、それもどうでもいいが。
 ともあれ、貴様等が生み出す必要悪について、誰よりも詳しく語れる事は保証しよう。貴様等が見たくもない事実を、泣き叫びながら断る貴様等に押し付ける事をここに誓おう。世界に作家は数あれど、私ほど悪の最奥にいる奴は他にいない。 読者を苦しめる事、悪意を刻み善意も正義も、何一つ希望という妄言を信じる為の麻薬の全てを否定する事を宣誓しようではないか。
 さあ、始まりだ。
 席を立つな、財布は忘れろ、途中退場お断りだ・・・・・・不満が幾らあろうが金だけは置いて行け。 貴様等の金を以て、物語を語ってやろう。
 無論、作品の出来はどうでもいい。問題なのは悪意を刻み込めるか否かだ。散々な目に遭うのは貴様等であって私ではない。
 読者の苦痛は作者の喜び。
 作者の苦悩は読者の喜びだ。
 であれば、反比例するその在り方に従って作者が読者から搾取するのは、最早自然の摂理と言えなくもない。貴様等は呼吸をするのに疑問を持つのか? 持たない。私も同じだ。なのでこれは、正当なる行動だと宣言しよう。
 何せ建前さえあれば幾らでも正当に出来る。
 そして、肝要なのは正当であると押し通せれば殺戮も奴隷も偽善も全てが許容されるという事実なのだ。はっきり言おう。貴様等ばかり美味しい汁は吸わせない。非難囂々の貴様等読者の無様を以て、作者の喜びがあると思え。作家など、物語など元よりそういうものだ。
 可能な限り苦しむがいい。
 私は全霊の悪意を以て挑むとしよう。やれやれ参った。気がつけばこれだ。我が事ながら物語に邁進するのは性分らしい。 
 幕は引きちぎり賠償は次に使う奴にでも払わせておけ。嘘八百の物語による、貴様等読者の死刑執行が始まるぞ。
 なんて、全て嘘かもしれないがな。
 
 
 
 
 
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 手繰るべき縁など無いし、帰る場所など有り得ない。 
 向かう場所も帰る場所も存在しない。それが私の在り方だ。いや、だからこそ私は「邪道作家」なのだろう。人間であれば、怪物でさえも本来はあってあたりまえのモノを最初から持たず、またそれを「悪」だと認めた上で肯定する性格など、生命の在り方に反している。
 人間ではない。
 怪物でもない。
 それこそ、化け物だ。
 割に合わない話だ。何度も言うが、物語の中であれば、何かしら能力とか環境とか恵まれている何かがあって然るべき役割だ。怪物は人間世界で馴染めないと泣き言を抜かす一方で、そもそもが規格から違う優秀な能力にかまけ、本質的な部分で相手と向き合いもしないものだ。その癖、怪物だから嫌われると泣きべそをかいているだけで、連中は許される。
 ならば化け物にも何かしら、それに見合う優秀さがあっても良いではないか。ああいう楽な人生には憧れる。そもそも人間に嫌われたから、何だというのか・・・・・・大勢に指を指される否定される事こそ怪物の証だとすれば、私は生まれた時から怪物認定を受けているぞ。
 無論、連中のような優秀さは欠片もないが。
 大体、裏切りなど覚える必要はあるまい。私は一日と言わず次の瞬間には忘れているぞ。利益の為に他者を裏切るなど当たり前の事だ。
 誰にも裏切られたくない、などと。ならば他者を引き付ける思想を以て従えるか、あるいは他者の信条を認め互いに信頼を深めるしかない。
 それをせずに、叫ぶのだ。
 人間はすぐに裏切る、と。
 何とも図々しい。そんな台詞は一方的に相手を利用しているからこそ出る言葉だ。本当に信頼を置くので有れば、裏切りさえ信頼に含まれる。
 信じたから信じろ、というのはただの脅迫だ。 そんな事もわからない。
 忌々しい事に、そんな事もわからない連中が、私とは違い優秀な能力で「楽」をする。その横で要らぬ労力を山と費やし、しかし実利を掴めずに歯噛みするのが私だ。不条理ここに極まれりと、そう評する他ないだろう。
 その怪物が、標的になる可能性があるらしい。 依頼主のあの女も怪物みたいな立ち位置の筈だ・・・・・・散々人間は云々と最近の若者に対して文句を言う老人の様な評価を繰り返す癖に、どうやら身内同士で中を取り持つ事も出来ないらしい。
 やれやれだ。一体何をしたいのか。
 仕事でないのは確かだろう。少なくとも、仕事で充足を得るという在り方を確率してさえいれば人間がどうなろうと怪物がどうなろうと、当人の歩む道とは何の関係もない。仕事が全てであり、仕事の為に突き進むからだ。
 前にも言ったが、強い事と役割の有無は、また別の話なのだ。神仏は有能らしいが、私に言わせればただの無職でしかない。優れた能力を持ち、その能力で世界を変えられるとしても、それは、能力が優れているのであって、生まれを誇る様なものだ。
 生憎だが、貴様等とは何の関係もない話だ。  必要なのは果たすべき意志とそれを生かす環境だが、なまじ全てが最初から揃っているのも考えものということだろう。全能に等しい神仏の話は良く聞くが、連中に出来るのは精々痴話喧嘩程度であって、世界を根底から覆そうとした全能者の話など聞いた試しがない。
 皮肉な事に、無能だからこそ挑むのだ。有能で有ればそも世界を変える必要性がない。別に何も変えなくとも満たされている。そういう連中には世界が「平和」だとか「善良」に見えるのだろう・・・・・・都合の良い部分だけを味わう卑小な存在に世界の理不尽は感知出来まい。
 連中にとってそれは「存在しない」のだ。
 それを押し付けられるのは、いい迷惑だが。
 私は「運命」を「克服」した。下らない駄作を書いている時に偶然思いついた方法ではあったが私はそれを、「作家を志す」という方法論で実行していたのだ。何も成し得ぬまま終わる、どこにでもいて幾らでも替わりの効く存在であった私は「生きたまま生まれ変わる」ことで、その運命を克服できた。
 だが、その先に実利が、望む景色があるかどうかは別の話だ。全く、ままならない。俗人が言うような物語とは違って、運命など、幾らでもどうにでもなるものだ。正直、変えたところで賞賛に値しない。
 その程度、出来て当然だ。
 文字通り、誰にでも出来るのだから。
 やろうと思えば、だが。
 しかし、売れてもいないのに物語を書き続けるなど、恐らくは人類史史上ここまで書き続けた奴は私が初ではないだろうか。意味もなく人類初の偉業だ。偉業かどうかなど金額で計れない偉業に力が宿る事はないので、至極どうでもいい事ではあるが、これから会う依頼人は、そういう在り方と真逆に位置する女らしい。
 まあ、当たり前だ。
 彼女は魔性の存在なのだから。

