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2泊3日 阿久根市地域おこし協力隊が行く 〜和歌山県"雑賀崎"の魅力発見〜

1日目

こんにちは!阿久根市地域おこし協力隊の齊藤です。

鹿児島県阿久根市に移住して半年が過ぎ、当たり前になりつつある日常から飛び出し、地域おこし協力隊の活動である”空き家対策”をより深く学ぶため、空き家改修の参考になる街へ視察に行ってきました。

目指すのは、和歌山県の小さな漁港の町”雑賀崎(さいかざき)”。人口約1,000人のこの街は、漁港と狭い路地と坂道が交差する、美しい風景と独特の文化が息づいている場所です。そこで見ることのできる景色や、雑賀崎という地域で過ごす人たちの”暮らしの工夫”に触れてきました。
視察の目的は、"空き家対策"や"地域活性化"など阿久根にも応用できる地域活性化のヒントを得ることでしたが、実際に歩いてみると、予想を超える発見と感動が待っていました。

"雑賀崎"という文字が見えてきました。

和歌山駅からバスを経由して、30分ほどで今回の目的地である雑賀崎へ到着しました。バスを降りると、複雑な迷路状に広がる狭い道がいくつも枝分かれしていて、少しひらけた場所に進むと写真でしかみたことがなかった、雑賀崎の街並みが目に飛び込んできました。港と斜面に並ぶ家々。その景色は噂通り、イタリアの"アマルフィ"のようでした。

"雑賀崎" はじめまして。

まずは今回の宿泊所である"リラ・ジャンテ"にチェックインをしようとGoogleマップで経路を表示させても、不思議なことに、目の前のはずなのに、すごい遠回りをさせられそうになりました。これだけ細い道だと道として認識されず、ある程度の方角、場所を示すこと以外マップが機能しないことを痛感しました。

ここはどこ、、、?
一息つこうと、カフェ"Le Vogue(ルボーグ)"に入りました。
"Le Vogue(ルボーグ)"の店主浅井さん。

その後、今回お世話になる、雑賀崎で生まれ育ち"特定非営利活動法人さいかざきポッセ"の清水さんと連絡がつながり、本日の宿泊先である"リラ・ジャンテ"に無事到着しました。

この場所は、空き家をリノベーションした"お試し移住住宅"で、地域の活性化プロジェクトの一環として運営されおり、部屋はどこか温かみのある雰囲気でした。

壁はワークショップで地域の方と作り上げたそうです。

チェックインを終えてから、さっそく街を探索しました。改めて見てまわると、雑賀崎は迷路のような街で、人がすれ違えるくらいしかない狭い路地が複雑に入り組み、一歩進むごとに繋がる新しい発見があって、どの道も違った表情を見せてくれました。

道幅が狭いだけでなく、坂道や階段が多い町並みは、「ここで暮らすのは大変そうだ」と思わせる一方で、建物の作りや石垣を見ると、住んでいる人たちが工夫しながら生活を楽しんでいる様子が伝わってきました。

素敵な壁の前でパシャリ📷

その日の夕食は、地元の食堂"スハネフ14-1"でいただきました。途中お店の方が作った煮物もおすそ分けしてくださり、その温かさに胸がいっぱいになりました。こうした地域の人々との小さな触れ合いが、雑賀崎の魅力の一つなのだと感じました。

"スハネフ14-1"とは鉄道車両の種別を表す記号にちなんでいるそうです。

歩き回ったせいで疲れもありましたが、心地よい疲労感とともに、雑賀崎での最初の日が終わりました。この街が持つ独特の魅力や生活の工夫に触れた1日であり、雑賀崎と阿久根の相違点・共通点を考えるきっかけを与えてくれる貴重な時間でした。

2日目

朝7時、私は神社から聞こえる鐘の音で目を覚ましました。鐘の音には清々しさがあり、静かな街の中に響き渡るその余韻が心地よく感じられました。外に出てみると、ひんやりとした潮風が感じられ、雑賀崎の新しい一日が始まりました。

気持ちいい目覚めと共に街の散歩に出かけることにしました。残念なことに火曜日のため雑賀崎の漁港は休みで、船は動いていませんでしたが、その静けさがかえってこの街の生活感をより強く感じさせました。

本当に通って大丈夫?

