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【回想詩】階段(No.31)
東京駅の新幹線下りホームに
エレベーターがない
時代があった
ソバージュの髪を
気に入っていた
あの頃
車椅子の知人に同行しての帰り
出迎えの駅員は
たった一人
ホームに上がるには
階段しかないのです
少し遠回りしますが
お時間は、まだ、大丈夫ですね
そして
荷物専用の大きなエレベーターで
地下に降り
眩しい空間に出た
そこは
新幹線が整然と並び
すっぽりおさまっている
明るく広い不思議な空間
少し自慢気な駅員の顔と
興味のなさそうな知人の横顔と
どうやってホームに出たのかは
もう、覚えていないけれども
不思議でわくわくする映像だけが
記憶のスクリーンに映し出される
知人との初めての泊まり
トイレに着替えにお風呂に食事…、
いつもは介護者二人でこなしていた
日常の動作の数々
その時は
知人とわたしの二人三脚
車椅子に乗ったり、降りたりも
知人に残された僅かな筋力が頼み
きっと、お互い心の中で
もうちょっとだから、頑張れって
叫んでいたに違いない
お風呂は汗を流したのか
汗をかいたのか
よくわからなくなった
駅の長い階段の前では
協力を求めて声を掛けた
車椅子で街に出る
至るところにある街の障壁を
知ってもらう
大切な試み
それは
命を預ける試み
でもある
必ず、応えてくれる人がいた
ときには
あまりの重さに、慣れない動作に
擦り傷や切り傷、あざを
負わせていたかもしれない
東京駅地下の明るく不思議な空間
久しぶりの社会科見学のようで
秘密基地に案内されたようで
弥次喜多珍道中の
思いがけないご褒美
西に向かう新幹線に乗り込んで
車両の端の
荷物置き場のような狭い空間が
わたしたちの特等席
プハーッと缶ビールで乾杯した
フォロワーの“ミズノさん”が、自らの執筆テーマにとりあげた「100のお題」。
選んだ言葉たちが面白くて、これって絶対自分では思いつかないやつ(笑)というのもあって、“いっちょかみ”することにしました。
タイトルの番号は、「100のお題」の番号です。