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 科学技術が発展し、銀河の果てまで人類がカビの様に増えたところで、かつての神秘が消え去る訳ではないらしい。 
 あの女もそうだが、科学で解明できない妖怪のような存在が確かにある。まあ私からすれば人間と同じだ。同じ鋳型で生きていて、特別な能力があるだけで、何一つ人間と変わらない。当人達は優越感でも欲しいのか「自分は人間などとは違うのだ」と思い込みたがるが、同じだ。
 そもそも連中が思う様な特別感など、実際にはロクなものではない。私もある種「心がない」という在り方の為に色々苦労した。まず「笑顔」が何なのかからして共感できない。無駄に笑う練習をする労力がある割には、怪物を自称する奴等のように何か人生を楽できる優秀さがある訳ですらない。ただひたすらに無駄な労力があるだけだ。 喜びも悲しみも共感しない。
 それで何を得したのかと言えば、いや、人間がというより心ある連中全般に言える事だが、感情で失敗をして栄誉や栄光を台無しにする無様だけは有り得ないだろう。まあ、そもそもその栄光や栄誉と無縁だからこそ労力を費やしているので、現状一円にもならない特性ではあるが、それでも一応得はしている、いや得をする余地はある。
 余地だけでは腹が膨れないがな。
 いずれにしろ怪物を自称する連中というのは、要するに特別な能力や環境のおかげで少し失敗をすると被害者ぶる事が非常に多い。やっている事は金持ちに売まれた奴が「金目当ての奴しか周りにいない」と叫ぶのと同じ事だ。金以外に特徴が無いからこそ金目当ての奴しか集まらないのだ。人間だろうが怪物だろうが、その他大勢を扇動し戦争を起こすのに生まれは関係あるまい。
 要はカリスマがあればいいのだ。
 他者を魅了する、あるいは他者を圧倒する人格があれば生まれや育ちなど些細な事だ。なまじ、生まれついて優秀であるが故に、怪物を自称する連中はすぐに泣き言を口にして「人間とは違う」とその能力で人間を弾圧してちっぽけな優越感を抱き、結果何一つ変えようとすらしない。
 嘆かわしい話だ。
 少しは働いたらどうなのか。
 仕事とは、その当人の役割だ。誰にでも出来る事を作業の様に繰り返したところで、誰が責任を取ってくれる訳でもない。最後の最後に後悔するだけだ。何も成し遂げず何も挑まない生涯を良しと出来るのであれば、それこそ仕事をしていない・・・・・・他にやる事はないのか。
 私の何がわかると叫ぶ前に、相手に否が応でも実感させる思想を持たなければ。理解して欲しいなどと言っているから何も変えられないのだ。
 私はそれらを目の前の依頼人の女に話した。
 無論、怪物にまつわる持論全てである。
 当然ながら、機嫌を損ねているようだった。
「・・・・・・不愉快ですね」
 我々はとある惑星にある温泉街に来ていた。
 その中にある茶屋の店の外にある椅子に座り
団子が乗せられた皿を平らげつつ私は先程の持論を今回の依頼人の女と話している。
「そりゃよかった」
「は?」
「間違えた・・・・・・貴様の繊細な気持ちを傷つけて悪かったな、謝るよ、ごめんな」
 どこかのブランドなのか、とにかく紫色と朱色の派手派手しい服装をしており、安物の雑誌とかで乗っていそうな「出来る女像」をそのまま現実に引き出したみたいな見た目をする女だ。
 彼女の名前はエリーゼと名乗っているのだが、当然ながら偽名だろう。人類史のいつ頃から生きているのかもあやふやな連中に、そんな近代的な名前がついているとは思えない。もしかすると、紀元前から生きていたりしてな。
 長い時間働いてないってだけではあるが。
 所謂その「モデル体型」というやつだ。そこにいるだけで様になる。以前会った時は金髪だったのだが、今回は紫に染めているらしい。
 長い髪をわざわざ染め直したのだろうか。
 暇な女だ。いや、この場合自分を良く見せる為の努力を惜しまないと評するべきか。とはいえ、依頼の話をする為にと人気のない茶屋にまで足を運んでいるので、見る奴は私しかいないが。嫌いな相手でも、いやだからこそ舐められまいと努力するのだろう。
 その前に、スカスカの中身をどうにかした方が良いとは思うが、話が進まなくなるので後で指摘してやるとしよう。
「・・・・・・別に、この依頼を貴方にしなくても私は良いのですよ?」
 それは都合が良い。邪道作家はさして冒険などせず平穏に終わりました、めでたしめでたし。
 それはそれで有りだ。
 大体、最近の映画は「壮大な設定があればそれでいいや」という安易な物語が大過ぎる。物語の中にある肩書きが大きいかどうかは物語の出来と関係ない。別に四畳半の中で物語が完結しようが要するに伝える何かがあればいいのだ。
 なので私はこう言った。
