創作の参考用 邪道勇者 ストーカー編
金玉を蹴る機会を逃す輩は愚か者───哲学者の言葉だ。
私の知る数少ない「参考になる」哲学と言える••••••何であれ恵まれた連中の言葉には耳を傾けるつもりはないが、それはそれとして使えるものは使うべきだ。
例えそれが、護衛対象を狙う追跡者だろうとな───生身の人間、つまりバラバラに引き裂かれていない「呼吸する人体」を、痛ぶれる機会はそうは無い。というのも私の場合知らない連中に喧嘩を売られることは多々あれど、軽く「えいっ」と、二、三発殴りつけ叩きつけ脅迫しただけで彼らは戦意を失うのだ。
悲しいことだ••••••どうせなら生の肉体を痛めつけ、削れるだけ削り大物の息の根を止める行為こそ、大いなる「生の実感」を与えてくれる。私に言わせれば頼んでもいないのに追跡してくる輩がいるなんてご褒美だ。
わざわざ追わなくても、勝手に獲物から来るのだろう?
素晴らしい───何せ、「恐怖のあまり手が」と正当なる防衛行為を訴えさえすれば、阿呆な人間諸君は非人間の私とは違い「襲われるからには被害者」で、無罪を勝ち取り助けてくれる。
まったく!! エルフの歌姫だか何だか知らないが、文句の多い女だ。たかが一人二人追跡者がいるのが何だというのか••••••何もしていないのに数十人に囲まれ、敵意を向けられる私とは大違いだ。
楽な人生で、羨ましい。
ちなみに、私の場合はというと「殺人衝動」はある程度、自前の精神力で抑えつけられるが、上記のような状況へと陥る度に「暴発」しそうになるのを堪えた。
なので、私の場合は「追われる身分」と言われると「殺人を我慢しろ」と翻訳され理解する。基本的には過去の我慢体験なので、あまり良い気分はしない。むしろ、「何かが追っている」と言われれば───ふむ───我慢が───まあいい。
やめておこう。毎度本能のままに荒ぶるのも大人気ない。
さて、我々は部屋の中にいた。とはいえ「快適な」とは言い難く、中央で縛られている男は中肉中背、いや、やや肥えたその肉体を出荷の遅れたハムの如く痛ぶられ傷だらけだ。しかも、囲むのは私と犬千代、つまり殺人鬼と人間嫌いですぐ殺したがる恨みつらみのある小娘だ。
「なあ、本当にやるのか?」
何を、と言われれば無論「拷問」だ••••••人間の皮膚を剥ぐと、どういう反応での悲鳴を上げるのか見てみたい───案外、邪道作家シリーズの売上に寄与するかもしれない。
まあ、詳細な拷問シーンを、見たがる読者がいればだが。
「無論、やるに決まっている。いいか、よく聞け───依頼人の望みは「二度と、ストーカー被害に遭わない」ことだ。そして、阿呆な人類にそれを教え込むより、適度に拷問して情報を聞き出し、捨てた方が確実だろう」
「そりゃ、そうだけどさ」
乗り気でないらしい犬千代は青い髪を垂らし、エルフ耳をしょげさせた。前々から思っていたが、人間とは種族だけでなく反応までもが違うらしい。
面白い生き物だ。とはいえ、私の邪道作家シリーズよりこういう「見た目だけ」の奴等が儲けているのかと思うと虫唾が走るが。
「ギィやアア!?」
と、興味深い悲鳴を男は上げた。無論、私が小指を叩いたからだ。何であれ未経験の反応というのは参考になる。それに比べれば人間の命の一つ二つ百二百、那由多不可思議安いものだ。
どうせ代わりも効くしな••••••そういう意味では読者もそうだが、非人間作家とは違って「幾らでも、代わりが効く」のが連中の本質なのかもしれない。であれば、なおのこと拷問が捗る。
「痛いッ!!?」
小指を踏んだところで犬千代がしゃしゃり出た。
「なあ、もう、やめようぜ」
「何故だ?」
「こういうのは、ほら、依頼人のイメージにも関わるだろ?」
やはり、依頼人の女のファンらしい───隠してはいるが、同じ種族の有名人にはやさぐれエルフも甘くなる。ちなみに、私に「同族」という意識の生物などいないので、残念ながら「頭で理解」出来ても「共感」は出来ない。
無論、金になるなら「フリ」はする。
それとこれとは、話が「別」だ。
しかし───愛だの恋だの、そんなくだらん物を歌う連中の、何が良いのだろう?
思うに、「歌の良し悪し」なんぞ誰も見ておらず「有名な誰かと繋がりたい」欲望による動きだろう。
浅はかな奴らだ。だから進歩せんのだ貴様らは。
「フン!! やめて、どうする? またストーカー行為に勤しむだけだ」
「しない!! しないから許してくれ!!」何か叫ばれた気がするが、私の誇る、非人間の特殊技能として「都合の悪いことは聞こえない」が発動した。
なので、知らん。やはり、始末した方が確実だろう。
「いいか、よく聞け───我々の受けた依頼は、要するに「華やかな業界」で必ず発生する「荒事の処理」が担当だ••••••こういう連中の「処理」も、当然依頼人と関係ない体で行われる。
無論、我々から更に「外注」する事もあるが••••••金額が金額だ。たかが護衛と、邪魔者の排除で二千万。二千万を守る為なら一人二人別に構うまい?」
人間一人の単価が大体、50年働かせて数億と聞く。だが生憎とこの追跡者には、そこまでの生産性があるとも思えない。であれば、順当に考えて価値のない、金にならない命なぞ文字通り「無価値」だ。
大体、正当なる防衛行為として、裁判で勝てる形に出来る。
であれば、取れる命は取るべきだ。そうじゃないか?
