一生忘れない演奏会(務川さんのラフマ3)
演奏が、終わった。
沸き上がる拍手とブラボーの歓声。私は一瞬で涙こみあげ、わけのわからぬ感情の波に襲われていた。やった、務川さん!!! 自分が弾いていたわけでもないのに一緒に緊張し集中し、この感動の旅をしているつもりだったのだろう、解放感のようなものもあった。
おもわずスタンディング。両隣の方々もスタンディングオベーション、後ろからも盛んにブラボーの声が飛んでくる。
務川さんは登場時とはうってかわって晴れやかな表情だ。やりきった、弾ききった、そんな達成感かな。
その顔は神々しいまでに輝いていた!!!!
務川さんのラフマニノフピアノ協奏曲第3番!!! なんというパワーワード。
ずっと待ち焦がれていた。
いよいよ始まると思うと、単なる聴き手の私が緊張していた。
務川さんは闘いに臨む孤高のアスリートのような表情で登場。にこやかさはない。緊張しておられるのか、というより集中力がマックスに高まっているのだろう。あれほどの巨大な作品だ。。
演奏が始まると務川さんらしいすばらしく魅力的な音。最初にこの曲に取り組んだ時、苦労されたようだが、そんなこと微塵も感じさせない。すでに務川さんの細胞一つ一つがこの曲を熟知しているかのよう。打鍵の正確無比・バランス感覚の良さからくる限りなく美しく、透徹した音。単音の強さと雄弁、ものすごい音数の巨大な和音の積み重ねも全く濁ることなく圧倒的な音圧と煌びやかさをもって迫ってくる。
映画のように感情が切なくもりあがるところも甘いロマンティシズムに流れたりしない。ラフマニノフがロシアを想って書いたかもしれないメランコリックな旋律も感情に流され過ぎず、詩的で瞑想的。知的な演奏と言えるのかもしれない。しかし、曲のパワーを伝える意志の力は圧巻の迫力、そして所々の弱音の速いパッセージは夢のようにはかなく陶酔的。ラフマニノフの感情の揺れを見事に伝える、務川さんがこの曲に初めて出会った頃の瑞々しい感動をそのままに。。
弾くことでしか見えない世界はどんなものだろう?今日もまた務川さんは新しい何かをステージで発見しただろうか?
しだいにこの困難ながら魅惑的な旅の終わりが近づいてきた。。終楽章のコーダを前にさらにギアを上げる務川さん、オーケストラとともに高らかに勝利宣言!!!(😭)
務川さんの全身全霊を捧げたかのようなこの曲への献身を、一生忘れないし、私の宝物としてずっと心に抱いて生きていく。後の投稿で務川さんは仰ってた。「弾くのが怖くて逃げ出したいとと思うほどすごい曲。でも終わったあとこんな感覚が味わえるなら、また何度でも弾いていきたい」生演奏はそのとき一度きりのものだけど、私もまた何度でもその感動の一端を共有できますように、と祈った。
私も…がんばらねば…
(2024/8/11 於ミューザ川崎シンフォニーホール ラフマニノフ『ピアノ協奏曲第3番』藤岡幸夫/指揮 東京シティフィル 務川慧悟/pf)
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