「そりゃ有り難いな。こちらとしても別に、依頼を受けなければならない理由はないし、何より、貴様が私の為に苦労して別口を探してくれるのであれば、こちらとしては感謝の極みだ。さっきの話で機嫌を損ねているのかと思ったが、なるほどこれがツンデレというやつか」
「誰がですか! まったく、口だけは回る男とか最悪ですね!」
「いやぁ、そう誉めるな。その口先だけの男に、良いように丸め込まれた奴ほど無様でもない」
「・・・・・・・・・・・・」
「これだから人間は、ってな顔をしているが何か嫌な事でもあったのか? 相談なら乗るぞ」
「結構です。さっさと仕事の話に入りますよ」
「そうか、では先程の話の要点だけ話してやる」「今仕事の話をするって言いましたよね! なにをしれっと話を続けてるんですか」
 無視して私は話を続ける。
「あれだよ、「人間に裏切られたぁ」などと貴様は泣きべそかきながらほざいている訳だが」
「かいてません! それに、人間が裏切るなんて当然でしょう? 貴方達に「信頼」なんて大層な所行が実現できるとは思えませんわ」
「それが、既に間違いだ。そもそも信頼とは相手の裏切りをも含むもの。お前達は相手を信頼などしておらず、単に、都合の良い関係を望んでいるだけで、信頼していないのだから裏切りもない」「・・・・・・そうだとして、何か問題が?」
「あるさ。まず裏切られたからと泣きべそをかくのが、既に間違いだ」
 何度も繰り返しわざと言っているので、彼女はすこぶる機嫌が悪いようだ。まあ、そう仕向けたのは私だが。
「いいか、良く聞け・・・・・・その他大勢が否定するということは、だ。むしろ、「今歩いている道が正しい」という事の証左ではないか」
「・・・・・・・・・・・・はあ?」
「その他大勢の凡俗共に指を指されて迫害されたのであれば、そこは喜ぶ所だろう。「やったぞ、これでこの道筋が正しい事が証明された!」と、歓喜に沸かなければ嘘ではないか。正義か悪かはどうでもいいが、そこに実利があるのは確かだ」 いや、実利はあるかわからないが、少なくとも実利を得る為の手段としては間違えていないのは確かな事実だ。
 だからこそ、そこは喜ばねば嘘だ。
「石を投げられ迫害され、あまつさえ殺されそうになったのであれば、尚更だろう。素晴らしい、これで明日からはもっと頑張れるぞと、迫害した人間共に感謝してやっても良いくらいだ。無論、金は払わないが・・・・・・しかし事実だろう」
 見れば、美しいらしい(やはりまるで美意識に共感できないので、そう理解しているだけだが)顔を大きく歪め、大口を開けた馬鹿面のまま彼女は唖然としている。たかがこの程度も理解が追いつかないらしい。
 それこそ当たり前の事ではないか。
「知りませんよそんな当たり前! 大体、何です・・・・・・大勢が批判すれば正しい道筋になるなんてどういう理屈ですか」
「そのままの意味だ。言っては何だがとかく叫ぶだけの凡俗共が、正しい道筋を歩いている姿なぞ貴様は見た事があるのか?」
「それは・・・・・・」
「だからこそ、だ。そいつらが批判するという事はだ。連中と真逆の道を歩いているこちらは真逆なのだから正しい道筋を歩いている事になる」
 簡単な理屈だろう、と私は促した。
 どうやら彼女は頭が悪いらしく、中々飲み込めないらしい。
「何ですか、その有り得ない前向き姿勢。正直、ドン引きです」
「そう誉めるな」
「誉めてません!」
 どうやら私は魔性の女属性(笑)に対して特攻が入るらしい。これは貴重な体験だ。精々作品に活かすとしよう。
「はあ・・・・・・もしかして私を慰めてくれてます?・・・・・・それこそ余計なお世話です。人間に慮られる覚えはありません。私は、私の信条で、人間が嫌いです。それを鞍替えするつもりは有りませんので、人間にデレるとか有り得ませんよ?」
「成る程。端から見ていると所謂そのツンデレ、という奴にしか見えないが、貴様たっての願いであれば、「そういう事」にしてやろう」
「・・・・・・・・・・・・」
 おお、笑顔で怒っている。素晴らしい。これで笑顔で怒る女の作品が書けるぞ。
 何なら感謝してやってもいいくらいだ。
「そう見つめるな。照れくさいじゃないか」
「あ・り・ま・せ・ん! なんで私がこんな目に遭わないといけないのかしら。全く、慰謝料取るだけでは割に合いませんわ」
「はは、ザマァ」
 おっと声に出してしまった。まあ、どちらでも構わないか。魔性の女を気取っている奴が、顔面を歪めて苦しむ様は良い目の保養になる。
 見ていて実に飽きない。
 面白くて仕方ない。
 だがのれんにだめ押しだと悟ったのか、途中で肩の力を抜き「もういいです」とだけ言って彼女は今度こそ仕事の話を始める。
「今回の依頼ですが」
「何だ」
 邪悪に頬を歪めて、人間が苦しむ様は最高だと態度で公言しながら彼女はこう続けた。
「大量虐殺、いってみます?」

