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保護猫 ミミとモモ。その2

噂の民家、後藤さんのお宅は、緑豊かな住宅街の緩やかな坂道の途中にあった。
塀で囲われた敷地に門を構えた入口、瓦屋根と深い軒先、伝統的な日本家屋のお宅であった。
庭先には手入れの行き届いた緑鮮やかな盆栽や植木がいくつもあり、見るもののこころを和ませた。
「ごめんください」
母を先頭に、夫とともに、私は少し緊張した面持ちでチャイムを鳴らし、後藤さんが出てくるのを待っていたのを覚えている。
「はい」
引き戸が開くと、朴訥で落ち着いた、どこか職人さんを思わせる雰囲気の年配の男性が出てきた。
そしてその胸には小さな子猫が抱かれていた。
ふと見ると玄関から入ってすぐの和室に、あたたかい毛布にくるまった子猫がほかにも3匹ほどいた。その子らは一緒にいる親猫と思われる毛並みのよい猫に身体を寄せて、すやすやと気持ちよさそうに眠っていた。
とても居心地がよさそうだ。
挨拶をすませ、ご縁をいただいたことに感謝の意を伝え、ぜひ子猫を譲り受けたい旨を申し出ると、後藤さんは快く了承してくれた。
聞くと、後藤さんは近所で野良猫が子猫を産むたびに、保護をして里親をさがしているそうだ。
ご自身でも猫を飼っており、愛情深く育てていることが、話を聴いていてよく伝わってきた。


後藤さん宅に来る前に、夫と確認しあったことがあった。
里親になるのは簡単だが、そこから一生その子の人生を責任をもって引きうけ、育てていく。その覚悟を今一度夫婦で確認しあったのだ。
動物がいる暮らしは、自分たちが彼らにしてやれるいくつかのことよりも、遥かに大きな幸せを我々に与えてくれる。その存在にどれだけ心が癒され、多くの愛を授けてくれることか。縁があって我が家に来てくれた子を必ず幸せにしよう、そう心に誓った。

一匹、我々の訪れとともに玄関から勢いよく飛び出していった子猫がいた。奥から出てきた後藤さんの息子さんがあとを追いかけ、盆栽が並べられている板の下からそっとその子を引っ張り出してきた。

「にゃーー」抱かれた腕のなかで、必死に抵抗するように前足をバタつかせ鳴いていたのがモモだった。白を基調とした黒と茶色の三毛猫で、鼻の色はピンク、大きな瞳と形のよい口がなんとも愛らしく、(あ、この子だ)と感じ、この子にしたいと思った。夫も同じ思いだったようで、「この子をお願いします」と伝え、我々は出会ってすぐにその子に決めた。そして、はじめは1匹だけを連れて帰ろうと思っていたのだが、やはりほかの子と身を寄せ合いながら今日まで過ごしていたであろう姿を見ると、どうしても1匹だけを引き離すようにして連れて帰るのは、この子が寂しい思いをするのではないかという思いがよぎり、もう1匹だけ一緒に連れて帰ろうということになった。

結果、この選択をして本当によかったと心から思う。

もう1匹をどの子にしようかと考えていると、近藤さんの腕に抱かれていた子猫がこちらを見て「ニャー」と鳴いた。

顔を見ると、白い毛をベースにところどころに黒い毛が混じっている黒ぶち猫だった。右目が白濁しており、聞くと生まれながらに右目の視力は完全にないという。もう片方の大きな瞳でこちらをじっと見つめていた。ただただじっと。それがミミであった。

「うん、もう一匹はこの子にしよう」

やはり夫婦でともにインスピレーションを感じ、迷うことなくこの子にしたいと強く思った。目が片方見えないことで、この子は多少の不自由をするかもしれないが、我々がもう片方の目になろう、そう思った。

そして晴れてミミとモモを連れて帰ることにした。持参したケージに入れられた二匹はとても不安そうにしていた。しばらくすると今度は身を寄せ合ってじっとしていた。

どうか残りの子たちも、素敵な里親が見つかりますように。そう願い、後藤さん宅をあとにした。

あれから9年、いろんな四季を一緒に生きてきた。今朝も二匹は仲良く身を寄せ合って、気持ちよさそうにお気に入りのカーテンの内側で昼寝をしている。三毛猫のモモは気が強く、いつもミミのご飯を横取りするが、とても甘え上手で人懐っこい。

相方のぶち猫のミミは慎重派で繊細で、とても心のやさしい猫だ。モモにご飯を取られてもそのままでいることも多く、(いつもあとでこっそりご飯をもらっている)片目が見えないということを感じさせないぐらい、もう一方の目で、懸命に生きている。

途中から、彼らにとっては宇宙人にでも映るだろう赤子が一人加わったが、二匹とも嫌がりもせず、やさしく相手をしてくれている。

最近は、夏が近づき夜が明けるのが早く、毎朝4時ごろに起こされるのは正直しんどいが、人懐っこい無邪気な姿を見ると、自然と頬がほころぶ。手のかかる子ほどかわいいというのはこういうことなのだろうなと。

ミミとモモとの縁を運んできてくれた母は、残念ながらもうこの世にはいないのだが、我々は母が連れてきてくれた彼らを、今日も明日も明後日もその命が尽きるまで、大切に慈しみ、愛おしく思い、大切に育てていこうと思う。

最後までお読みいただきありがとうございました。感謝いたします。

YUKI



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