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【感想詩】朝の海を背に立つ−映画「最後の乗客」−
伝えたいことがあった
あの日
あの場所で
あの人に
まだ、また、があると思っていたあの時に
それは
伝えておかなければならなかったこと
だったのだと知る
おはよう
ありがとう
さようなら
ごめんなさい
そして、きっと
大切な思いは
それぞれの胸にあって
波に呑まれた
忘れたくないのは
あの日ではなく
忘れたくないのは
あなたがいたということ
聞きたいのは
あなたはなぜ、
今、ここにいないのかということ
その日から変わってしまった
わたしを追い込むのは
その日が
忘れてはならない日に
なってしまったこと
わたしの中の傷や葛藤が
わたし自身のものになる前に
受け入れなければ
受け入れられない
受け入れる日がくるのだろうか
増えるのは手首の傷ばかり
伝えたい言葉を、夢の縁に掛け
寄り添う夢の形に答えを求め
朝の海を背に立つ
「最後の乗客」
監督 堀江貴
内容 東日本大震災から10年経ったある夜、タクシードライバーの遠藤は、若い女性と、母子連れの客を乗せる。行き先はいずれも、被害の大きかった浜町。目的地でそれぞれが見つけたものは。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
災害や事件、事故が起こるとき
忘れがちなのは、
直面したひとりひとりにとっては、
それらは、とても私的なできごとなのだ、
ということ。
社会的な問題ではない、と
言っているわけではない。
社会的に解決していかなければならないことはある。
だけど、直面した一人一人にとって、
その葛藤は、とても私的な領域なのだ、
とわたしは思う。
だから、わたしたちは、繰り返し
その傷が疼くまま
その葛藤が続くまま
伝え続けようとする。
その傷を
その葛藤を
ストーリーにして
受容しようとする。
生きている者だけでなく、
死者の傷も、その葛藤も。
映画のエンドロールに
映し出された、
まだ、引き取り手が現れない写真の数々。
特定非営利法人「おもいでかえる」に集結したボランティアの方々が
泥を払い、丁寧に洗浄し、乾かし、
印画紙に刻んだ時間も
泥に覆われた跡も、
なまなましく留めたままの写真。
海に呑み込まれた言葉たちが
色素も疎らなその印画紙の上に
貼り付いているように見えた。