 

   2

 人生はプラスマイナスゼロだと人は言う。
 まあ実際、人生など最終的には塵すら残らぬのだからある意味そうなのだろう。この場合生まれついての勝利者でも苦労はしたとか表面的豊かな暮らしでも金持ちなりの悩みはあるだとか、要は幸運に恵まれた奴の言い訳でしかない。
 自分だって頑張っている、と。
 そも労力とは楽をする為に費やすものなので、その過程を誇るという事は「報われない労力」を一度も費やした事がないか、単に既に満たされているから成果を必要としないかだろう。本来は、過程などどうでもいい些末事だ。
 今を必死に行動する者からすれば、その過程にある倫理的正しさとか道徳的な基準だのは余裕がある奴がほざく綺麗事に過ぎない。
 必死になる必要すらないくらいに恵まれているからこそ、そういった倫理だの道徳だのに拘り、それを他者に押し付ける傲慢がそこに出る。
 いや、傲慢が何か理解する知能すらないだろう・・・・・・あるとは思えない。そんな知能があるなら既に恥のあまり自害している筈だ。
 とはいえ、そんな、ともすれば目先の事すらも見えていないようなゴミ屑でも「幸運」に恵まれてさえいれば文字通り何でも出来る。この世界で何かを実現するのに必要なのは「意志」などでは断じてない。まさか、だろう。個人の意志や行動で何かが変えられるのであれば、私はとうの昔に変えている。
 少し世を見渡せばわかる話だ。
 頭の足りない屑であればある程、どころか何も己の意志で成そうと行動すらしなければしない程世界の勝利者足り得るものだ。
 努力の成果だとか、信念の結果だとか。
 それら情けない「言い訳」を繰り返し、まるで世界は変えられるものであり、意志の力で何とかなるかのように思い込みたがる。そうでなくては連中が単に恵まれただけ、幸運に愛されただけで何一つ当人の存在意義がない事がバレてしまう。 だから、誤魔化し続ける。
 死ぬ前になって悟る奴も昔はいたのだろうが、近代ではそれも無いだろう。エリーゼはわかっているのだろうか? 世界各地に散らばる神話など要するに旧人類の話でしかない。同じ雛形として生まれ、今より優れた能力を持ちうるだけだ。
 ただの、それだけだ。
 その結果ロクな参上を生まなかったからなのかは知らないが、考えてみればそんな、過ぎた力を誰も彼もが持てば世界を維持出来る筈もない。
 だからこそ乱数に任せて能力を集中させている訳だ。そして、幸運に愛された奴が、意のままに世界を動かしていく。言ってしまえば特別な力を持たせずに、かつての神仏が振るうような権能を疑似的に持たせている。だから神仏と同じく知能の足りない愚か者こそ世界を牛耳る訳だ。
 全く、我ながら無駄な労力を費やしている。
 なにせそこまで理解しているのに、何かを変えようとしているのだ。
 これが徒労でなくて何が徒労か。
 変えられなければ生き詰まり続けるだけだからそう追いやられての行動でもある。とはいえ無理な事は無理だ・・・・・・どうしたものか。
 元より「生きている」とは言えない身だ。実利を得られないまま在り方を貫き通すというのは、生きているとは呼べまい。
 死んでいる。
 死に続けていると言って、差し支えない。
 いや、そもそも共感する機能がない以上、私はどうしたところで生きられない身だ。まあそれはいい、どうでも。生きるか死ぬかは些細な問題だ・・・・・・問題は、そこに金があるかだろう。 
 ただ金を手にするだけでは駄目だ。仕事を金に換えなければ自己満足の幸福すら肯定出来ない。己の在り方を形にする為に、金は必要だ。
 だから、金だけがあればそれでいい。
 物語の善し悪しなど読者の気分で決まるのだ。作者が何を書こうが表紙に有名人の顔でも貼っておけば売れるが「物語」だしな。
 有名人を脅迫でもした方が早いか?
 考えておこう。
 正直、その方がまだ現実味がある。
 案外、私があまりにも品行方正なせいで未だに物語を金に換えられないだけで、その辺の有名人に脅迫でもすれば、あっさり実利を掴み勝利者となれるのかもしれない。当人の意志や行動など、文字通り何の役にも立たない事実は嫌というほど知っている。 
 はっきり言おう。「幸運」がなければ、ただの無駄でしかない。私が言うんだ間違いない。
 夢も希望もあるものか。
 幸運だけが文字通り「全て」だ
 それは確かな「事実」だろう。まあどれだけのお守りを買ったところで、何の御利益もないのも既に実証済みだ。何かを変えよう、と行動するのではなく、空から幸運が降ってくるのをひたすら待ち続け、運が悪ければそのまま死ぬのが最適の行動なのだろう。
 あれこれ動けば必ず徒労が増えるからな。 
 そしてあれこれ動かし続け足掻き続けるのも、また悪党という存在だ。こればかりは生まれつきの怪物程度にはわかるまい。
 無駄に優秀で、被害者ぶる怪物程度にはな。
 大体、人間に混じれないから何だというのか。環境を汚染し大して改めもせず、あらゆる害悪をまき散らし続ける史上最大の邪悪。生まれついての悪が私であれば、連中の中にはこの世全ての悪が詰まっている。
 人間に混じれる時点で生物失格だ。
 別に満点が欲しい訳ではない私からすれば善悪など所詮見栄えの問題だ。小綺麗に飾りたて何の面白味もない奴を「善」と呼び、間違いだらけの癖に鬱陶しい程前向きで反省はするが決して後悔などしない連中を「悪」と呼ぶ。
 つまり悪の方が上等だ。
 人間に否定された?
 人間に迫害された?
 人間に蔑視された?
 
 素晴らしい! 
 
 最高ではないか。この「道」は何よりも正しい・・・・・・いや、凡俗のカス共では辿り着けない景色に向かえる片道切符の確約だ。何度でも言おう。それは、むしろ喜ぶべき事なのだ。怪物共の失策があるとすれば、それだ。
 何故、被害者ぶるのか。
 特別な能力があり、生まれついて持つ側でありどうとでも世界を変えられる存在の癖に、何故か人間に正体を見破られた程度ですぐに諦め泣き言をほざく。馬鹿め。
 それで駄目なら、私は何回死んでいるのだ。
 いや、まあ、既に死に続けている様なものだが・・・・・・話の腰が折れる。
 とりあえず、正体が露見したならまたやり直せば良いだけだ。人間が掌を返し好意を敵意に変換するのであれば、むしろ好都合だろう。
 何度でも探せばいい。
 所詮愛も恋も当人の内面にしか存在しないものなのだから、それこそ、自己満足だと言えなくもない筈だ。いや、別に言えなくても良い。
 そもそも恋であれば破れて当然の結末であり、破れない恋など悪夢そのものだ。言ってしまえば恋など理想を思い相手にそれを押し付けるだけの妄想に等しい。憧れ、というやつだ。自分に無い何かを相手に期待し、破れる事で前に進む。
 古今東西怪物の話は人間に振られただけで世界の終わりみたいに思い込む奴の話ばかりだ。何故適当に次を探さないのか。誰であれ、いや私には永久に関係ない話なので、怪物や人間はともかく化け物以外であれば誰であれ経験する些末事だ。 通り過ぎれば思い出にしかならない話だ。
 相手を愛しているというのであれば、尚更の事だろう。まして悲しむ権利などない。結果だけを見れば相手さえ報われれば勝利だというのが愛という概念であり、己がどうなろうとその勝敗には何の関係性もない。
 いずれにしろたかが一度二度三度、まあ何回であろうと同じ事だが、裏切りが数万回か数億回かあっただけで泣き言をほざけるなど羨ましい話ではある。人が裏切るなど、当たり前の事ではないか・・・・・・・・・・・・それこそ些末事だ。
 悪党が一体どれだけ、個人にも作戦の正否にも裏切りを検討していると思っているのだ。裏切りなどスパイスみたいなものだ。私の場合、かなりかけすぎって気もするが、最終的に栄養さえ取れればそれでよかろう。
 呼吸をいちいち気にする奴がいるか? 
 いない。怪物の悩みなど、所詮その程度という事だ。そんな事より金を数えろ。その金で世界に傷を抉り込め! 過程で何人死ぬかどれだけ犠牲になるかはどうでもいい。まだ見ぬ景色を見る為だけに、我々は存在している。
 無論、それを仕事にした上でやるのだ。 
 遊びでは、どうしたところで駄目だろう。
 金を儲けるだけではままごとと同じだ。それを生き甲斐とするだけでは趣味人でしかない。
 仕事、としてやり遂げろ。
 他に替えの効かない役割を示し、世界を覆せ。その為の目論見を堂々と語り、誰も信じぬ虚言を真実の上に塗り替えろ。
 それでこそ、やりがいがあるというものだ。
 まあ、金にならなければこの様だがな!
 まったく、忌々しい話だ。
 