坂を上っていくと、雑賀埼灯台にたどり着きました。雑賀崎の街並みを上から見ることはできなかったのですが、遠くには紀伊水道が広がり、海面が朝の光でキラキラと輝いていました。

その後、宿に戻り、朝ごはんに"たこ焼きよしや"の1パック300円のたこ焼きを買いに行きました。お店のおばあちゃんにたこ焼きを焼いてもらいながら、「この街で特に見るべき場所はどこか」と尋ねると、"レモンの丘公園"や"うみまち食堂うらら"など、いくつかのおすすめスポットを教えてくれました。

雑賀崎に行ったら是非ご賞味あれ。

この街の魅力は、ただ歩くだけでも十分楽しめるところですが、その裏にある人々の生活の大変さにも改めて違う視点で気づき始めていました。迷路のような街並みは訪れる人にとっては新鮮で楽しいものですが、住むとなるとかなりの不便さを伴います。車を止める場所がない家が多く、郵便局やヤマト運輸、佐川急便などの配送業者が荷物を運ぶのも一苦労だと聞きました。この地形と生活の制約の中で、住民たちはどうやって暮らしているのだろうと考えさせられました。

漁港に降りて清水さんと合流し、昼食をとることになりました。昨日訪れたカフェ"Le Vogue"でオムライスをいただいた後、"ガットブル"という場所を訪れました。地元の観光スポットや歴史資料館として、一昔前には地域交流施設として注目されていたこの場所は、地元の人たちの努力が詰まった空間でした。現在は一時閉店していますが、雑賀崎の中心に位置するこの場所は、改めて地域の憩い場や観光地として再び日の目に浴びるだろうと思い、今後の活用に期待が膨らみます。

ガットブルを背景に。
"ガットブル"とはイタリア語で"幸せの青い猫"

"レモンの丘公園"にも向かいました。この公園は、その名の通りレモンの木が植えられており、海を望む絶景を楽しむことができます。旧雑賀崎小学校の跡地だったこともあり、地域の方たちの思い出の場所ともなっているそうです。

レモンの丘公園から見る"雑賀崎の街並み"

その後、清水さんの紹介もあり海辺の便利屋”ゴローさん”の元へ向かいました。黄色いつば付きの帽子をかぶったゴローさんは、とても気さくな方で、地元のいろいろな話を聞かせてくれました。特に興味深かったのは、「帽子が街の宣伝になる」という話でした。歩くしかない街だからこそ、ちょっとした外出でも目立つことが重要だと言います。”海辺の便利屋”と”黄色い帽子”のイメージは確かにどこの町にいても印象に残りそうだけれども、雑賀崎という町だからこそ、こういった小さな行動が街全体に影響を与える様子を垣間見た気がしました。

黄色い帽子がトレードマーク。

ゴローさんが便利屋をしていて、よく依頼がある"双子島荘"や"トンガの鼻"などの観光スポットにも連れていってもらいました。

双子島荘の前では、看板猫が愛らしく迎えてくれました。

後ろの壁画はもしや、、、?
やはり看板猫さん!

雑賀崎にも至る所に溢れている猫たちは、阿久根にも似た港町らしい自由な雰囲気を象徴しているようにも感じました。

ゴローさんと解散し、一通り雑賀崎の観光スポットをみて回ったのちに、今日の宿である"新七屋(しんちや)"にチェックインしました。

場所はリラ・ジャンテの目の前。

この宿もまた、空き家をリノベーションして作られた施設で、漁師さんが経営する民泊という、他の街ではほとんど見かけることのない珍しい民泊の形で、地域活性化の象徴の一つです。

細部までこだわったお宿"新七屋"