腹が減ったら食らうが如く、だ───このところ我慢に次ぐ我慢で、いい加減殺人衝動を発散したいというのもある。だが、これは「仕事」としてもやるべきことだ••••••決して「役得」だなんて、思っていない。
言うだけならタダだ。なので言っておく。
無論、違っても1円も払わないが。
「だけどさ、やっぱり「イメージ」ってのは大切だよ。ここで「殺人が起きた」ということになったら、幾ら依頼人でも誤魔化せない。折角の講演会もパァだ」
私は無論、構わない。
中途半端に「才能」だの「境遇」だので楽した連中には虫唾が走る。才能もないのにひたすら書き殴り、今に至る私とはえらい違いだ。大体、才能が凄いのであって連中自身が凄い訳でもないだろうに───忌々しい奴等だ。
とはいえ、依頼人の評判もある。確かに、「惨殺死体」はやり過ぎか?
窒息死、いや、「食べ過ぎによる救急搬送」とかで、下半身付随にしておき一生、歩けもしなければ動けもしない程度に済ませるべきか••••••考えてみれば、別に、この男を「殺せ」と依頼を受けた訳でもない。
「なら、どうする? このままここに縛っとくのか?」
「いいや、俺に考えがある」
言って、犬千代は男の縄を外した。
そして───
2
万雷の喝采ほど、忌々しいものはない。
というのも、そんなもの受けるのは「恵まれた持つ側」であって、私のような反対に位置する悪にすれば、恵まれた豚の鳴き声なんぞ喜ぶ部分が存在しない。
だが、私は拍手をした。依頼人が見ていなければ舌打ちして唾を吐き捨てるところだが、生憎、我々はステージの前だ。
余計なことを••••••関係者だからと近くの椅子に案内するとは───もしや、遠回しな嫌がらせか!?
なんて性格の悪い歌姫だ。
私に言われたらお終いだぞ!!
さて、ストーカーがどうなったか? そこは簡単だ。彼は一物を切り取られ、今は南にあるセント・キアラ精神病棟にいる。というのも、すぐさま官憲に引き渡したものの、他の罪状を加えたからだ。
まず、私が依頼人の部屋を荒らしておく。そして(関係ない)マネージャーとやらを背後から闇討ち。それもこの男がやったことにしておき、更に複数の罪科を加えておいた。
具体的には、近場で起こった銀行強盗や放火犯、我々の知る愉快な仲間たち───主に、法と倫理を失った彼らの仕事を、この男の手柄にしただけだ。
我ながら最高のアイデアだ!! 最初は、部屋を襲われた体にしようと、犬千代が言っただけだった。しかし、そこは私だ。どうせなら、他にも仕事自体はあるのだから、いっそ「全ての手柄」をくれてやるだけで出てこれない。
しかも、我々のアリバイは証明される、という訳だ。
なので、いけ好かない歌に対する拍手も、思いのほか機嫌は良いままだ。何なら、花の一つでもくれてやれる。
利益も大きかったからな••••••代役を求める組織は多い。
実際、実行犯として「捕まる役」を売り渡すサービスは実在する。なので、誰かがうっかりやったとしても、金さえ払えば会ったこともない奴が犯人として出頭する───無論、それなりに値は張るのだが。
だからこそ、良い仕事だった。何せ、タダで幾つかの仕事───要するに盗みだが「安全」かつ「確実」な、仕事の遂行に寄与したのだ。
依頼人も危険が晴れて機嫌良くボーナスを払ってくれた。
世は全てこともなし。
めでたし、めでたし!!
邪道勇者シリーズ
テーマ 非人間讃歌
ジャンル 犯罪ファンタジー
簡易あらすじ
仕事に精を出しただけなのだが、平たく言えばサツには嫌われ衛兵に物を投げられ若い女に手を出そうとすると、エルフ耳の青髪娘にゴミを見る目で見られる物語だ。
分かり易いだろう?
邪道作家シリーズ
テーマ 非人間讃歌(全作品)
ジャンル 近未来社会風刺ミステリー(心などという、鬱陶しい謎を解く、という意味で)
簡易あらすじ
アンドロイドが自我を持ち職を奪い作品すら書き上げる時代───非人間の殺人鬼作家が、作者取材という戦いに挑む!!
当然ながら依頼は嘘まみれ、行き着く先には困難ばかり••••••得られる「利益」が見えずとも、不屈で書き抜いた事だけは「真実」だ。
天上天下において並ぶもの無い、唯我独尊の物語だ───他に書ける奴がいるというなら連れて来い!!
過去未来現在において、唯一無二の「悪意」だけは「保証」しよう!!!
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例の記事通り「悪運」だけは天下一だ!! サポートした分、非人間の強さが手に入ると思っておけ!! 差別も迫害も孤立も生死も、全て瑣末な「些事」と知れ!!!