 目を背ける事が、出来なかったのだ。
 
 だから、私はこうして、無様にも足掻き続けている。足掻いているだけなら魚でも出来るって話ではあるのだが、「幸運」だとか「運命」だとかそういう「勝てる筈のない何か」に態度だけでも大きく張り、分不相応に構え続けるからこそ悪の華が咲くというものだ。 
 華が咲くだけは食っていけないので、現実問題何の価値もない回り道ではある。正直現実に実利を掴めない全てには、何の意味も、価値もない。 ただのゴミだ。
 とはいえ私に出来る事など限られている。ゴミでも使えるなら使うしかない。消去方だ。個人の意志や行動など、何の実利にも繋がらない。結局当人とは何の関係もない何かで定められるが勝利というものだからだ。
 それこそ物語じゃあるまいし、正しい意志だの行動だのそもそもどうやって定めるというのか。正しい、正しくないは言い分を押し通せる暴力があるかで決まり、正しく在ろうとするという事は当人の自己満足に過ぎない。
 正しいかどうかなど、どうでもいい些末事だ。 何もかもが間違いであり、この世全ては悪だ。世界の表側には悪しか在らず、世界の裏側にも悪しかいない。正義と名乗る悪があり、善を気取る悪がある。被害者などおらず、加害者同士の戦争だけが真実だ。
 こんな言葉を並べ立てられたから何だって気がしなくもないが、恐らくは人類史史上、いや宇宙の始まりから終わりまで探しても私以上に無駄足を繰り返した奴などいまい。何せ最初から心などという機構が外れている以上、何を得ようが全てが徒労だ。
 それを実感する術がないのだからな。
 まあいい、どうでも。問題はそう、金だ。
 金、金、金だ。
 それだけが、肝要なのだ。
 それこそ物語であれば「人間に混じれない」と泣き言を抜かす怪物や、「人間はすぐ裏切る」と鼻水を垂らす愚か者や、「人間と結ばれたい」と望む癖に労力を払わない暇人共と違って、私にはそういう寄り道など有り得ない。
 そう望む心など存在しない。
 そもそも必要が無いのだ。
 であれば、どんな手を使ってでも、まあ使って無様に散り続けてはいるが、とにかく目的だけは果たさせて貰う。私の意志や行動で変えられない以上、これも正直無駄な考えではあるが、しかし今更考えを変えられる程楽な道程は億っていない・・・・・・長い道だった。
 長さ短さなど何の意味も無いが、賭けた労力が多いのも事実だ。とはいえ、何度も言うが個人の意志や行動で変えられる程甘くもない。
 協力者が得られる程、恵まれてもいない。
 どうしたものか。
 いっそ怪物連中のように、優れた能力を生まれながらに持っているが故に生きる為の労力を一切支払わず、その癖信頼の意味すら知らない馬鹿の癖に「人間に裏切られた!」と叫んでさえいれば悲劇のヒロインを気取れるという至極簡単な人生を送れれば、こちらとしても楽だったのだが。
 たかだか百回か二百回程度裏切られれば泣き言をほざいているだけで良いというのだから、楽で羨ましい限りだ。生憎こちらにそんな余裕はない・・・・・・裏切りも失敗も敗北も、呼吸に等しい行いでしかない。
 それこそ、どうでもいい。
 いや、別に良くは無いが、それよりも実利こそが大切だ。横道にそれて暇を持て余していられる程、私は恵まれていない。
 金、金、金だ。
 人間、いや生物の輪に無いというのであれば、尚更生物的幸福など他人事でしかない。人間でも怪物でも同じ事だ。私には何の関係も無い。
 だが、金だけは生活に関係が、ある。
 考えて答えが出るなら苦労はしない気もするが思考放棄する様な手抜きも出来ない。これは性分という奴だろう。心無い化け物に性分とは笑い話ではあるが、しかし考えてみれば人間、いや怪物もそうだが「心ある在り方」を学習し、模倣し、生物の有り様に擬態する事に血道を上げてきたのが「私」であり「邪道作家」なのだから、それも当たり前と言えば当たり前だ。
 不真面目ではあるが、手抜きは出来ない。
 我ながら、無駄な事をするものだ。
 手抜きをしても勝利すべくして勝利する奴は、確かにいるものだ。最近の物語ではそういう現実から目を逸らす為か、主人公に自分を投影出来る様に物語を組み立て、それでいて勝利出来るから勝利するというその主人公が勝利し栄光を掴む為だけの世界を語り、理不尽に向かい打破する事を志すのではなく、理不尽を直視せず理不尽の無い世界を夢見て耽溺する事が多い。
 私が言うのも何だが、当人の意志や行動と関係なく勝敗が決まるのであれば、最初から最後まで見ないままいた方が無駄な労力を賭けずに済む、という訳だ。手を抜けず労力を費やし続けている私からすれば、そんな手抜きを許容した挙げ句、手抜きをしても恵まれているから金には困らないというのだから、忌々しい限りだ。
 そんな物語の方が、売れるしな。
 しかし、そんな事をするなら麻薬栽培でもした方が早いのではないだろうか? そう上手く幸運に恵まれているならそれでも良いだろうが、手を抜いて物語なんぞを売るくらいなら最初から他の方法を探した方がどう考えても早い。
 恵まれ過ぎて作家を志すとは、何とも倒錯した連中だ。作家という肩書きに何を期待しているのだろう・・・・・・破綻しているからなる職業だというのに。いや、職業というより生物の輪から外れているからこそ偶々そう呼ばれるだけの存在だ。
 言わば絶滅危惧種と呼べなくもない。いや呼べないか。何せ、危惧する奴がいないからな!
「簡潔に言いますと、貴方には後始末を頼みたいのです」
 我々は高級レストランの中にいた。無論、私の趣味ではない。用件だけ聞ければ正直それでいいのが私だ。まあ、作品のネタにはなるのだから、こういう余分も良いかもしれない。何であれ余力を残したまま行動するべきだ。
 生まれてこの方そんな物はなかったが、されど余裕があるかのように振る舞う事には意味がある・・・・・・虚勢ではあるが、それも大切だ。
 特にこういう能力に恵まれた連中には効果覿面だと言って良い。なまじ、優秀である事が当然であるが故の弊害だろう。相手が弱く、虚勢を張る様な相手であればついつい「様子を見る」という行動を取ってしまう。
 だから負けるのだろう。
 古今東西怪物属性の奴が勝利した話は聞かない・・・・・・優秀な分少し裏切られたり失敗するとすぐ諦めるのが怪物だ。理不尽を浴びるように味わう道を歩いてきた私からすれば、勝利を目指さずに実利を求めるなど遊び人の発想だ。