宿泊所から港へ、街中から宿泊所へと何度も同じ道を通ることで、意外にもリラ・ジャンテと新七屋の前は人通りが多く、この場所に繋がる道は雑賀崎のメインストリートなのかもしれないと思いました。

夕方には、雑賀崎での経験を振り返りながら、反省会と阿久根での展望を語る時間となりました。この街は不便さを抱えながらも、その中に可能性を見いだしている場所だと感じました。阿久根にも清水さんのように、ずっと雑賀崎にいて、地元を発展させようとする方や、ゴローさんのように、”便利屋”ができる方がいたら、街が盛り上がるかもしれないと考えるとワクワクしてきました。

夕食は地元の"うみまち食堂うらら"でいただきました。新鮮な魚を使った料理は絶品で、この街の海の恵みを実感しました。この食堂を切り盛りしている池田さんは”新七屋”の経営もしており、漁師さんが経営する民泊の面白さや、雑賀崎の海で活動する漁師さんならではの「なぜ雑賀崎の漁業が変容していったのか?」「雑賀崎の魚事情」などお聞きする事ができました。

この日は、雑賀崎の持つ多様な顔に触れた一日でした。迷路のような複雑な街並み、港の静けさ、そしてそこで暮らす人々の生活。それらが絡み合って生まれる雑賀崎にしかない魅力を感じた二日目でした。

石鯛・マゴチ・うまづら・真鯛・アカハタ。
池田さんご夫婦、ごちそうさまでした。

3日目

朝7時、再び神社の鐘の音で目を覚ましました。少し名残惜しい気持ちとともに、朝の支度を済ませ、荷物をまとめました。

賑わう前の"雑賀崎港"。

この港では15時頃に市場が開くと聞いていましたが、帰りのスケジュール上、その賑わいを見ることはできません。それでも、2日目の朝とは違い、ほとんどの船が港にないことから雑賀崎の日常である賑わいがこれから始まるのだろうと、雑賀崎についてまだまだ知らないことだらけだと感じました。

港から見る"雑賀崎"

名残惜しさとともに再び"たこ焼きよしや"で朝ごはんにたこ焼きを買い、おばあちゃんに紹介してもらった場所に行ってきた話や、また雑賀崎に来ることを伝え、帰路につきました。

また来ます。
10個入り300円。

ここまでが雑賀崎で過ごした濃い充実した3日間でした。雑賀崎という地域ならではの迷路のような路地、坂道に寄り添う家々、漁師の生活が溶け込む港の風景。それらすべてが一体となって、この街独特の温かさを作り上げていました。その中で、阿久根市と雑賀崎の似ている点、そして異なる点を通じて、地域の課題と未来への展望が見えてきました。

雑賀崎から得た学びを阿久根へ

雑賀崎の迷路のような街並みや生活の不便さは、観光客にとっては魅力的な体験として映ります。一方で、その不便さを補う知恵や工夫が街の文化として根付いている点に、この街の強さを感じました。この学びを阿久根にどう応用できるかを考えました。

漁港の景色が語るもの

雑賀崎では、漁師が直接販売を行う港の仕組みが街全体の活気につながっていました。阿久根とは違い”トロ箱”がなく、すっきりとした港の風景は、効率的でありながらも温かみのある独自の魅力を生み出していました。屋台のようなスタイルで行われる直接販売は、港そのものがお祭り会場のような雰囲気を感じとりました。

"トロ箱"がなくすっきりしている港。

直接販売の可能性

雑賀崎のように、漁師と消費者が顔を合わせる仕組みは、仲介業者が1社しかいなくなったことでせりがなくなり、今の形に落ち着いたという事例は少なく、今後の地方において、仲介業者が減っていくことが予想されている中で、雑賀崎は先進的な事例になっていくのではないかと考えられます。

阿久根市では、現在"せり"を中心とした市場取引が主流であり、広域流通の強みを持っています。しかし、観光や地域住民とのつながりという観点では、雑賀崎の直接販売が示すような柔軟な仕組みが求められます。昨年度から阿久根新港で行われている"おはよう市"のような形で、さらに発展させることができれば、漁師が直接魚を販売する体験型イベントも作ることもできるのではと感じました。港が単なる流通拠点から、地元住民や観光客が集う"交流の場"に変わる可能性があります。