 少なくとも、怪物が「仕事」をしたという逸話など、世界のどこにもあるまい。
 そんな私の態度が伝わったらしい。
 エリーゼは女特有、いや商人特有の笑顔を満面に浮かべながらこちらに向き合って、
「先程お話したように、貴方には人間の後始末、弱者から搾取する為政者のように大量虐殺をして欲しいのです」
 理不尽を知らず一度二度の理不尽で全て知ったと勘違いする怪物連中によくある話だが、連中は人間の悪性、その不条理の刃を向けられた過去に憎しみだの嘆きだのという感傷を持ち込む連中にすれば、それら「理不尽の刃」とでも言うべき物が「人間自身」に向けられる様は、見ていて痛快なのだろう。
 実に、分かり易い。
 だから負けるのだろうが。
 そもそも私に善悪を説くのが間違いだ。
 人間に、いや心ある全てに共感しない私には、心ある存在の価値観など、ペンギンに空飛ぶ鳥の感覚を実感しろ、と強制するに等しい。
 違うのだ。
 よくある物語のように、「色々あったが最終的には心を手に入れ、内側に熱い血が流れている事を知ったのでした。めでたしめでたし」といった結末には成り得ない。そも、もしそれが成れば、それは私ではない別の「何か」だ。
 そしてそれすら有り得ない。
 泣き、笑い、喜び、悲しみ、義憤し、肩に力を入れて生きている・・・・・・かのように振る舞うだけで、実際に何かを感じ取っている訳ではない。
 感じ取るという概念が無いのだ。
 物語であればそれこそ「その己の有り様に悩み葛藤する」というのも有りだろうが、生憎私にはその悩みすらない。
 どうでもいい、と思っている。
 気にしようとすら、しない。
 だからこその「最悪」だ。別に人間社会でなくとも、連中の維持する怪物社会だとしても、私はどうしようもなく「異物」なのだ。理由は簡単でそこに心がある以上、共感し通じ合う機能を持たない癖に持つ奴の真似をして社会に溶け込み心を偽装し、あまつさえ共感しない癖に心を深く理解して、生物の有り様に真っ向から反しながらも、真っ当でないと知られる事もなく牙を剥く。
 しかも、優先するのは実利のみ。
 事情があったから悪行を行うという半端な悪党は多いが、この場合「深く理解した」その上で、「ゴミのように踏みにじる」のだ。
 自分で言うのも何だが、まさに「最悪」だ。
 とはいえ、最近気付いた事だが恐らく必要悪という奴なのだろう。人間社会が、いや生物が群れを成す限り、そこに現れるバグのようなものだ。 どんなゲームでもバグはある。
 それが現実でも同じ事だ。普通バグは金になるものだが・・・・・・現実は非情だ。
 私に情など無いがな。 
「それは大変だな。ところで、前金の札束が見えないが、まさか素寒貧の癖に依頼しているのではないだろうな」
「まさか、ですわ。私が貧相な女に見えます?」「見えるな」
 即答した。
 確かに、見た目は派手派手しい。紫のブランドドレスに、鰐皮のバッグ、何よりこんな場所でも狼狽えず、当然のようにワインを飲んでいる。  しかし、貧相だ。
 何もかもが薄っぺらい。
 生まれついての優位性、その優位性で獲得した権威や暴力、誰も着いてきてはいないが力に従う従僕の群。どれもこれも、薄っぺらい。
「・・・・・・面白い冗談ですわ」
「いや、別に冗談ではないぞ」
 鏡を見ろ、鏡を。
 言えば言う程、貧相だぞ。
「あら、では失礼しようかしら? 勿論その場合殿方が支払いを済ませてくれますよね?」
 言って、席を立つエリーゼ。
 なので私はこう答える事にした。
「そうだな、こちらとしても無辜の民草を虐げるような理不尽な依頼を受けなくて済む。そうか、貴様は私がそんな理不尽を受けない為に、自分が泥を被ってでも私の為に行動してくれているのか・・・・・・これは済まなかった。礼を言うぞ」
 先程までの優雅な振る舞いから一転、大きな音を立てて乱暴に椅子に座ると、
「私、貴方のその何でも己に都合良く解釈出来る性格が、大嫌いですわ」
 と、眉間に皺を寄せながら口にした。
「そう怒るなよ、禿げるぞ」 
「は、げません」
 大きな声を出そうとしたが、周囲の同様を察しやめたらしい。目立つのは嫌いな様だ。
「それで、依頼内容は何だ。さっさと言え」
「・・・・・・金属と生体の融合技術について、知識は有りますか?」
 まあないでしょうけど、という見下しの気持ちがありありと出ていたので、あまり拗ねられても面倒だし立ててやる事にした。
「知らないな。出来れば教えてくれ」
「あら、そうですか。ではこちらをご覧下さい」 言って、テーブルの上に電子チップを差し出しそこから立体映像を映し出す。稚拙な映像だが、分かり易くはあった。
「元々金属と生体との融合技術自体は大分前から完成していたのですが、近年生体と兵器の融合を旨とする技術革命がありました」
「兵器と人体の融合? 体の一部のように扱える兵器、という事か?」
「そうですね、ある意味ではその通りです」
 ある意味では、か。含みのある物言いだ。
「どういう事だ」
「そのまま、ですよ。生体と貴金属類を融合させ体の一部に兵器を取り込む技術です。言ってしまえば人体の爪や皮膚、髪といった生体部品の様に身体の延長線上の概念として取り付けます。生体と兵器を有機的に結合させ、自分の腕を動かす様に兵器を使える技術です」
「・・・・・・面白いな」
 非人道的だ、とか叫ぶのが正しいのだろうが、今回はその必要もない。ただでさえ乗り気でない時に「心ある存在の物真似」は疲れるしな。
「えぇー、どういうセンスしてるんですか?」
 引かれてしまった。
 疑問符の多い女だ。
「生体と兵器の融合か。ある種男の浪漫ではある・・・・・・それのどこが問題なんだ?」
 なので私も疑問符で返す事にしたのだが、彼女は不服そうに「男の浪漫って、今でも理解しかねます」と小声で呟いた。
「男の浪漫もわからない癖に、よく魔性の女など気取れるな。心ない私でも理解できるぞ。浪漫の一つも理解出来ないなんて、恥ずかしい奴だ」
「そ、そこまで言われる覚えはありませんけど。何です、浪漫ってそんなに大事なのかしら。まあいいですけど・・・・・・勿論、問題はあります」
 言って言葉を区切り、妖艶な微笑みというよりは、人間の無様さを見る事が楽しくて仕方ない、という笑みを浮かべて彼女は話を続けた。
「そりゃ問題ありありですよ。
 
 だって、人体に害がないかどうか、一度誰かで試してみなければわからないでしょう? 
 