そうなっていくのであれば、阿久根でも一部の港で試してみる価値があると考えます。このような取り組みは、地域と消費者のつながりを強め、港そのものを観光地としての魅力を高め、新しい形での漁業が生き残る手段となると考えられます。

どこか見慣れた景色。

お試し移住住宅の可能性

この視察を通じて、雑賀崎の"お試し移住住宅"という取り組みにも改めて多くの学びを得ました。地域の空き家をリノベーションし、訪れる人々にその街の暮らしを一時的に直接体感させるこのプロジェクトは、阿久根市にも移住者を増やす取り組みとして必要なものであると感じました。

阿久根市でもこのような"お試し移住住宅"を導入することで、地域の魅力を実際に感じてもらい、将来的な移住や定住を促進することができるのではないかと感じました。空き家を地域の資源として活用し、訪れた人々に阿久根ならではの生活の工夫や温かい人々との交流を提供することで、地域の価値を再発見する機会を作りたいと考えています。

地域の顔をつくる

阿久根にも雑賀崎のゴローさんのような"地域の顔"が必要だと感じました。地元の文化や特産品を体現するような人物がいれば、その存在だけで街にストーリーが生まれます。また、その人物を中心にしたイベントや活動が地域のシンボルとなり、観光客にも強く印象を与えることができるのではないかと考えます。

日常を観光に昇華する仕掛け

直接販売や迷路のような街並みといった、雑賀崎に住む人々の日常生活そのものが観光の一部になっていました。阿久根でも、地元の生活文化を体験型の観光として発信することで、新たな魅力を創出できると考えます。例えば、せりの見学会やトロ箱を活用したアートイベントなど、阿久根ならではの観光資源を掘り下げることができるのではないかと思います。

地域の愛着が生む活力

雑賀崎の住民たちは、自分たちの街が好きなのだろうと感じました。それはお会いした清水さんやゴローさん、池田さんとの会話の中や、街中で出会う人々の表情からも強く感じられることでした。迷路のような不便な街並みや、車を停める場所すら少ないという制約がある中で、それらをただの「不便さ」と捉えずに、地域の個性として受け入れているからこその地域の人たちの強さだと感じました。この姿勢が、外から来る人々にも「この街は特別だ」と思わせる理由になっているのではないかと思います。

阿久根にも豊かな自然や特産品、そして温かい人々がいます。しかし、地域住民自身が「なんでこんなところに来たの?」と自虐的に語る場面が少なくありません。その背景には、地域の魅力を見慣れすぎてしまったがゆえの意識の低下があるのかもしれません。雑賀崎の住民が持つ誇りの強さを参考にしながら、阿久根でも住民が地域を再発見し、誇りを持てる仕掛けを作ることが必要です。それが、外部の人々に阿久根を「特別な場所」と感じさせる事ができ、「また来たい」と思わせる第一歩となるはずです。

今回の視察では、たくさんの方々に温かく迎えていただき、心から感謝しております。特に清水さん、五郎さん、池田さんをはじめ、出会った皆さまの親切なおもてなしと、街の魅力を惜しみなく教えてくださったことに、深く感謝いたします。雑賀崎での時間は、阿久根市の未来を考える上で貴重な学びとなりました。雑賀崎のさらなる発展を心より願っております。

これからも雑賀崎で得た経験を活かし、地域の発展に尽力してまいります。本当にありがとうございました。

雑賀崎の写真集

まるで"アマルフィ"。だけど"雑賀崎"にしかない魅力。
雑賀崎の1番の大通り
港町=猫
二子島
足赤エビ?
"足赤エビ"の正体はクマエビでした。
スハネフ14-1から見える夕日。
港町=猫 2
火曜日休みの港。
見慣れた漁港の景色。
ゴローさんの自宅から雑賀崎を一望。


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