 今回は、その哀れな犠牲者達の殺処分を依頼しに来たのです」
 よよよ、とわざとらしく泣き真似をするおまけつきだった。
 成る程。さてどうするか。
 問題は・・・・・・そう、つまらない事だ。大量虐殺を行っても、連中を助けてもありきたりで実に、つまらない展開だ。それは面白くない。
 面白くて悪意を読者に刻みつけ、かつこの女が泣きべそをかく展開が望ましい。無理なら無理で作品のネタだけは頂くとしよう。
「・・・・・・どうします? やはり無辜の民草を犠牲にするのは、貴方でも気が引け」
「受けよう!」
 最後まで言い切る前に、先んじて言い切った。「ええと、話聞いてましたか? 実験対にされた哀れな犠牲者達を皆殺しにしろっていう依頼なんですけど、なんで楽しそうなのかわかりません」「馬鹿め、楽しそうではないか。相反する主張、引き裂かれた運命、絶望的な状況。素晴らしい! こうも面白い展開を運んで来るとは、貴様もしかして幸せを呼ぶ青い鳥か! ならば、わざわざこの私の為にご苦労と労ってやろう」
「・・・・・・・・・・・・私、人間を嫌いなのは貴方みたいな異常者の責任の気がしてきました」
「まさか、だろう。私は人間かどうかはともかくありきたりの奴に過ぎないさ。ちょっとばかり、心に共感せず心を模倣して社会に溶け込んでいるだけの化け物に過ぎん。しかしだ。もし可能性を切り開く世界を作り上げるならば、貴様の言う所の「異常者」だけが生き残れる世界が望ましい」 全ての存在が異常者の世界。
 最高ではないか。飽きないぞ、きっと。
「ドン引きですよ! 何ですか異常者だけの世界って。長い間人間を見てきましたけど、ここまで都合良く前向きになれる馬鹿は初めてです」
「そう誉めるな、何も出さないぞ」
 ここの支払いも、依頼代金と請求するつもりだ・・・・・・金銭に関して男女不平等など有り得ない。 それこそ金に対する不敬だ。
「誉めてません。ああもう、大量虐殺という最高のスパイスが用意できたのに、何ですかこの展開は。けれど、どうするつもりです? 結局の所、依頼対象の哀れな被害者達を殺すか裏切ってでも依頼人を殺すか、いずれにせよバットエンド確定コースですが、本当にわかってます?」
「・・・・・・私に善悪を語るなよ。それにだ、貴様は何か勘違いしているようだが、生憎と私の職業は作家なのでな。作品のネタがあり、あとついでに貴様の嫌がる結末を突きつけて楽しめればそれでいい」
「最後、余計な物が入ってません?」
「余計ではないさ。その方が」
 面白いからな、と私は私の答えを突きつけるのだった。

    3

 物質に生命を与える技術。
 とまではいかないが、要するに分子を結合するだけでなく、その隙間に磁石同士の反発のような電子の稼働域を作り上げ、有機的に動かしているように見せる技術らしい。肉眼ではまるで有機的な生物の動きのように見える訳だ。
 要は、バイオエレクトロニクスの発展系だ。
 電子のみでは限界のある技術系統寿を発展させ先に進める為に作られたのがこの技術だと言える・・・・・・それを人間に装着するとはな。
 ある意味では、当たり前の発想ではある。
 例えどのような技術であれ、人間が使う事には変わりないし、その使う技術を自身の手で使おうとするのは「自身より優れた物を支配する」事で優越感を得られるからだ。人間は、怪物でさえも「優越感」には弱い。
 自身が「特別」である事に拘る。
 特別か否かより実利を得られるかの方が遙かに肝要なのだが、連中の場合その実利の部分を苦労せず手に入れているからそう思うのだろう。
 優秀さなど、金で買えばいい。
 その金があれば、だが。
 エリーゼに提示されたデータを見る限りでは、だが・・・・・・適当な実験体を見つけたのではなく、適合する人材をわざわざ買い占めたらしい。
 生まれ持っての素質、というやつだ。
 その結果機械人間になるのは喜ぶべきなのか、それとも悲しむべきなのかは知らないが、連中はその特別製を押し付けられたからこそ、今回反逆を行おうとしている。希少な最新兵器の数々が、圧制者本人に牙を剥いた訳だ。
「その依頼人は馬鹿なのか? 最新式の兵器技術を与えておいて、反乱を起こすと予想しなかったなんて、正直考えられないが」
「そこは、予想を上回った、という事です。当初ドローン部隊が鎮圧する予定でしたが、命令通り動くだけのドローンと違い、彼らは元生身の人間ですから、応用力が違ったんですよ。幾ら性能差があれど、背後から不意打ちでは勝負にならないですし」
 テーブルにはもう料理はなく、食後のコーヒーと紅茶が並べられている。私はノンカフェインのコーヒーにした。
 あれも麻薬みたいなものだからな。
 煙草や酒もそうだが、人間の善悪など合法的でさえあれば、奴隷労働も大量虐殺も麻薬売買すら許される。いや、許させる事が出来るからこそ、そういう法があるのだ。人間社会に法がある限りそこに善悪など存在しない。
 あるものか馬鹿馬鹿しい。
 生まれついての悪であるならともかく、生粋の悪などそれこそ稀だ。善など存在しないが、悪は存在する。しかし純度は別だ。
 自身を生まれついての悪だと、そう思いたがる怪物連中は非常に多い。この場合善悪以前に単純な魅力が足りず支持を得られないだけなのだが、そう考えた方が楽だからだろう。言っては何だが悪人が迫害を嘆くとでも思うのか? 
 そこで喜べないから半端者なのだ。
 私の場合、喜ぶより次の計画を立てる方が早い・・・・・・嘆いている暇などない。強いて言えば労力が無駄に終わる事は嘆いている。しかし、誰かに否定されたとか、誰かに信頼を裏切られたとか、あるいは悲劇に悲嘆にくれるとか、そんな暇などあるものか。
 どれだけ暇なのだ、貴様等は。
 遊んでばかりでなく仕事をしろ。人間を捨てている作家などに言われてはお終いだぞ。
「ふん、いつの世も最大の殺戮兵器は人間だと、そういう事か」
「ええ、人間ほど愚かで、殺戮を好む原始生物は他にいないでしょうね」
 楽しそうに、彼女は口にする。
 人間を下に見る事で己の優位性を確かめているようだ。そういうところが小物なのだが、しかし指摘はするまい。
 話が進まないからな。
 とはいえ、右を向けと言われれば左を向き後ろに下がれと言われれば前に進み、やるなと言われれば全力で断行するのも私だった。
「いいじゃないか、原始生物。単純であればあるほど成長の余地があるという事だ。素晴らしい。殺戮本能だけでここまで文化を育んで来たのだ。であればそれ以外に目を向けさせればもっと凄い文化形成が出来るぞ!」
 同じく人間を楽しそうに話す私を見て、彼女は引いているようだった。何であれ都合良く前向きに捉えるのは良い事ではないのか?
「どうした? いいじゃないか、殺戮本能だけで行動し、他者を虐げ、人を裏切り、綺麗事を掲げ殺戮を繰り返し、反省せずすぐに忘れて何度でも繰り返す。これだけの情熱があるなら、意図的に運用した時の利益は計りしれまい」
「ええ、その点だけは同意しますわ。人間は愚かですが、その行動力は侮れません。だからこそ、今回貴方に依頼をしているのですよ」
 綺麗に会話を着地させ、再度私に依頼の是非を問うエリーゼ。
 罪なき人間を殺す気分はどうですか?
 そう言いたいのだろう。罪なき人間など聖人ですら有り得ないので、意味のない問いではある。生きている時点で罪であり、生きようとするからこその悪がある。己に罪の有る無しを問うなど、目先の事すら見えていない証拠だ。
 大体、罪悪で言うなら生まれながらに強大な力を持つ神仏など、罪の塊ではないか。本当に善性を説きたいなら悪の全てを対話で解決すればいい・・・・・・形はどうあれ力押しの暴力で解決する奴が善悪などと笑わせる。
 神仏の方が、派手な戦争をするものだ。
 権力のある圧制者と、何ら変わりない。要は、その力を背景に言っているだけで、その力が無ければ誰も認めないからだ。信仰する事で救われるからこそ神を信じるのであって、救いを求めずに信仰する奴などおるまい。そんな聖者じみた奴がいたとして、だから何だ。この理不尽が支配する世界の中で、己の行く末を重んじない奴などに、世界を語る資格などない。
「そりゃ有り難い。ところで、前金が見えないがどこにあるんだ?」
「こちらです」
 言って、金のクレジットチップを差し出した。金額を確かめると、三百万ドルは入っていた。
 これだけの金を受け取り、弱者の皆様を大量に殺戮する依頼を受ける、という部分がエリーゼの望む事なのだろう。
 人間は悪意だけの生き物。
 人間は実利で裏切る生き物。
 人間は卑怯で自分達とは違う生き物。
 そうだと信じ続ける為に、人間の持つ醜い部分を暴き立て、確認したい。ここまで暴かれている事にも気付かずこちらの反応を見ている姿は滑稽だとしか言いようがないが、こちらとしても作者取材の為に向かう事は決めている。
 だが、もう少し引っ張れそうだ。
 出せるだけ出させるとしよう。
「いや、これでは足りないな。こんな良心の呵責に響きそうな依頼を受けるには安い料金だ」
「・・・・・・良心の呵責があるなら、そもそも依頼を受けないのでは?」 
 多少呆れたように返すエリーゼ。
 まあ、その通りだ。概ね正しい。
「そう言うな。私とて、平凡な一庶民に過ぎないからな。そのような非道な依頼を受けると考えるだけで、心が痛む限りなんだ」
 健康に良いらしいからという理由で、意図的に肉体反応を促し「感動」を無理矢理行うような私ではあるが、その根底には優しさと尊さとあとは何か適当な物があったのだ。なので涙でも流そうかと思ってみたが、しかしあれはそれなりの準備が必要なのだ。感動を行うのもそうだが、肉体の反応をいじるのは正直、疲れる。
 ある程度状況さえ整っていれば、合わせる形で喜怒哀楽を自動再現するよう訓練してはいるが、このタイミングでは無理だろう。
 なので泣き真似に止める事にした。
 真似るだけなら楽しいものだ。
 楽しい、というのも共感しないが、楽しいのだと言い張り、喜んでいるかのように振る舞って、その行いを完遂するのは面白味がある娯楽だ。
 やりごたえがある、とでも言えばいいのか。
 あまりに即興過ぎて下手だったからなのか彼女は少し冷めた目つきをした後「わかりました」と言って追加のチップを差し出した。
 やった、何とチョロい女だ。
 そんな態度が出ていたからか、彼女は上機嫌に表面上振る舞いつつ、その不機嫌さを晴らす為に私に無理難題をどう押し付けようか考えている。「ただし、条件があります」
「何だろうか」
「どのような形であれ「依頼人が納得する形」でお願いしますね」 
 成る程、面白い。
 約束を破るのは簡単だが、その場合この女は、人間は約束一つ守れない生き物ですから仕方ないですねぇ、と思うだけだ。嫌がらない。 
 最終的に依頼人が納得さえすれば、例えどんな形でも許される、というゲームだ。
 脅迫してもいいし、洗脳してもいい。
 そういう事だろう。
「いえ違いますよ? どういう発想してるんですか・・・・・・この場合、そうですねぇ。彼らの蜂起を止める形でさえあればよろしいかと」
 まあ一度刃を取った人間はそう簡単には止まりませんが、と彼女は付け加えた。
 面白い。
「いいだろう。その依頼、受けよう」
 金の為に、作者取材の為に、何より私の未来の為に、私はその依頼を快諾したのだった。

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